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降雷の魔術師  作者: 刹那END
I. 魔術部入部篇
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α―V. 眼帯少女

 放課後の生徒たちが行き交う廊下を二人は魔術部へと歩いていく。

 魔術部の場所を知らないと言う隣の女の子を横目で見ながら、敬治は左目に付けた白い眼帯について尋ねてみる。

「左目怪我したの……?」

「あっうん! わたしドジだから、電柱にぶつかっちゃって……」

 「てへへ……」と頬を紅く染めるその表情を見て、「そんな漫画みたいな事ってあるのか……?」と心中で思いながら、次の質問を投げかける。

「魔術使える?」

「ううん。使えないよー! けど、魔術ってなんだか、面白そう! だから、魔術部に入ってみたいんだぁー」

 笑顔で答える雪乃を見て、今日の朝、友人に言われた言葉を思い出し、思い切って尋ねてみる。

「この学校の魔術部って、印象悪いけど……気にしてない?」

「うん! 別に気にならないよ!」

(気にならないなら……あまり言わなくてもいいのかな……)

 ほっと息を吐くと、そうしている内に二階にある魔術部の部室へと辿り着く。

 部室のドアを四回ノックするが、反応は無い。

 いないのかと思い、ドアノブに手を掛けようとしたその瞬間にドアが開いて、テンションの低い部長が顔を覗かせた。

 テンションが低い原因は多分、江藤(えとう)が絡んでいるのだろう。

「……誰? その子……?」

 その低いテンションのまま、自分に尋ねかけてくる部長に答えようとした時、隣にいた雪乃が二人の間に割って入ってくる。

 そして、彼女は大きな声で告げる。

「魔術部を見学に来ました! 桐島雪乃って言います!」

「……見学だって!? だ、大歓迎だよぉー!! さあ、中に入って入って!」

 いつもどおりのテンションを取り戻す部長が部室のドアを開いて雪乃を中に入れると、敬治もその後ろをついていく。

 すると、部長はそんな彼の耳元で呟く。

「やるじゃないか。こんな可愛い子を篭絡するなんて」

「篭絡って……そんな事しません!」

 雪乃に聞こえないほどの小さな声でそう反論した後、部室のドアは閉められる。

 「お邪魔しまーす」と言いながら、入った彼女を迎えたのは椅子に座っていた、副部長である江藤と二年生の部員である神津(こうず)の視線だった。

「部活見学しに来た桐島雪乃ちゃん」

「よろしくお願いします!」

 部室にいた江藤と神津にそう紹介された雪乃は深々と頭を下げ、頭を上げるとにこりと微笑んでみせる。

 すると、今度は部室にいる二人を彼女に紹介し始める。

「この真面目そうな彼がこの部の副部長の江藤清二(せいじ)君で、横に座ってる綺麗な女の子が二年生の神津沙智(さち)ちゃん。部員はあともう三人いるんだけど……サボり…………そして、俺がこの魔術部の部長である藤井(ふじい)(りょう)なのである!」

 銀縁の眼鏡を掛けた男は両手を自らの腰に当て、胸を張って、自分なりの偉そうな姿勢をとる。

 部長のその姿を見ながら冷たい視線を送る三人だったが、雪乃は自らの眼を輝かせながら、拍手をしていた。

「部長さんだったんですね! どおりで、オーラが違うと思いました!」

「いや~……それほどでもあるけどね?」

 笑う二人に対して、尚も三人は冷たい視線を部長へと送り続けた。

 その事に気付いていないふりをしているのか、本当に気付いていないのかは分からない部長は何かを考えるように顎に右手を当てる。

「けどー……今日は特にやる事は無いんだよねぇ。バスケ部には昨日行ったし……てか、雪乃ちゃん。魔術ってどんなものなのか知ってる?」

 尋ねかけに首を横に振る少女を見て、部長は得意げな笑みを浮かべる。

「よし! じゃあ、俺が究極的に分かりやすく、魔術について教えてあげるよ!」

 銀縁眼鏡をクイっと上げ、埃まみれの小さなホワイトボードを長方形の机へと近づける。そして、ホワイトボードと雪乃で机を挟むようにパイプ椅子へと雪乃を座らせた。

 指示棒と黒のマジックを手に取ると、部長は説明に入る。

「魔術を使うにはまず、その魔術を理解する事が欠かせないんだよ。だから、ちゃんと勉強しなくちゃ魔術を使うことはできない。そして、魔術を使う時には魔術ごとに存在する詠唱――Arai(アライ)を唱えるから、Araiも覚えないといけないんだ。まあ、詠唱を言わないこともできるんだけど……それは一先ず置いといて! 結論から言うと、“俺のように”頭が良い人じゃないと、魔術は扱えないって言うわけ!」

 ホワイトボードも併用して、魔術を大雑把に説明した部長はまたまた偉そうに両手を腰に当てる。そして、雪乃以外の三人が冷たい目でその姿を見ていたことはもはや、言うまでもない。

「えっ!? じゃあ、魔術ってただ呪文を言うだけじゃ駄目なんですか!? わたしは呪文を言っただけで、物を浮かせたりできると思ってました!」

 眼をキラキラさせながら口を開くと、部長は真剣な表情で首を横に振る。

「呪文じゃなくて、Araiね。それと魔術と魔法が違うって言うのは知ってて貰いたいんだ。魔術はあくまで、科学の力で行えるもの。その他の空を飛んだりとかって言うのは魔法で、魔術とは別物なんだよ」

「何だか、難しいんですね……!」

 眉間にしわを寄せて、頭をフル回転させている女子生徒を部長は笑い、その後、思案する素振りを見せる。

「さて、今日はどうするかねぇ……清二君。雪乃ちゃんも来たんだし、何か良い案でもないかい?」

 思案する素振りを見せるだけで、頭では何も考えていない魔術部部長は副部長に案を出す役を回す。

 すると、優秀な副部長はぽつりと案を呟いた。

「二人に学校を案内すればいいんじゃないですか? まだ、入学して日も浅いことですし」

「流石、清二君! ナイスアイディアだよ! と言う事で、今日は敬治君と雪乃ちゃんに学校を案内しようと思います!」

 江藤の案が採用された事によって、東坂高校を魔術部の貴重な新入部員二人に案内する事が今日の活動と決まった。


 東坂高校の校舎はU字型になっている。勿論、縦二本の校舎と横の校舎は垂直に交わっている。

 五階建ての校舎の縦二本の校舎は三階まで全て、各クラスの教室となっており、部室や書道室などの特別教室は五階か、横一本の校舎に集中している。

 敬治と雪乃のクラスである一年八組のある校舎は、一階の縦二本の校舎の左の方だ。魔術部は、と言うと、U字の横の校舎の二階に位置している。

 一階の縦二本の校舎は全て、一年生の教室で、二年生の教室も二階の縦二本の校舎、三年生の教室も三階の縦二本の校舎にある。

 運動場は全て人工芝グラウンドとなっており、U字の縦の左側の校舎から横の校舎までL字に広がっている。

 体育館もU字の左側の端に存在しており、その一階はトレーニングルームや柔道、剣道場となっている為、本当の体育館があるのは二階である。魔術部部室からは階段を上がる事無く、廊下を歩けば、体育館へと行けるようになっていた。


「はい。此処が生徒会室ね。物壊した時にはすぐに此処へ来るんだよー」

 そう言いながら、部長は三階のU字型の横の校舎に存在する生徒会室。そのドアの上部にある『生徒会室』と書かれた板を指差した。

(物壊した時……ってやっぱり壊したりしてるんだ……)

 少しは予想のついていた事だったので驚きはしなかったが、敬治はその予想を否定はしたかった。何故なら――

(生徒会の人と顔を合わせる事になったら……長引きそうだなぁ……)

 と思ったからであり、その予感は的中する。

「藤井! てめえは人の敷地の前で何してやがんだよ!」

 廊下を走って、生徒会室を守るように「自分の敷地」と呼んだ場所の前で止まった身長一六七の男は魔術部部長の胸倉に掴みかかった。

「おいおい! また、今年度の予算を書き換えようって鍵壊しに来たんじゃねえだろうな?」

 眉間にしわを寄せたその顔で胸倉を掴んでいるその様子は、端から見ると“カツアゲ”をしているようにも見えて、とても生徒会の者がする行為ではない。

 つまり、藤井亮という男は体裁を無視してでも、無視できない男なのだ。

「そんな訳無いよ! 俺はデスクワーク派だから、そんな横暴なマネはできないよー」

「おい、江藤。こいつ一発殴ってもいいのか?」

 両手で掴んでいた胸倉を左手だけにし、空いた右手を握り締めて、部長へと近づけていく。

 その様子を笑顔で見ていた江藤は答える。

「まあ、一発くらいならいいんじゃないかな? それと一応、言っとくけど、藤井さんは君の先輩だからね」

 江藤の言うとおり、魔術部部長の胸倉を掴んでいる男は生徒会の一員の二年生。部長の方が、一応、先輩なのであった。

「そうそう。清二君の言うとおり、先輩はちゃんと、尊敬し――っぶべあ!!」

 結局、生徒会の男の右拳は部長の左頬を殴り、胸倉を掴んでいた左手も放す。

 部長は廊下に倒れるのと同時に左頬を両手で押さえ、顔を俯けてみせる。

「それよりも、魔術部にいる“あいつ”の服装、髪型、ピアス! ちゃんと、させとけよ! いいな!」

 部長に背を向けて、そう言うと生徒会室のドアを開けて、中へと入り、その階の廊下に響き渡る音を発するほどの勢いでドアを閉めた。

「うっ……親父にも打たれた事ないのに……」

「部長。その台詞はアウトですよ」

 某主人公の真似をする部長に対して、淡々と言葉を述べながら、副部長ははいつまでも頬を押さえている部長を追い越して、先を進む。

 そして、残る三人も部長を置き去りにして、江藤について行った。

「えっ!? ちょっと、スルーしないでよ! ホントに痛かったんだから!」

 東坂高校のU字型校舎の教室を全て、回っていった魔術部部員一同と雪乃。雑談をしながらの教室巡りは、本人たちにとっては一瞬の時のように感じたが、時はもう既に、夕刻に迫っていた。

 空が橙色に染まっているのに気付いた部長が腕時計を確認すると、時刻は五時半を回っていた。

「うわっ! もう、こんな時間じゃないか! 学校は一通り案内したし、今日の部活はこれまでってことでいいよね?」

 部長の尋ね掛けに対して、その場にいた全員が頷くのを確認すると、部長は雪乃へと視線を移す。

 そんな雪乃は学校を巡っている時の雑談の中で「この部活に入ります!」と安易にそう告げていたのだった。

「じゃあ、雪乃ちゃんは明後日! 担任の先生に印鑑もらって、顧問の先生に入部届提出しといてね?」

「はーい!」

 笑顔でそう答える彼女に対して、部長も微笑んだ。

「って事で今日は解散!」

 その言葉と同時に、魔術部の五人はまた、雑談を交わしながら、ゆっくりと靴箱へと動き出した。


 ◇


 昨日からの二日間。魔術部部員たちの行動を監視している一人の人物がいた。

 東坂高校は上靴を指定しており、その上靴に入った二筋の線の色で、学年を分けている。一年生は緑、二年生は赤、三年生は黒、と統一している。

 その人物は赤色である事から、二年生だと言うことが分かる。そして、学ランを着ていることから、男子生徒だと言うことも一目瞭然だ。

 その男子生徒は、魔術部一同が解散し、靴箱へと向かっていくのを確認してから、携帯電話(スマートフォン)をポケットの中から取り出してみせる。

 指を滑らせながら電話帳を開き、その中の目的の名前をタップして、電話を掛けた。

 「トゥルルルルル」の連続した音が男子生徒の耳へと届く中、それは急に「プツン」と切れ、目的自分物の声が耳に入って来る。

『もしもし』

「二日間の尾行で得られた情報は昨日の『風・火・電撃』の三つだけでした。電撃は非常に珍しい魔術ですが、放っておいても特に問題はないと思われます。それより、この監視に意味はあったのですか? “東坂高校の魔術部の能力”は既にご存知でいらっしゃいますよね?」

『ああ。けど、情報は多いに越した事は無い。計画を成功させる為にはな。

 それより電撃か……』

 その言葉を聞いて、何かを思い出しているように沈黙する。

 電話の相手の反応が気になり、男子生徒は尋ねかけてみた。

「何か、思い当たる節でもあるのですか?」

『ああ。中学の後輩に“俺と同じ”電撃の魔術を使う奴がいてな……少し、そいつの事を思い出した』

 その回答に少し、笑みを浮かべながら男子生徒は皮肉を漏らす。

「……あなたにもちゃんとした思い出と言うものが存在したんですね……意外です。冷酷なお方ですから、思い出などの類は全て消し去っていると思ってました」

『失礼だな? 俺にだって、思い出くらいあるさ。“去年の事”だって、俺にとっては思い出だ。そして、去年蒔いた種は今年中に芽を咲かせなければならない。その為に、お前と彼女には指令を下したわけだ』

「分かってます。それで、この指令を成功させる為にどうしましょうか? 監視を続ければ、もう少しだけ情報を得られるかもしれませんが……」

 その尋ね掛けに電話の相手は思案しているような沈黙を連続させ、答えを紡ぎ出す。

『俺の情報と足せば、問題ないくらい十分な情報量。それに、お前と“魔眼”がいるんだ。“あれ”の周囲に結界を張っていようが、相手が魔術を使って抵抗しようが、“魔眼”の前には無意味な事だろう?』

「そうですね……しかし、“魔眼”をそこまで過大評価してもいいのでしょうか? まだ、あれにはリスクがあると聞いてますが?」

『問題ないよ。それともお前は、俺が作り出したものに不満があるとでも言うつもりなのか?』

 その問いに男子生徒は息を詰まらせる。そして、電話の相手には見えないので意味はないのだが、首を横に振りながら答えた。

「いいえ。そんな事はございません」

『それでいいんだよ。彼女には「明日の日曜日に決行しろ」と伝えておけ。明日はまだ、お前は監視するだけで手を出さなくていい。“魔眼”のデータも取りたいしな』

「了解いたしました。それで、もし戦闘せざるを得ない状況になった場合には彼女は、どうすればいいのでしょうか?」

『愚問だな――』

 電話の相手は思案する間など空ける事無く、その続きを紡ぐ。


『――法に触れても、構わない……――――殺せ』


「御意」

 スマートフォンの画面に指を滑らせて、電話を切った男子生徒は再度、電話帳を開き、そこにあった女性の名前をタップして、電話をかける。

「もしもし……明日、決行になった。他の魔術の対応は別に良いと思うが、電撃の魔術だけは対応を考えといた方がいい……魔術部が抵抗するようだったら――――迷わず殺せ」

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