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降雷の魔術師  作者: 刹那END
III.桐島篇
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α―XXX. Abyss

 八十は超えているだろう老人が部屋のドアの方へと向かう。

 そしてその時、彼の後ろから銃声が鳴り響いた。

 自らの着物を見ると、じわじわと紅く染まっていく。

 そんな腹を右手で抑えながら、後ろを向く老人――魔術委員会会長はその目を大きく見開いた。

「何故じゃ…………何故、お前さんが……――――!?」

 辛うじてそう言葉を発した会長はドアの方に倒れながら、その名前を告げる。



「――福津(ふくつ)!」



 名前を告げられた本人、魔術委員会副会長は笑みを浮かべる。

「何故? それは内通者が私だからに決まってるじゃないですか」

 笑みを浮かべながら、銃を地べたに這い蹲る者の背中に向ける。だが、もう必要ないと思ったのか銃を向けるのをやめた。

「分かってますよ。なんで、私が内通者なのかを聞きたいのでしょう? さて、何故でしょうね……」

 銃を内ポケットの中へと入れ、さっきまで会長の座っていた席にまで移動する。

「それよりも、もっと気付かなければならない異常があるのではないですか? 会長」

 後ろから聞こえる声に訝しげな表情をする。

 そして、何かに気付いたようでその目を大きく見開いた。

「何を……したんじゃ……」

 腕の力だけで体を起こし、ドアに凭れ掛かる。

「その銃に……何を仕込んだ……?」

「仕込んでなどいませんよ。ただ、私は彼の……かしわオニギリの後任。つまりは彼の技術を得る事ができただけです。つまり、この銃に搭載されている銃弾はあなたの魔力を吸収し―――――魔術委員会内に張られたあなたの結界を全て破壊した」

 彼の言うとおり、魔術委員会の本部内に張られていた全ての結界が、会長が銃で撃たれたことにより、解けていた。

 五年前に桐島尚紀を捕まえた時の事を思い出す。

 その時、会長と一緒にいた人物。その人物が創り出したものは本人の意志とは関係なく、今の状況を作り上げている。

 使い方を間違えれば、強大な武器になる事をもっと認識するべきだったのだ。

 つまり、この状況は不甲斐ない、油断していた会長自身が作り出したのと同義。

「今回は殺す事ではなく、あくまで……結界を破壊する事が目的のようじゃな……」

 何かに気付いたような表情をして、立ち上がろうとする。

「――――桐島尚紀か」

 両手を使って耳障りな音を立てる。

 その行動は会長を賞賛しているわけではなく、馬鹿にしているようだ。

「そう。彼を解放するのが目的ですよ」

「じゃが……開放したところで奴の魔力は……――」

 その先を言葉にしようとした時、気付いた。

 かしわオニギリと呼ばれる人物がいなくなった後にその後任として選んだのが副会長である福津だ。即ち――――。


 “お前さんのその技術を応用して……こやつの魔力を断続的に吸収するモノ創ってはくれんか? そうせんと、こやつの魔力は永遠に膨大し続け、わしの結界では歯が立たんくなるかもしれんからのう……”


「まさか……桐島尚紀の魔力を……!?」

 福津は世界の全てを掌握しているかのように嗤う。

「桐島尚紀の魔力吸収装置は私が壊した。つまり、彼の枷を壊したりなんてしたら――――もう誰も彼を止められはしない」

 右手をポケットの中へと突っ込むと、何かのスイッチを取り出す。

 それは紛れもなく、爆弾の起爆スイッチ。

 何の躊躇もせずにそのスイッチを押した瞬間、少しの揺れと爆発したような轟音が微かに聞こえた。

「さて、私たちも行きましょうか? 囚人たちの暴れまわる深淵に」

 魔術委員会本部の地下はその全ての階が魔術犯罪者の留置場。

 会長の結界が無くなった事により、その囚人たちを縛っているのは枷のみで、それを爆破してしまえば、自由に動けるようになる。

 つまり、今の魔術委員会本部の地下は囚人たちの巣窟。

 すると、会長の背中にあったドアが開き、一人の魔術師が部屋の中へと入ってくる。

 耳にピアスを付けて、髪の毛をワックスで立たせた、白雨の魔術師は予め、命令させているかのように会長に肩を貸した。

「棚木……!? お前さんまで……」

「ちげえよ、ジジイ。俺はただ、あいつを殺しに来ただけだ」

 いつもどおりの不機嫌な表情でそう言うと、会長に肩を貸したまま、ドアを開けてその部屋を出た。

 そして、三人は深淵へと向かう。


 ◇


 地下が爆発する数分前


 会長によって張られていた結界が無くなり、歓喜に沸き立つ囚人たちを素通りしながら、二人は地下の最下層へと着く。

 そこは勿論窓など無く、今にも切れてしまいそうな蛍光灯の光だけがその空間を照らしている。

 空間の中心にいるのは手足を拘束された男の姿。

 十五歳からの五年間、この場所に収容され続けた男の髪は女性のように長いが、手入れがされて無い為、ボサボサ。

 その髪の毛の間から覗かせる鋭い眼光は目の前に現れた二人を睨める。

 そして、固く閉ざされていた口が開く。

「よぉ。久しぶりだな――――雪乃」

 笑う男に対して、警戒するように男と距離を保つ雪乃。

 その隣にいるのは魔術委員会会長を殺そうとした谷崎だった。

「それと……お前は、谷崎かぁ? 大きくなったなぁ。お前ら二人」

 五年間会っていない妹の成長に喜ぶのは分かるが、谷崎に対しても同様の反応をする。

 つまり、桐島尚紀は五年前かそれよりも前に、谷崎に会っているという事になる。

「それでお前ら何にしに来た? 福津の差し金かぁ?」

「違う。福津は俺の差し金だ。あいつを使って老人の結界を破壊し、わざわざお前に会いに来てやったんだ。感謝して欲しいな」

 男の口がその言葉を聞いた瞬間に歪むのをやめる。

 それと同時に、四つある蛍光灯のうちの一つが割れた。

「あいつの結界なんてお前の手なんて借りなくても壊せた。老人殺し損ねたくらいで調子に乗ってんじゃねえぞ」

「それもそうだ。だから、今度は確実に殺してやる。

 さて、もうそろそろか?」

 谷崎がそう言った瞬間、目の前の男の近くで何かが爆発し、同時に上の階からも何かが爆発したような音が聞こえる。

 その衝撃で空間に存在していた蛍光灯が全て割れ、闇が空間を支配する。

「お前が最強だった時代はもう終わった。今はこの俺が――最強だ」

 谷崎がそう言い放った時、彼の首を誰かの手が鷲掴みにする。

 その手の爪は自分で引き千切っているようで歪な形をしていた。

「誰が最強だって? この首へし折りゃ死ぬ奴が最強なはずねえよ」

「まだ、分かってないようだな。俺とお前の決定的な力の差を――――」

 一瞬の内に暗闇のせいで自分の身に何が起きたのかを認識できない桐島尚紀。だが、自分の今の状態だけは分かった。

 首を掴んでいた自分は今、地面に寝転がっている。

「……何しやがったぁ?」

「力の差を見せやっただけだ。けど、力で解決したところで意味は無いだろうから、まずは俺の話を聞いてくれないか?」


 ◇


 地下が爆発する数分前


 十六階建ての魔術委員会本部の背後で、訝しげな表情をする男子高校生、斉藤敬治は襟を口元に近づける。

「あのー……結界が解けちゃったみたいなんですけど……」

『そのようですわね。おかげで、する作業が一つ少なくなったんですから喜びましょう。では、中に入ってください』

 耳のイヤホンから小野原の言葉が聞こえ、溜息を吐く。

 その理由は隣にいる男がこれからする行動にある。

「……中に入れって」

「ふむ。私もそろそろそうした方が良いと思っていたところだ」

 本当かどうかも怪しい事を述べて、自らの眼に五個の円を映し出す。

 その眼が魔術委員会本部の壁を見て一秒ほどで、その壁に大きな丸い穴を空けた。

 中からの光が外にいる二人を照らし出し、そんな光の中にいる警備員が一斉に彼らの方を向いた。

 このままでは、隣にいる破壊男が警備員を殺しかねないと判断した敬治はやむを得ず、右手を前に突き出す。

Ricelect(リセレクト) chosk(チョスク)

 そのArai(アライ)を唱えた瞬間、彼の右手から電撃が放たれ、四つに分裂すると、銃を構える警備員四人に襲い掛かる。

 四人が倒れて動かなくなるのを見計らって、魔術委員会本部の中に足を踏み込むが、敬治は疑問に思うことがあった。

 自らの襟を口元に引き寄せて、小野原にその疑問を話す。

「なんで、魔術の使えない警備員しかいないんですかね……」

『……詳しくは分かりませんが、谷崎の仕業で間違いないでしょう。わたくしも彼が何故、約束の場所としてそこを選んだのか、見当がついてきました。多分、谷崎は――――』

 小野原が自らの見当を呟こうとしたその瞬間、地響きと共に激しい轟音が敬治と二階堂を襲う。

 その地響きは彼らの真下から発生したようで、二人とも大理石のようなものでできた床を見つめる。

『爆発のようですが、お怪我は!?』

「……二階堂も俺も無傷です。けど、この爆発は……?」

 何が起ころうとしているのかさっぱり分からない敬治に対して、二階堂は考えるつもりは元から無いといった表情をしている。

 つまりは何が起ころうとしているのか説明できる人物は一人しかいない。

『この爆発は魔術委員会本部の地下留置場――Abyss《深淵》にいる囚人たちを解放する為の爆弾ですわ。ですが、囚人たちはただの足止めですの。谷崎は地下の最下部にいる最凶の男を解放しようとしているのかもしれません。

 予定変更です。上の階へは行かずに地下に行く階段を探してください』

「えっ!? でも、地下って囚人たちが解放されてるって……」

 その時、敬治の頭の中では小野原が悪魔のような笑顔をしている光景が浮かぶ。

『地下一、二階にはE級程度の。地下三、四階にはD級程度の。地下五階にはC級。六階にはB級。七階にはA級とS級。そして、八階には桐島尚紀。

 S級犯罪者のあなたなら、六階まで行くのにそう時間は掛からないでしょうね』

 本当に怖いものを見出すと、周りを見回して地下への階段を探すが、地下に続いているような階段はない。

 すると、隣にいた二階堂が口を開く。

「地下への階段などなくとも、私の魔術で床を破壊すれば良いではないか。さっきから階段を探してる君は馬鹿なのかね?」

 イラッとさせるその発言に隣の二階堂の方へと視線を向けると、彼は足元を見ている。そして、その眼は五つの円を映し出していた。

「……おい。まさか……!?」

 二階堂の行動を止めようとした時にはもう遅かった。

 足元の床が崩れ、その瓦礫と共に二人は地下一階へと落ちてしまう。

『一つ言うのを忘れてました。破壊魔眼で床を破壊するのはお勧めできません。地下に閉じ込められた彼らの中には何十年と外に出ていない者もいるでしょう。そんな人たちが光を見たとしたら…………ってもう、遅かったです?』

「はい。もう遅いですし……なんで、あんたは足元の床を壊すんですか!? 殺す気ですか!」

「失敬失敬。君を殺すつもりは無かったのだが、今の状況を見る限り、そうも言えなくなってしまった」

 目の前の光景を受け止めている二階堂に怒りをぶつけるのと同時に、周りの囚人たちが自分らを取り囲んでいくこの状況を危機的だと認識する。

「ようこそ。Abyss《深淵》へ」

「うおぉぉおおおおおおおおおお――――!!!」

 その中の一人が呟いた瞬間に囚人たちは一斉に雄叫びを上げた。


 ◇


 魔術委員会本部 地下七階


 そこには奇妙な方法で人を殺した魔術師、異常者が収容されていた。

 その名は邑久(おく)清次(きよつぐ)

 枷が爆発し、牢の中から出られる彼はそんな状況をつまらなさそうにしている。

「なんや。もう此処から出られるんかいな。おもろな」

 そう呟きながら、囚人たちの群がる所へとその身を投じる邑久は囚人たちの中でも少数派の、枷が外れても喜んでいない囚人たちの一人。

 そんな彼の様子を見ていた囚人は彼の事を睨みつける。

「はぁ? 何言ってんの、お前? 此処から出られるんだぜ?」

「自分らのその底辺っぽいところ、ほんま嫌いや。なんなら、俺がてっぺん見せたろか?」

 口を大きく歪める男に底知れぬ恐怖を感じたその瞬間、彼の周りにいた囚人、十数人がその場から消えた。

 五年前の出来事を知っている者は彼の事を桐島尚紀と勘違いした。

 しかし、決定的な違いがあった。

「おい……何したんだ……?」

「てっぺん見せただけや。地球のな」

 彼が自らの魔術でどうやって人を殺し、この留置場に入れられる事となったのか。

 それは今彼が言った事。つまり――――人を宇宙に飛ばしたのだった。

 でたらめな魔術。いや、それは魔術と呼ぶには説明が不十分。

「そんなに外に出たいんやったら、自分ら全員、俺が外に出したるで」

 尚も口を歪めている男のその眼を見て、囚人の中の一人は呟いた。

「な……なんだよ、その眼……!? こ、こいつ!? イカレてやがる!」

「A級かS級なんやろに自分、“魔眼”の事も知らんのかいな。ほんまに底辺やなー」

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