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降雷の魔術師  作者: 刹那END
IV.森羅万象の王篇
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LI. ×時間切れ

「愛沙……僕は君を――殺さなきゃいけない」

 哲郎の手に握られたのは鋭い氷の刃。

 その刃は溶けては固まるのを繰り返して、夏の暑さでも形を留められている。

「どうして……?」

「その質問は君を殺す理由かい? そうだね……話せば長くなる。君の体が持たないよ」

 そう言って微笑みかける哲郎の表情はいつもの彼だった。

 しかし、愛沙の中の哲郎と同じ振る舞いを目の前の男にはしてほしくなかった。

 自分を殺すと言ったのが、哲郎だと認めたくないから。

「最初から……私と会った時から……騙してたってこと……?」

「いいや。僕は今さっき記憶を取り戻したばかりだから、君と会った頃は素の僕だよ。まあ、今となっては違うからどっちでもいいことだ」

 氷の刃を空に向けて上げる哲郎。

「待って……私のことは……どうなってもいいから……お願いだから、理由を……聞かせて」

 そう懇願する彼女をじっと見つめると、哲郎は彼女の言葉を無視して氷の刃を振り下ろす。

 その瞬間、哲郎は誰かによってその身を倒され、氷の刃は芝の地面に落ちて蒸発する。

「しゃべりすぎだ。お前は」

「眼が見えなくなっても、声で僕の位置を判断したってことね。でも、もう君はそんな眼なんだから戦えないでしょ」

 両目から血を流す自分の上に乗っかった時枝を押しのけて芝の地面に倒すと、哲郎は立ち上がる。

「そして、その眼の……魔術のせいで君はそんな体になった。今、十代って事はもう一周したのかな?」

 地面に倒れた十代の姿をした男を見ながらそう言う。

 二人はかつて親友だった。そして、二人は同じ三十歳。

 なのに時枝だけ十代の姿なのは彼の魔眼の代償が原因だった。

「抜け出せない繰り返し。時を操る代わりに自らの時がでたらめになる。けど、そんな生活とも今日で決別したってことだ。良かったじゃないか。あとは君の中に残った魔力を消すだけ」

 瞬間、地震にも似た地響きがその場にいた全員だけでなく、世界中を襲った。

「愛沙……君はもうすぐ死ぬだろうし、魔術も使えないくらい苦しんでるから、もう僕が殺さなくてもいいや。計画は狂わない」

 氷で固まった無覚魔眼の男を溶ける前に殺しておこうと、ぽんっと手で押して地面に倒す。

 するとその瞬間、氷はバラバラに崩れた。

「あと僕が一番怖いのはこの男や君みたいな魔眼連中かな?」

「――なんや。ようわかっとるやんけ、自分」

 笑みを浮かべた関西弁の男が自らの眼を光らせて、哲郎の方へと近づく。

「君みたいな精神崩壊者ほど、危険な人物はいないよ」

「ようゆーわ。自分も相当頭おかしいで」

 五メートルほどの距離にきたとき、邑久清次はその足を止める。

 それ以上近づけば、自分が不利になると分かっているから彼は足を止めた。

 だが、哲郎の能力は氷の魔術だけではなかった。

 愛沙と哲郎が出会った時に言った、彼の中には大量の魔力があるという事が関係してくる能力。

 三秒ほどの間、彼は目を閉じる。

 そして、次に彼が眼を開けたときにはその眼には円が刻み込まれていた。数は二つ。

 その瞬間、邑久は自らの顔を引きつらせて、目の前にいる男を睨みつけた。

「ナニしたんや……自分」

 必死に目の前の男を自らの眼を使って飛ばそうと試みるが、目の前からその男が消える事はない。

 桐島尚紀に次元魔眼が通用しなかった時のような恐怖が芽生え始める。

「君は何をしようとしても無駄だよ。だって、君の実権は僕が握ってるんだからね」

「自分病院行ったほうがええんちゃうか?」 

 意味不明な発言を鼻で笑う邑久は次の瞬間には自分の顔を引きつらせる結果となる。

 哲郎を見ていたはずの顔が自分の意思を介さずに足元に向けられ、その瞬間、邑久はバランスを崩して地面に倒れこんだ。

 何が起こったか分からなくなる以前に彼は足から伝わるとてつもない痛みにもだえ苦しむ。

「君はもう少し口を慎んだほうがいいと思うね。死ぬ前に直した方がいい」

 そんな哲郎の言葉も耳に入らないほどの痛みに襲われていた。

 邑久が自らの顔を足元に向けた時に何が起こったのか。

 それは今の状況を見ても分かりにくい。

 地面でもだえ苦しむ邑久には右足の膝から下の部分が欠如、消失していた。

 哲郎の魔眼が何かを消失させる能力だったのか。

 答えは否。

 消失させる能力は邑久自身の能力。つまりは、邑久は自分の右足を自らの魔眼でどこかへと飛ばした。

 だが、それは邑久が自分でやった事ではない。

 哲郎の魔眼の能力は――――。

「もう話す気力もないか」

「……自分……俺を見くびりすぎや……」

 歯を食いしばりながら必死に口を開くが、足から流れ出る血液は止まらない。

「いや……見くびってるんは……俺やない……俺たちや……」

 地面に這い蹲りながら苦しむその姿を地を這う虫けらを見るような目で眺める哲郎。

「委員会に見捨てられた……亡霊なめんな……自分……雷怖いんやろ……?」

 その言葉は的を射ており、哲郎は眉をピクリと動かした。

 そう。執拗に愛沙を殺そうとしていたのはこの為だった。

「自分底辺やなァ……雷怖いて……ただん子供と同じや……」

「口が減らないね……すぐに聞けなくしてあげるよ」

「やってみぃ……うちにもでかい雷……おんねん……」

 自分の意思を介さずに邑久は自らの両手を首元に持っていく。

「あいつは……全ての魔術破壊する……――――降雷の魔術師や」

 その瞬間、邑久は自分の手で自らの首を絞めて絶命した。

 戦況は大きく傾いている。

 その要因が柏原哲郎という一人の男の覚醒だった。

「会長は谷崎の時間切れ(タイムリミット)を見越して、桐島尚紀と戦闘中。でも、その選択は間違ってるよ、会長」

 にやりと笑う哲郎だったが、彼もナイフで腹を刺された傷を負っており、氷の魔術で血止めをしているに過ぎない。

 彼自身も時間切れが存在しているという事に気づいてはいたが、計画が着実に進行していることから無視していた。

 彼はその場から移動して谷崎の元へと向かおうとしていた。

 そんな時、哲郎は自らの耳に無理やり入り込んできた轟音に思わず後ろを振り向いた。

 その轟音は雷が地面に落ちた時のような耳障りな音だった。

 哲郎の目に映る電撃を周りに走らせる男。

 その姿はまさに降雷だった。

「あんた……柏原哲郎か……?」

「そうだよ。で……君は……?」

 哲郎の質問に答えることなく、降雷の魔術師――斉藤敬治は周りを見回してその目を大きく見開く。

 すぐさま、まだ息をしている愛沙の元に近寄って屈みながら様子を窺うと、彼女は口を開いた。

「新入生……気をつけて……タクローは多分……谷崎に関わってる……」

 その瞬間、愛沙は眼から涙を零した。

「お願い……タクローを……止めて……!」

 その言葉は未だに哲郎が自分を殺そうとした事を受け入れられていない証拠であり、彼女の頭の中には哲郎との短くも楽しかった日々が浮かぶ。

 その思い出を無に帰すことはできなかった。だから、“止めて”という言葉を選んだのだった。

 屈んでいた体を起こして、再度、哲郎を見る敬治の眼差しは鋭かった。

「あの谷崎の創り出した結界……あんた壊せるんだろ? なら、今すぐやってくれ」

「断る。と言ったとしらどうするつもりなんだい?」

 その瞬間、敬治の周りの電撃の量が上がった。

「全力であんたが間違った方向に進むのを止めてやる!」

「……君こそ間違えてるよ。止めるべきは僕じゃない。僕を止めようとしている連中全員だ。

 何も知らない君たちは自分たちが正しいんだと思い込んで、間違った道に進んでいる。その事に気づくにはやはり、僕たちの計画を知る必要があるのかな……」

 ため息を吐く哲郎。

「君に計画の邪魔をされては困るしね。さて、どこから話そうか……まずは谷崎の動機から話した方がいいか……

 彼は僕と一緒に外国の内戦の起こっている地域を訪れたんだ。酷い状態だったよ……子供が銃を握って、目の前で死んでいく場面にも遭遇した。本当に戦争は残酷だ。だけど、その戦争には正当な理由なんてなかった」

 纏っている電撃の量が少し揺らぐ。

 男が語っているのは敬治の目の前では起きていないが、世界では確かに起きていることだ。

「その国はただ、隣国の利益の為だけに内乱を引き起こしていたんだ。政府軍と反政府軍の仕組まれた対立は隣国からの兵器を買う事で成り立っていた。つまり、隣国は武器を売る事で利益を上げていた。どん詰まりだった経済を立て直す引き金になった」

 その話はどこかで聞いたことがあるように感じた。

「そう。戦後の日本のように……戦争って言うのは利益を生む為の一つの方法だよ。そうやって戦争を利用しようとする世界は終わってるとそうは思わないかい? そして、魔術も同じように道具にされるよ」

 哲郎の言葉は正しい。だが、世界は本当に終わっているのか。

 表と裏。陽と陰。

 それらはいつも同時に存在しているのではないか。

「戦争をなくしても……また新しい陰の部分ができるだけじゃないか……!」

「君は本当にそう断言できるの?」

 言葉がそれ以上続かない敬治は、揺れ動く。

 自分がしているのはただの邪魔であり、谷崎や目の前の男の方が目的を持って行っている。

 間違っているのは自分ではないのか。

 自問しても答えは出てこず。

 敬治の纏っていた電撃は消えた。

「そうだ。その君の判断は正しい」

 口元を歪めながら谷崎の方に歩き出す男を敬治は止める事ができない。

 止める理由が無くなってしまった。

(これが……狙いか……?)

 口元を歪めていた男。その顔が敬治の頭をよぎった時、彼はくすくすと笑った後、真剣な表情になって拳を握り締める。

(こんな事に気づかないなんて……)

「……ちょっと待てよ」

 哲郎は足を止めて、後ろにいる敬治の方を振り返る。そして、その眼は敬治を睨みつける。

「君は何回僕を止めようとすれば気が済むんだい?」

「まだ二回目だ」

 皮肉を漏らす敬治は自らの体に電撃を纏った。

「君は馬鹿なのか? 君が立ち向かおうとしてる相手は世界を救う救世主だ」

「本当にそう思ってるのか、あんた?」

 哲郎のやろうとしている事を完璧に理解したような口ぶりでそう言う。

 敬治は哲郎の何が何でも世界を変えようとするその執念、必死さからある矛盾に気が付いていた。

「そこまでして戦争を止めたいなら、この世から戦争をなくした後に今後戦争が起きないようにする……そうだろ? たとえば……―――――」

「……たとえば?」

「――利益に拘る人の欲を消すとか」

 その瞬間、哲郎は分かりやすい反応を示した。大きく目を見開いた後、すぐに自らの表情を元の怒りを滲ませている表情に戻す。

「察しのいいことだね。でも、僕はそんな人は嫌いな部類に入る」

「あんたらは本当に欲を消すつもりなのか……? そんな事したら、人が空っぽになることぐらい分かってるのに!?」

「ああ。それしか方法はない」

 それしかないと諦めた天井の見えてしまった大人。これでいい、最高の選択肢だと決め付けた大人。

「模索したがそれ以上には見つからないな。人間の七つの罪源の中の一つとも数えられている。消し去るには十分な理由だ」

 もうそれ以上の言葉での会話は無意味に思えた。

「それなのに、最善の策だというのにそれを止めようとする君はいったい何様で何者なのか……降雷の魔術師。君の名は?」

 そう尋ねられた敬治は自らの名は答えずに、昔ある男に言われた言葉を紡いだ。

「俺は――最強を演じ続ける者だ」

 その言葉を聞いた時、哲郎は納得したように口を歪めた。

「なるほどね……全て繋がったというわけか……」

 電撃を纏う敬治の周りには大量の光と轟音が走る。

「……なら、僕は君と仲良くしなくちゃいけなくなった。だから、君に伝えなきゃいけない事がある。

 僕がしたい事と谷崎がしたい事は同じようで違う。谷崎がしたいのはこの世から戦争を消し去る事で、僕もそれに賛同した。だが、それは賛同しただけであって主じゃない。本当に僕がしたい事は忌々しき魔術をこの世から消し去る事だ」

「……? あんたは戦争じゃなくて魔術を消し去りたいのか? それで谷崎が戦争を消し去りたい……」

「そう。僕はたとえ計画が失敗して戦争が消えなくとも、魔術だけ消し去ればそれでいい。そして、失敗した時には君が必要なんだ」

 そう言って、また谷崎の方へと向かう哲郎を追いかけようとする。だが、目の前に急に姿を現した不気味な男の発言によって、足を止める。

「僕も彼に操られていたわけかァ。彼の記憶を思い出させたら、僕の記憶も蘇っちゃったヨォ。

 それで君は聴いてみたいかい? 彼が何故そこまで魔術を恨んでいるのかァ。ナニ、時間は心配しなくても大丈夫だヨォ? 世界を変えるには時間が掛かるし、それまで谷崎の体は普通にもつだろうからネェ」

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