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求める先に  作者: 星葡萄
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第二十八話

異界の扉が開くに備え、ゼロと悟が出て行った誰もいない薄暗い部屋。

そのモニターには奇妙な映像が出ていた。

ブツンと接続を切って再び繋ぎ直したような黒い線が数秒画面を覆ったかと思うと、そこには、仙人のような長く真っ白な髭と眉をした老人がチラリと画面を横切った。

まだここにいる誰もがその存在に気付いていないかのように・・・








「ねーえ、サマンサ。いいこと教えてあげようか?」

ゼロが不敵な笑みを浮かべながら、特殊な液体の入ったガラスケースに、裸のまま様々なコードに繋がれたサマンサに囁いた。

サマンサは苦しそうに苦痛に顔を歪ませながら、静かに視線をゼロの方へと向けた。

どうやら体は自由に動かせないらしい。

「君のお兄ちゃんが近くに来ているよ。そう、君を捜してさ。」

それに反応したかのように、ゴボリとサマンサの口から大きな空気の玉がいくつも吐き出された。

「ふふ、そんなに嬉しいの?もうすぐウィルに会えることが・・・。」

自由に身動きの取れない身体を無理に動かそうと、サマンサは液体の中でもがく。

「ああそうか・・・、君は知らなかったんだよね。

ウィルはあの時死んでなかったんだよ。すっかりボクも騙されてたけどさ・・・。

話によるとぴんぴんしてるみたいだよ?よかったね。」

ガラスケースの中で苦しそうにもがくサマンサの様子を腕組したまま愉快そうに眺めながらゼロはゆっくりとすぐ隣にある赤いボタンに右の手を伸ばした。

「でももう時間だよ。」

プツと出っ張った赤いボタンが陥没すると同時に、サマンサに絡み付いていたコードがするりと解けた。そして、水位がみるみると下がり始める。

「会うことは叶わなかったけど、ウィルの無事を聞いて、心置きなく逝けるだろ?」

ガラスケースの底で力無く横たわるサマンサを見下ろす。

コードの繋がれていたあちこちの箇所から、紅い血液が流れ出し、彼女の目からは涙流れ出していた。

ゼロはドアの近くに立っている黒のスーツに身を包んだ男達に目配せする。

「大切な生贄だよ。異界の扉の前まで大切に運んでね。」

クルリと身体を翻すと、部屋の隅へツカツカと歩いていく。

黒服の男達に毛布で包まれ、抱きかかえられるサマンサは虚ろな目で口をパクパクさせる。

(や・・・、やめて、ゼロ・・・・、あんた兄貴に何するつもり・・・・?)


隅の椅子で足を組んだまま眠りこけている小柄な男の前に立つと、静かにその肩を揺すった。

「800号。時間だよ。」


「・・・・ん・・・・?」


「異界の扉が開くときがきたんだ・・・・・。参加者をそろそろ潰しにかからないと。

そろそろお前も身体を動かしたいでしょ?」











「ギャアアアアアア!!!」

辺り一面に響き渡るような叫び声。

驚きすぎて声にもならないと言った感じで、いい具合に声は裏返り、その声に耶江は逆にドキッとしてしまった。

ウィルが耶江の後方で腰を抜かしている。

瞬時に耶江が振り向き弓を構える。


・・・と見るやその光景に唖然とする。


すっかり腰の砕けてしまったウィルの目の前に立ちはだかっているのは、100をとうに越してしまっているような老人。しわくちゃになった顔には真っ白な長い髭と長い眉。目もちゃんと見えているのかも不思議なところだ。ただ、背筋だけは老人とは思えない程ぴんとしていた。


「だ・・・誰!そのおじいちゃんっ。」

耶江が弓を構えたままウィルに訊ねる。

「し・・・知らねえよ!!っていきなり音も気配もなく目の前に現れたんだぜ!?

化けもんかと思ったじゃねえか!!!!!」

ウィルは立ち上がると、パンパンと尻についた砂埃を払い落とす。

「なんじゃ、いい若いもんがすぐに見っとも無い大声出しおって。

大したこと無いのぉ〜〜〜〜〜〜。」

しゃがれてほとんど咳のような声で老人が嘲笑う。

「・・・んだとこのジジイ!

こんの死に損ないっ、こんな場違いのとこで何してんだよ。この島はハワイやグアムと訳が違うんだぜ、死んじまうぞ?」

「ふぉふぉふぉ、そんなこたぁわかっとるわぃ。

まだまだワシも若いもんには負けんでのぉ〜〜〜〜〜。」

老人は腰の後で両手を結ぶと、すーっと音も無く耶江の元へと歩み寄る。

「ところでお譲ちゃん、ちょいと訊きたいんじゃが、このあたりで前髪を赤く染めた若者に会わなかったかね?優牙というんじゃが。」

耶江は警戒しながら弓を構えたまま後退りする。

「そんなに警戒せんでおくれ。別に何も攻撃を仕掛けたりはせんよ。

ただ、ちょいと人を捜しておってな・・・・。ワシの愛弟子じゃったんじゃが・・・・。」


「じいさん、俺はその子とずっと一緒に行動してきたが、そんな奴見なかったぜ?

ほんとにここに来てるのか?」


「ああ・・、そうかい。時間を取らせて悪かったのぅ。」


老人はまたすーっと音も無く、薄暗いトロッコのレールが続く通路に消えていった。






「・・・・あのおじいちゃん、ただ者じゃない・・・・。」

耶江がぼそりと呟き、ウィルがその横顔を不審そうに見つめる。

「え・・・?」



「私、全く気配を感じなかった・・・・・。

こんなにも常に警戒してるのに・・・。完全に気配を消していたのよ・・・・!」

ウィルも今更ながら手の平に湧き出る汗を感じていた。





「ぎゃああああ!!!!」

ウィルが再び大声を上げる。

「もう!今度は何!いちいち大きい声出さないでよ!!」

耶江が振り返ると、青褪めてあからさまに後退したウィルの前に先程の老人がまたもや立ち塞がっていた。

「ちょっと先まで行ったもののな、どうもここの地形には詳しくなくてのぉ・・・。

道案内してはもらえんかの?」


「こ、この人今あっちに行ったわよね!?

一体どっから現れたの!?一体どうなってるのよ!?」


「ふぉっふぉっふぉっ、いやはや、年寄りはどうも頭が鈍くてのぉ〜〜。」


「し、知らねえよ!俺が聞きいよ、ホントに!」


老人は髭を2、3回撫でると、コホンと咳払いをした。

その瞬間、ふっと耶江が横に目線をやると、瞬時にその眼前に老人が移動した。

明らかに先程立っていた場所から3メートルはある距離。瞬きする間に移動可能なものではない。

「・・・!!!!!!」


「それとさっき訊き忘れたんじゃが、龍司という名の若者にも会わなかったかね?

こいつはワシの曾々孫でのお、数年前に先程の優牙と修行中に大喧嘩しおってな、家を飛び出してそれっきりなんじゃ。」

老人は困り果てたように苦笑いをする。

「・・・りゅ、龍司?」

武器を構える暇も無かった耶江だったが、思わず口を開く。


「そいつなら知ってるぜ。つい最近まで俺達と一緒に行動してたからな。」

ウィルが老人に言った。


「そうかい、やっぱりなぁ・・・・、予想は当たっとったみたいじゃな。」


ゴクリと唾を飲み込み、耶江がやっとのことで切り出した。

「おじいちゃん、ここに一体何しにきたの?」

老人は再び髭を2、3回撫でた。

「そうさなあ、あの2人を連れ戻そうと思うてな。

跡継ぎがおらんとなると、ワシも死のうにも死ねんでなぁ・・・。」


「あ、跡継ぎぃ!!??」

耶江とウィルが声揃えて叫ぶ。


「ああ、紹介が遅れて悪かったのぉ。ワシは”シャオ・リュウ”じゃ。

国籍は気にせんどくれ。ま、迷惑は掛けんでの。ワシのことは空気と思うてこれまで通り2人で進んでいっておくれ。」


「空気ぃ〜〜〜!!??」

声を揃えたまま二人は顔を見合わせた。

まさか、とんでもない仙人がオマケとして加わるとは。




 しかし、刻々と異界の扉が開く時間が迫っており、

2人にはあまり時間が残されていない。

 

 そして、ウィルはまだ、サマンサの無事を知る由もなく、その彼女の身に、再び危険が迫り来ることにまだ気付いてはいなかった。


   

    


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