第二十六話
今、コワルスキー博士の真の目的は、自分が作り出したこの“空間”=“異界への扉”を自ら、破壊することだけに意識を集中していた。
自分が作り出したのは、全てが“魔物”“魑魅魍魎”“混乱”“対立”に過ぎなかった。自分の類稀な能力は、結局はだれかれに利用されただけ。あのTDCは、「永遠の命」を得たいと望み、膨大な研究費を与えてくれた。そして、トーキョーの地下に巨大な研究施設と実験場を提供してくれた。
けれどもそれは人類に貢献するのではなく、自分達企業の利益のために過ぎなかった。もしくは、自分自身の「永遠の命」……。
本当はそんなもののために、自分は研究したのではない。
研究と言う名目で、自分はジョシュアの目をつぶした。大勢の無辜の人々、特に子供達の命を奪った。その屍はるいるいとし、自分の夢の中に常に出てきて、自分を苦しめる。
そのような犠牲の元やっと作り出したゼロは、自分のクローンでありながら、結果自分の“全て”ではない。肉体的にはクローンではあるが、精神構造はまったく別の“固体”に過ぎなかった……完全な失敗作。そう! 完璧なものは、この世には無いのだ。
自分は“女”を捨て、“正義”を捨て、そして「永遠の命」という命題も捨てた。後に残るのは、復讐だけ。TDCに、そしてゼロに、自分自身に。それから、これが最も重要な事柄だが、もう一つの“絶対的なある物”に!
それが出来たら、もう自分の命を捨てても惜しくは無い。ES細胞の成功など、最初からなかったのだ。あったのは、自分の“幻”だけだった。そう、それは幻影……。
ゼロの所に行かなければ、ゼロを破壊し、そしてその背後にある物も破壊する。
あの恐ろしさを教えてくれたのは、サマンサだった。あの、ウィルの妹。彼女を救いに、自分は今行くのだ! 後の者たちなど、もうどうでもいい。彼女さえ救えば。
「2014年ネット新聞配信か……。これでよしっ、と」
「ってそこまで書いていいのかしら、ゼロ?」
「だって、それ、ほんとうだもん」
「あらあら」
と悟は、首をかしげながら、それでもフフフと意味ありげに、微笑んだ。
「狙いはなに? ゼロ? コワルスキーの抹殺? それとも」
「全部は言わないでよ、サトル」
ゼロは優牙との口付けを微かに思い出しながら、舌をペロリと出した。
「あたしの目的は・・・・・・永遠の命を欲しているもの全てを滅ぼすこと。永遠の命は、ただあたしだけの物なのだから」
「ふふふ、嫌な子!」
「クローンはお黙りよ!」
ふふふ、と悟はなおも笑う。
「ねぇ、もうすぐ『異界の扉』が開く頃よ、ゼロ!」