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求める先に  作者: 星葡萄
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第二十一話

「ねーえ、501号。・・・じゃなかったね、サトル・・だっけ?」

大きな社長椅子の背中から、可愛らしい少年の声がする。それは一見、椅子が話しているかのようにも見える。薄暗い中、椅子の黒皮の表面がテレビ画面のチラチラする光に照らされて、一層高級感を醸し出していた。

「ほんっと、偽名使うとか面倒臭いよね。ボクの頭でもこんがらがってきちゃうよ、ハハ。」

四つ足のガラステーブルの上に茶色の革靴を履いた足が組まれている。

「・・・じゃなくて、ボクが言いたいのは・・・。ここまで辿り着けるのは誰だと思う?ってこと。ねぇ、どう思う?サトル。」


「ふふ、そうねえ〜〜〜、今の段階じゃまだわからないけど、ほらそっちの画面に切り替えてみなさいよ。四日目の午後にして、初の山頂到着者が出たみたいよ。」

悟がゆっくりとその椅子のすぐ隣に歩み寄り、ピっとリモコンで画面を切り替えた。

「あ・・・。アイツ・・・。」

ぼそりと呟き、銀髪の少女は右手の親指の爪を噛んだ。

「なんだ、知ってるの?ゼロ。あんたは情報に疎いから知らないとばっかり思ってたわ。」


「・・・・・・。」

画面にはちょうどカメラの真下を横切る龍司と、すぐ後にパウザの姿があった。

何かに吸い付けられているかのように、身動き一つせず見入る銀髪の少女。

「だ〜いじょうぶよっ!ほら、異界の扉を開けた時からがこの企画の本番なんだから。

この先、つまりこの地下研究所まではそう簡単に辿り着けないわ。少なくとも一週間は地下の迷宮をさ迷い、数々の殺人し掛けをクリアする必要があるんですもの。」

悟は不気味にニヤリと微笑みかけた。







「っんだよ、案外山頂まで簡単に来れんじゃねえかよ!

変異生物も二人係じゃ大したことないしよ。しかも異界の扉!?んなもん一体どこにあるってんだよ!!」

吹き付ける強風に押されそうになりながら、龍司が思わず叫んだ。

「この風の音からして、確かにこの周囲に何か建っていそうな気配はないな・・・。」

パウザが見えていないとは思えない程ゆっくりと周囲を見渡した。

山は切り立った崖からなり、その山頂は平たい円形。その直径はわずか五十メートル程である。しかし、話に聞いていた扉のようなものは何も無く、ただ、ごつごつした岩が転がっているだけである。

「くっそ!騙されたってのか!?」

龍司は怒りで熱くなり、こも四日の苦労を思い出してはますます腸の煮えくり返る思いがした。

「まあ落ち着けって。どこかにし掛けがあるはずだ。」

ゆっくりと確かめるように歩き出した。

風の音だけが女の泣き声のように響く。

この独特な形の山に当たって風が鳴るのだろう。

「パウザ・・・?一体何を探してんだ?」

すると、パウザが突然アーティファクトを引っぱり出すと、すぐさま武器に変換した。

咄嗟に龍司もアーティファクトを構えようとするが、それは思い過ごしだった。

パウザは音叉で何やら音の違いを聞き分けようとしているらしい。

「しっ、静かに。近いぞ。この辺りだ。」

パウザがトントンと踵で地を踏み鳴らした。

龍司には何の音の違いも感じられない。

「は?」



ズシャアアアアアアアア!!!!



突如もの凄い爆風と共に一面が砂煙で覆い尽くされた。

(な、何だ・・・!?)

ゆっくりと見えてきたパウザの姿。

そのすぐ真下に、二メートル程の穴と、石の扉が出現していた。それは、どうやらこの山の内部に通じる物のようだ。

「い、一体どうやってこれを?」

パウザが元の結晶に戻ったアーティファクトを翳しながら言った。

「ちょっとばかり降り積もった土をどかしてやったまでだ。」

「なるほどな・・・。へっ、この先か・・・・・」

龍司がそう呟いた瞬間、二人は異様な気配に気付いた。

「!!!!!!!!!!」








『2014年ネット新聞配信

 

 私は、なんとか絶海の孤島に侵入することに成功し、そこで元研究所関係者との接触により、コワルスキー博士が実験経過を書き綴った手帳を入手しました。コワルスキー博士が祖父の代から三代に渡り、不老不死の研究していることは皆さんもご存知のことでしょうが、この手帳の中で、その研究の一環として、クローンを造る実験が幾度となく行われてきたことが新たに明らかになりました。なんと、彼女は一千体にも及ぶ様々なクローンを創り、初期は動物を対象にはしていたものの、三百体を超える頃から、実際に人間を使って実験していたという驚くべき事実が記されていました。

 しかし、クローンの寿命が極端に短いことや、細胞分裂の際に変異を起こすことも珍しくなく、幾度の失敗を重ね続け、とうとう彼女は一千体目に、知能、体力共にずば抜け、そして完璧な自分自身のクローンを作り出すことに成功したのです。博士は、寿命という時間の枠に囚われることなく、不老不死の研究を続けることを望み、自分のクローン、つまり自分自身に実験を引き継がせようと考えたのです。その為、そのクローンには、博士の父が創り出した”ナノマシン”(原子程の大きさで存在する特殊な操作機械)を駆使し、一切の感情を捨て去り、忠実に動くよう脳を操作しました。そしてそのクローンに付けられた番号は”0(ゼロ)。一千体目に関わらず、ゼロという数字を付けた理由は、やはり、これが全ての始まりなのだという博士の思いからなのでしょうか・・・。

 

 しかし、残念ながら、この後のページには、空白のまま何も書かれていないのです。今となっては推測しかできませんが、最近目撃されている博士の情報からすると、極端に若いという話ですので、私はそれはもしかすると博士自身ではなく、クローンのゼロではないかと考えています。

 そうすると、博士自身はどこへ・・・?彼女の身に何か起こったのでしょうか・・・?


新たな謎に、私は再び意を決して挑みたいと思います。


配信者 匿名』








 ギリギリと爪を噛み締め画面を睨み続けるゼロを横目に悟が日本茶を呑気に湯呑みに注ぎ始めた。

「ゼロ?あんたったら心配症ねえ・・・。

大丈夫だってば。あの門にはとてつもなく凶暴な門番がいるじゃない?

あの坊や達だって無傷じゃ済まないはずよ。そう、あの301号と302号の手に掛かればね・・・。」

ゼロが画面、主にパウザから目を離さないまま言った。

「ね、ボクにもお茶入れて?大好きなんだ・・・・。」

「いいわよ。」

「・・・・その渋みがさ・・・・・・・。」

そして不敵な笑みを溢した。


「ところでさ、777号はどうしたの?確か、お前と一緒に行動してたんじゃなかったっけ?」

持っていた湯呑みをコトリとガラステーブルの上に置くと、悟はぷっと噴出した。

「ああっ、ダイアンのこと?あの子なら、今頃この島に迷い込んだ、小さな虫を探しているはずよ。」

「ふ〜〜〜ん・・・・。」



薄暗い部屋の中、ずずずっとゼロのお茶を啜る音が静かに響いていた。

ただ、これから起こることを暗示するかのように・・・・・。




                 

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