第二十七話
夕日は怖い。思い出すから。あの日の空がいつも窓から見ていた赤より、異様に不気味に赤々と、まるで辺りの血塗られた雪をそっくりそのまま映し出している様な。この世と天は血と血で繋がっている、そんな感覚を――――――
早瀬にTDCへ一緒に来るよう言われた時も何の抵抗も無かった。どのみち、もうあの場所には居れないし居たくも無かったから。まあ、目が覚めた時は既にトーキョーの地下研究室内の手術台の上だったから、逃げようにも逃げられないか。その後も、しばらくは自分が正しいと信じて疑わなかった。自分に間違いなど有り得ないという病的錯覚が棲みついていたからである。
でも、ある日ふと気づいた。そんな自分を心の隅でポツンと一人うずくまって、憎悪の満ち満ちた目でキリキリと、熱く、冷たくボクを睨み付ける誰かに。脳内に埋め込まれた洗脳という名の“病原”へ腐りきった電流を流される度に、そいつは静かに立ち上がり、ボクと一度も視線を逸らす事なく真直ぐ歩み寄って来る。決まって激しい頭痛が始まる。そして、ボクは意識的に気を失う。そいつの顔が見えてしまうから。でも、解ってた。そいつは紛れも無くジョシュアなのだと。・・・ボクは、ジョシュアと、あの頃毎日のように一緒に大笑いしたボクだけが知ってるジョシュアと、ただ一緒に居たかっただけなんだ。だから、彼から一つ自由を奪った。なのに・・・・・・。そこに居たのは、ボクが一緒に居て欲しいと願っていたジョシュアではなく、ボクの知らないジョシュアだった。
しかし、ある女性に会って実はそうではないと考えるようになった。心の隅にある見えない罪の意識が、実態となって現れたボク自身なのだと。
サマンサ―――今回の101人目の参加者であるウィルの妹。本当ならばTDCの厳重な検査に簡単に引っ掛かっていた筈のウィルが、糸も簡単に通ってしまったのは、裏でボクが手を回していたからに他ならない。
あの飲んだ暮れのどうしようもなかった父も、元々はTDCの開発部の研究所長を任されていた事も始めて知った。しかし、研究によって得た報酬はそのほとんどがTDCのものとなり、父の収入はどれだけ努力しても変わらず、父は自らを破滅の道へと追いやっていったのだと。結局、父もボクも早瀬の野望のための単なる道具にすぎなかったという訳だ。
彼女は、今ゼロの元で監禁されている。早瀬達を混乱させたあのネット新聞の配信も彼女によるものだ。しかし、彼女の行動をゼロ達に見つけ出されるのも時間の問題。まさに命がけだと言っていた。もしかすると、既にゼロ達に見つかり、内容が意図的に修正されている事も十分に考えられる。だから、ボクは一刻も早く彼女を救い出さねばならないのだ。
とにかく、急がなければ!!――――――――
「やあ、久しぶりだね。コワルスキー博士。」
「キーファ・・・・・・!?」(くそ、全く気づかなかった。油断していたな・・・)
コワルスキー博士がよりかかっていた木の反対側からキーファの声。しかし、博士は冷静にそのままの態勢で聞く。
「憶えて頂き光栄であります、なんてね♪君、ゼロを探しているのかい?」
「何故、貴様がそれを知っている」
「しかし、自分独りでは少々不安。違うかい?」
「・・・・・・」
「僕がウィルのところへ案内してあげてもいいけど?」
「何を企んでいる」
「ま、何も企んでいないといえば嘘になるかもね☆でも、安心しなよ。僕もそこまで悪人じゃない。」
「・・・・・・頼む」
「は〜い♪」(おー怖い怖い。コワルスキーから殺気がビンビン満ち溢れている。此処まで来ると逆に心地いいよね・・・)
「じゃ、行こうか」