第二十五話
漆黒で満たされた何もない部屋。島に来ている誰も、そう、たった一人を除く全ての人間が存在を知らない空間。
「門番を無傷で倒したか、流石は龍司」
ふふ、と小さく笑う。
「パートナーも悪くない」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
「そう、悪くない……」
笑みを深める。
瞼は閉じ、壁に背を預け、暗闇の中にただ独り。
「見込みがあるのは、十人」
呟き、思い描く。
ナイア、シャオ、コワルスキー、キーファ、悟、ダイアン、パウザ、耶江、龍司、そして優牙(自分)。
十人。
それ以外の者は、出会った時点で排除した。二十人は確実に仕留めているのは間違いない。
「特に、龍司」
薄っすらを目を開く。
ただ暗闇だけが広がる視界の中、ただ一点へと視線を向ける。そこにも、何もない。
「僕と戦った時ですら、全力を出していない」
感情や意思を外へ出しているように見せて、本質的な全てを内側に抑え込んでいる。感情的になる事すら、理性で制御している。
背筋に感じる寒気すらも、心地良い。
龍司と刃を交えた時、優牙は本気で相手にしようとは思っていなかった。
だが、優牙は八割以上の力で相手をしていた。全力とはいかないまでも、そこまで誰にも直撃を受けた事はない。
対する龍司は、半分か、それ以下の力だった。
巧妙に感情を制御し、あたかも全力で敵意をむき出しにしているかのように見せて。自覚すらも制御している。
「次は、耶江か、シャオか」
一度も接触した事の無い二人だが、参加者のデータを見るに、龍司に次いで可能性が高いのはその二人だ。
龍司と耶江が何度か接触した事は知っている。それが互いの『可能性』を高めている事には、誰も気付いていない。
優牙を除いては。
「外からも中からも監視されているこの場所で、真実に辿り着けるのは、誰か」
TDC、ゼロ。全てを監視しているつもりだろうが、それは表面だけのこと。真実だけでなく、嘘の雑じる、外側だけ。
嘘も真実も存在し、それでいて嘘でも真実でもない、全てがある内側を見る事はできない。
そう、内側にいなければ。
「龍司か、耶江か、それとも僕か、全く別の誰かなのか……」
右腕のバンダナに左手で触れる。
壁から背を離し、数歩右へ。壁のある方へと向きを変え、右手で壁を押す。光が差し込み、何も無い部屋を白く照らし出していく。
「刻は迫ってきている」
口元に笑みを湛えたまま、優牙は『内側』へと踏み出す。
答えが出るのも、そう遠くない。