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降雷の魔術師  作者: 刹那END
I. 魔術部入部篇
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α―IV. 電撃少年

 試合はそのまま、結界によってスリーポイントラインよりも外でしかシュートを打てないバスケ部チームが魔術部チームのエースの江藤一人に押され続け、試合時間は残り一分ほどしか残っていない。

 この九分間で敬治には一つ、分かった事があった。それはバスケ部部員にこんなにもサボりが多い理由。

(この部って確かに魔術を使う部なんだろうけど……――ただ、遊んでるだけじゃん!!)

 心中ではそう叫ぶが、今の敬治は「きつい……」と肩で息をしている状態だ。

 そんな彼の体力を考慮したのか、魔術部チームがバスケ部チームに十点の差をつけて勝っている状況なのにも拘らず、部長は一分間のタイムアウトを告げた。だが、そのタイムアウトにはもう一つの意味がある。

 それはバスケの試合をする目的。

「清二君! このバスケの試合の本来の目的はなんだ!?」

 コートの真中で四人は円を作り、部長が声を張り上げて江藤に尋ねかける。

「この頃、運動不足だったから、これを機にちゃんと運動をしよ――――」

 と答えを紡いでいた江藤だったが、その言葉を遮るように言葉を放つ。

「違う! 新入生で、魔術が使えるという敬治君の実力を見せてもらうためだろう!」

 左手の人差し指で眼鏡をクイッと上げ、右手の人差し指を敬治に向ける。

 しかし、そんな事は百も承知だったようで溜息混じりに江藤は答えた。

「いや、どうせバスケなんかで魔術の実力なんて見れませんよ。早く気付いてください。(クソ)部長」

「ちょっと待って! 今、『クソ』って付けた!? 『クソ』って!?」

「つけてないですよ。(クソ)」

 「もう、部長抜けちゃってるよー……」項垂れる部長を無視しながら、江藤は敬治の方に目を向けて、微笑む。

「敬治君。遠慮せずに魔術使っていいんですよ?」

 気持ちはありがたかったが、敬治の魔術は彼らのとは少し違う。

「いや、でも……俺のはバスケとかで使えるような魔術ではないので……」

「大丈夫ですよー。バスケ部の連中なんてどうせ初戦敗退するんですからね。怪我しても問題ないです」

(いや、それよりも怪我させたりしたら、“魔術法”に触れるんですけど……!?)

 心中でツッコミながら溜息を吐いた瞬間にタイムアウトの一分間は終わりを告げ、試合が再開される事となる。


 “魔術法”とは、魔術抑制の為に作られた法律の事である。魔術法の中には、勿論、魔術で人を傷つける行為などを禁止する項目もあり、魔術法を犯したものは、全ての魔術師を管理している魔術委員会が、罰則を与える事となっている。また、捕まらない場合は指名手配をする事もある。

 “そして去年、その法を犯した者がこの魔術部にもいたのだった”。


「何でもいいですから、魔術使って!」

「わ、分かり……ました……」

 段々と声を小さくしながらそう答えると、自分の胸に手を押し当てる。

(“この学校に入ってきた目的”を忘れてはいけない……魔術を使うなら、人を傷つけない程度に……)

 そう自分に言い聞かせながら、胸に押し当てていた右手を目の前に突き出す。

 右手が向けられた先は、バスケ部の四人がデイフェンスをしようと構えているところだった。

 そんな彼の姿を後ろから眺めている部長と神津。江藤はチラチラと見ながらも、田尻に取られないようにドリブルしている。

 そして、自らの魔術のArai(アライ)を唱えた。


「Riyelectictライヤレクティクト


 その瞬間、翳していた右手が激しい光と「ビリビリッ」という音を発し、小さな稲妻がバスケ部四人の方へと蛇行しながら進んでいく。

 その後、それは四人に直撃し、四人とも、コートの床に倒れてしまう。

 その場にいた全員がバスケの試合中だということも忘れて、ポカンと口を開け、大きく眼を見開きながら、コート上に佇んでいる一人の少年を見つめる。

「敬治君……君は……電撃の魔術が使えるの……?」

 辛うじて、そう尋ねかけてきた部長に対して、首を縦に振る。

「はい。それに、電撃の魔術を使う人が少ないのも知ってます……あの、すみませんでした! 電気を浴びせちゃって……」

 起き上がっていく四人のバスケ部部員たちに何度も頭を下げた。その謝意を汲み取ったのか、「いいよ……こっちも試合してもらってるし……」と全員が微笑みながら、答えていた。

「でも、ちょっと心配だから保健室に連れて行ってくる……」

 田尻のその一言でバスケ部とマネージャーの全員が保健室へと向かい、体育館に残ったのは魔術部のみ。試合の続行は不可能となってしまった。

 何とも言えない空気が漂う体育館内。

 その空気を壊すべく、部長は言葉を発する。

「……じゃあ、俺たちは着替えて退散するとしようか……?」

 その言葉に三人は一様に頷いて、バスケ部の部室で制服に着替えさせて貰い、体育館を後にした。


 ◆


 体育館から魔術部部室へと向かう廊下には、いつも演奏している吹奏楽部の姿は見当たらない。

「それにしても……凄いよ! 敬治君!」

 そんな廊下を歩いて魔術部部室に向かう途中、部長は目をキラキラと輝かせながら立ち止まって、期待の新入部員の両肩に手を置く。

「そして、そんな優秀な人材である君が魔術部に入ってくれるって言うんだから、もう……」

 「感動のあまり、泣きそうだよ」と顔を上げて、眼鏡を態々、頭の上にずらして両目に右手を当てる。

 部長を務める男の行動を無視しながら、神津と江藤は敬治を連れて、廊下を進んでいく。

 そんな三人の行動を知らない藤井はどんな反応をしているか、右手を少し上げて目の前を確認してみると、そこに三人の姿は無かった。

 すぐさま右手を退けて、先を歩く三人の背中を追いかける。

「えっ!? ちょっと、扱い方が俺だけヒドくないか!?」

 そう言った次の瞬間、部長は自らの足を急に止めて、後ろを振り返った。

「……誰かに……つけられてる……?」

「厨二病患者みたいな事、言うのやめてもらえませんか? 魔術部自体が厨二病だと思われかねないので」

 振り返るだけで立ち止まる事の無い副部長の姿を追いながら、

「ヒドッ!? てか、立ち止まるくらいしてよ、清二君!!」

 と叫んだ頃には三人は魔術部部室のドアの前に着いており、藤井を置いて、三人だけで部室に入っていった。

 部室に入った瞬間に目に付くのは大きな長方形の机でパイプ椅子が二つずつ備えられている。その先には色々と落書きの施された、『部長の席』と書かれた紙の張られた机と椅子があり、後から入ってきた部長はその席に着いた。

 部屋の左側には本棚、右側には小さなホワイトボード以外には何も存在しない。

 三人はパイプ椅子に座り、自分だけ専用の席で仲間外れにされているような気持ちになったのか、部長も立ち上がって、パイプ椅子に腰を下ろした。

「で、魔術部について何か質問ある?」

 何でも答えてやろうと言っているかのように、胸を張る部長。

「えっと……いつも、今日みたいな事してるんですか……?」

「分かったでしょ? 遊んでるって言った意味が」

 呆れた表情で言う神津の言葉に敬治は遠慮する事無く、頷いた。

「いや、遊んでるわけじゃない! ちゃんと、バスケ部手伝ったし! 断じて、遊びではない!! そして、敬治君! 質問に誠意が見られないよ! もっと、こうさぁ! 『あのジャンプボールの時は何やったんですか?』みたいな質問は無いの!?」

 机を「バンッ」と両手で叩きながら、目の前の敬治の顔に自らの顔を近づける。

 その顔に耐えかねた敬治は彼自身、仕組みは分かっていたのだが、お望みの質問を繰り返す。

「……あのジャンプボールの時に何やったんですか……?」

「よくぞ聞いてくれました! あの時、俺は風の魔術のAraiを唱えて、ボールを風で動かしたんだよ!」

(それくらい分かってる……)

 思わず溜息を吐いてしまいそうな呆れた表情をする、目の前の新入生の姿を見て、「ここいらが潮時かなぁ?」と思った眼鏡男は立ち上がる。

「じゃあ、今日の部活はお終いって事で! 敬治君も帰っていいよー」

「えっ? もう終わり……?」

 そう敬治が呟いた頃には部長の手によって立たされて、そのまま外に出されてしまう。

「入部届! ちゃんと担任の先生にサインもらって、出しといてね?」

「バイバイ」「さよならー」

 彼が「さようなら」と言い終える前に魔術部部室のドアは閉められた。

 なんだか無理やりに追い出され感があるが、特に気にする事無く、その場を後にする。

 魔術部部室から敬治が出て行って、数秒してから部長は『部長の席』と書かれた椅子に座って、呟く。

「まさか、“あいつ”と一緒で、電撃の魔術が使えるとはねぇ……なんか、去年の事思い出しちゃったなぁ……」

 苦笑する先輩に対し、真剣な表情の江藤は心配の色を見せながら、尋ねる。

「“去年の夏みたいな事”は……もう、起きないですよね……?」

「いいや。多分、“あいつ”は今年も事を起こす。けど――去年みたいに好き勝手にはさせねえから心配すんな!」

 微笑んだ部長だったが、部員の二人はより一層不安の色を濃くした。

 そして、二人はお互いを見て溜息を吐く。

「好き勝手にさせない? 冗談でしょ?」

「そうですよ。(クソ)部長だけじゃ、抑えることなんてできません。クソレベルの強さなんですからね。だから、今度は――」

 二人は真剣な眼差しを向けながら、同時に言い放つ。


「「――一緒に戦いますよ」」



 ◇


 翌日


(なんか……俺、疲れてる……?)

 自転車のペダルを漕ぎながら、「はぁー」と溜息を吐く男子高校生は危うく、赤信号の横断歩道を渡りそうになり、慌てて急ブレーキをかけた。

 一先ず安堵の息を吐く彼が、信号を見てなかった理由は昨日の部活見学にある。

(……“谷崎先輩と同じ、電撃の魔術”使うの見て、あの三人は驚いてたけど、もっと何か違う顔してた……やっぱり、谷崎先輩がどうして、会長を暗殺するような事をしたのか知ってるのか……?)

 目の前で車が何台も通り過ぎていくのを見ながら、難しそうな表情をする。

(焦っちゃ駄目だ……知ってたとしても多分、魔術委員会に口止めされてる……関係を深くして、じっくりと聞き出さないと……)

 ゆっくりと息を吸って、吐いた彼の横にはいつの間にか同じ制服を着た男子生徒がおり、その男子生徒は声を掛ける。

「何、まじまじと朝の空気を吸ってんだよ。敬治」

 右横から聞こえてきた唐突の声に、振り向いた敬治の目に映ったのは同じ中学で、同じ東坂高校に通っている敬治の友人の姿であった。

裕太(ゆうた)か……びっくりさせんなよ……」

 友人の名前を言うと、信号が黄色から赤に変わる。

「意識がとんでたからびっくりしたんだろ? ってことは良い女子高生でもいたのか? それとも同じクラスの女子に可愛い子いたのか?」

「そ、そんな事考えてない!!」

 顔を赤くする姿に「にやにや」と笑みを浮かべる友人。

「分かってるって。そんなムキになんなよ……ホントお前は真面目過ぎんだよ。そして、それに気付いてないのが天然って言うのかねぇ」

 信号が青へと変わり、自転車のペダルを漕ぎ始める二人は並列しながら進んでいく。

「うるさいなぁ……」

「まあ、それはいいとして、お前、やっぱり魔術部入るんだろ?」

 友人の尋ねかけに頷くが、友人としては首を横に振ってもらいたかったらしく、溜息を吐いてみせた。

「やめとけって。東坂高校の魔術部の評判って去年の事件のせいで悪すぎだぜ? それに廃部の話も出たって言うし、今現在、存在してる事の方がおかしいんだって! 最悪、いじめられるぞ?」

 その忠告に首を横に振る。

「だとしても、俺は……知りたいんだ……谷崎先輩のこと」


 ◇


 土曜日だったこの日は二時半には全ての授業が終わりを告げ、部活をしていない者は帰り、部活をしている者は部活へと行く。敬治もまたその部活に行く者たちの部類に入る。

 今日の朝、HRの前に担任の先生に印鑑をもらい、昼休みに部活の顧問の先生に入部届を提出したため、今日から正式に魔術部の一員になったと言う事になる。

 そんな一年生でただ一人の魔術部部員は教室で自分の席の引き出しから鞄に教科書やノートを入れながら、溜息混じりに思った。

(はぁー……裕太の言うことも分かるし、ホントに入部届を出して正解だったのかな……って今更、思ったところで後の祭り、か……)

 「よし!」と言う言葉を漏らし、鞄に全ての教材を詰め込み終わった、と“思っていた”敬治が、教室から出ようと振り返ったとき、目の前には一人の女子生徒が立っていた。

「よっス斉藤くん! こうやって話すのは初めてだね! 魔術部に入部したんだってぇ?」

「――――うぉッ!?」

 後ろに人が此方を向いて存在するとは毛ほども思ってはいなかったために、思わず声を上げてしまう。

 そんな見下ろさなければならない女子生徒は背丈が一五四センチほどと、敬治との身長差は四捨五入すると、二十センチにも及ぶ。小柄な彼女の左目には白い眼帯がされており、右目は丸く、顔も丸い。髪は首の後ろで二つ結びのツインテールだった。

 そんな彼女を見て、自らの頭のアンテナを揺らした敬治は反射的にその言葉を漏らしてしまう。

「ちっさ……い……」

「『ちっさい』言うな! これでも、一年に一ミリくらいは伸びてるんだからねっ!」

(一ミリって……)

 心中でツッコミながら、訝しげな表情で彼女を見下ろす。 すると、その表情から察した彼女は自己紹介を始めるのであった。

「ごめんごめん! 自己紹介まだだったね! わたしは桐島(きりしま)雪乃(ゆきの)! 斉藤くんは斉藤敬治くんだよね? わたしって、記憶力だけはいいんだぁ! だから、自己紹介の時にクラスのみんなの名前全部覚えちゃったんだぁー!」

「す、すごいね……」

 目の前の雪乃との温度差に気圧されながらも、辛うじて言葉を発する。

「でしょでしょー!? まあ、その話は一先ず、置いといてー。わたしも、魔術部に入部しようと思ってるんだぁ!」

 「ポイッ」と話題を投げ捨てる素振りをした彼女は担任の印鑑がまだ押されていない入部届をみせつけ、にこりと微笑んだ。

「でも、やっぱり入部届出す前には見学しておいた方が良いでしょ? だから、今日は魔術部を見学しようと思って!」

「……そういう事なら、多分、大歓迎だと思うけど……?」

「ホント!? じゃあ、魔術部の部室までレッツゴーだよ!」

 後ろを振り返るツインテールの少女は教室の出入り口に向けて、右拳を突き出しながら、教室から一人で出て行く。

 そして、彼女に続くように敬治も教室から廊下に出ると、彼の右側には先ほど息巻いていた雪乃が存在してた。

 頭を掻きて、頬を赤く染めて照れながら、小声で呟く。

「わたし、魔術部の場所……知らないんだった……」

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