LVII. Epilogue
“何の為に生きている?”
その質問に答えてくれる者など誰もいない。
自らが犯した過ちを償おうとした結果、暴走し更なる罪を重ね、最後の頼みも一瞬で消え去った。
過ちを償う為に自分は地獄に落ちて、彼女に会う事もなく――――。
ポツリと何かが当たる感触がした。
体が揺らされるが痛みで動かす事はできない。
ゆっくりと瞼を開き、薄目でその光景を見た。
涙を流す少女の顔が浮かび上がる。
そして、その声も聞き取れた。
「タクロー! 生ぎでぇええ! 私が死ぬまで死ぬなぁああ!」
「……あい……さ……」
彼女が何故泣いているのか分からない。だが、彼女は彼の為に泣いていた。
その事に気づいた途端、彼の目からも涙が流れ始める。
「生ぎで罪を償えぇええええ!」
自分の為に泣いてくれる大切な者の存在。
彼がもっと早く気づけていれば、こんな事態には陥らなかったかもしれない。
“僕が生きている理由は――――。”
◇
数日後。
魔術委員会本部では魔術委員会に対して出資している者による会議が行われていた。出資者の半数が今回の会議は欠席しており、また出資も取り止めると申し出てきていた。
会議の主な論点は今回の件の責任を誰に負わせるのか。
会長が死んでしまい、副会長が裏切った今、責任を負わせる人物が誰もいない。
ならば、いっそのこと死んだ会長に全ての責任があったことにすれば良いと言う意見も出たが、それだと世間の批判は免れないだろう。
また、会長の孫が溶岩を自在に操れる事が世間に知られてしまった今、その事実は世界にとっての脅威でしかなく、国をあげて魔術を今よりも激しく弾圧しようとするに違いない。
そう考えを巡らせた結果、論点は委員会の継続か解散についてに傾いていく。
未だに行方不明である桐島尚紀と福津哲也。
委員会としてはこの二人を放っておくわけにもいかず、この二人を捕まえたら、魔術委員会は解散という事で全員が合意した。
捕えられた柏原哲郎と谷崎一也の処遇は、柏原哲郎は終身刑、谷崎一也は禁錮五年が言い渡された。
だが、半年後には亡霊による告発が原因で現在の魔術委員会は解体され、新しく小野原財閥が仕切る組織に変化し、柏原哲郎だけに責任を押し付けるのには難があると、その刑罰が禁錮二十年に変更された。
◇
三年後。
八月であるはずなのにその地域の気候は少し肌寒くさえ感じる。
荒廃し、崩れ落ちたビルの残骸や戦車などの武器の残骸が転がり落ちている道をゆっくりと身を隠しながら進んでいく日本人。
あちこちで銃声が鳴り響き、黒い煙が上がっている。
どこに地雷があるのかも、どこの建物に銃を持った人が隠れているのかも分からないそんな緊張状態の中、それでも尚、前に進もうとする。
そして、その道はついに巨大なビルの残骸によって遮られ、その日本人の背後には銃を持った外国人の男が銃口を日本人の背に向けて立っていた。
男が自国の言語を話すのと同時に日本人は両手を上げる。
しかしその瞬間、日本人は男の前から一瞬にして姿を消すと同時に、男は地面に倒れて気絶した。
「ここらへんのはずなんだが……」
いつのまにか倒れた男の横にいた日本人はそう声を漏らすと、近くに存在していた巨大な建物に次の検討をつけた。
一瞬にしてその建物の中へと入るのと同時に、中にいた銃を持った男たちが次々と倒れていき、何も武装をしていない二人の日本人だけがその建物の中で唯一、意識を保っていた。
「あんたがその魔眼を使って、この戦争を後押ししてたのはもう分かってる――――福津哲也。桐島尚紀もこの国にいるはずだ」
建物に攻めこんだ日本人の言うとおり、その日本人の目の前に存在するのは魔術委員会元副会長の福津だった。
彼は耳障りな拍手で自分を見つけた事を称賛するとともに、口を開く。
「君がここに来るのは魔眼で視ていた。それなのに、僕が逃げなかったのは逃げたとしても、もう先が無かったからだ。桐島尚紀もこの国にいる。僕らの負けだよ、斉藤敬治くん」
「違う。この国に来たのは斉藤敬治なんかじゃない。魔術師……――――降雷の魔術師だ」
今まで読んでいただいた方々に心より感謝申し上げます。