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降雷の魔術師  作者: 刹那END
II.称号十人選抜決定戦篇
14/57

α―XIV. 王水の魔術師

 敬治(けいじ)はスマートフォンの画面に指を滑らせ、受信トレイを開く。そんな敬治の目に飛び込んだものは驚くべき事だった。

「何だよ、これ……称号十人選抜決定戦……?」

 足を進めながら、訝しげな表情で敬治が眺めるスマートフォンの画面にはこんな文面が映し出されていた。



 これは称号を持つ、委員会の魔術師五十名に一斉送信された指令であり、拒否権は無。抗議、質問などは受け付けないものとする。

 (いち)――このメールが各自の携帯電話に届いたその時間より、称号を持った魔術師五十人の中から十人の優れた魔術師を選抜する称号十人選抜決定戦を開始する。

 ()――トーナメント形式で五人の魔術師を選抜した後、残りの五人を二回戦まで勝ち上がったニ十五人から選抜する敗者復活戦を行う。敗者復活戦の詳細は初めの五人が決定した後にメールにて伝えるものとする。

 (さん)――トーナメント表は魔術師五十名には伝えないものとし、対戦相手と場所のみを追って伝えるものとする。また、その文書が本人へと送信された時刻より、二十四時間以内にその場所に着いていなければ、敗北とする。

 ()――対戦相手とお互いの称号を名乗り合ったところで、試合開始とする。尚、称号を名乗り合う前に何らかの形で対戦相手に危害を加えた場合は敗北となる。

 ()――相手を気絶、降参させたら勝利となり、相手を殺した場合は殺した方の敗北となり、無条件で称号と魔術委員の資格を剥奪する。

 (ろく)――魔術委員より、真剣に取り組んでいないと判断された場合でも、称号と魔術委員の資格を剥奪する。

 (しち)――第三者が試合に関与した場合はその時点で無効試合となり、後日、再試合となる。



(……説明短ッ!?)

 華麗にツッコミを入れながらも、敬治は真剣な眼差しでその文面を見つめる。するとその瞬間、携帯電話はまたもやバイブ音を発し、危うく敬治は地面にそれを落としそうになる。

 そのバイブ音はメールが来たと知らせるものであり、敬治は受信トレイに戻ってその新着メールを開いた。

「対戦相手……“王水”の魔術師? それにこの対戦場所って、すぐそこじゃないか!?」

 小さな声で驚く敬治の見ている携帯電話の画面には対戦相手が王水の魔術師である事と、その対戦場所が記されていた。即ち、今から二十四時間以内にその場所に行かなければ、敬治は無条件で敗北となる。しかし、敬治はこのトーナメントに参加するか否か、悩んでいた。

 何故なら、敬治は魔術で人を傷つける事を望んではいないからだ。

「ちょっとどいてくれますか? 漫画取れないので」

 漫画の最新刊の立ち並ぶ棚にまでいつの間にか辿り着いていた敬治に後ろから声を掛けたのは男子中学生であった。

 急に後ろから声を掛けられた事によってびっくりした敬治は持っていた携帯電話を漫画の上に落としてしまう。

 すると、少年は漫画の上に落ちた携帯電話を手にとって、敬治に手渡した。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 にこりと笑ってみせる少年は身長一五七センチで髪は元からなのか少し、茶色い。そして、目の色も薄い事から、ハーフなのだろう。

 少年はブレザーの上から、博士のように白衣を纏っており、そのポケットの中からあるものを取り出して、敬治に見せ付けた。

 敬治はそれを見た途端に、自らの目を大きく見開いて見せた。

「そ、それは――!?」

「どうやら、近くにいる人同士が対戦するようですね。初めまして。僕が、王水の魔術師です」

 王水の魔術師である少年が敬治に見せ付けたのは魔術委員の証である手帳だった。その手帳を再度、ポケットの中に入れて、敬治に右手を出して握手を促す王水の魔術師。

 その右手を取った敬治は先程、送られてきたルールを未だに理解できてはいなかった。

「俺が……降雷の魔術師――――」

Teml(テムル)

 少年によってArai(アライ)が唱えられるその瞬間に敬治はその手を放し、後ろへとその身を退いた。

「つまらないなぁ……大人しく僕の手を握っていれば、“溶け出していた”のに」

「急に、何しやがる……!?」

「あれ? もしかして、ルールをちゃんと、理解していなかったんですか? お互いの称号を名乗りあった時点で試合開始なんですよ?」

 未だに敬治に笑みを向け続ける王水の魔術師は、漫画を手に取る事無く、本屋の出入り口のほうへと向かう。

「まあ、こんな大勢の人のいる前で魔術を使うのもなんなので、対戦場所に移動しましょうか?」


 ◆


(初めからここに来るなら、あんなとこで魔術使うなよ……!)

 メールによって指定された対戦場所には五分間経たない内に辿り着き、敬治は心中で愚痴を(こぼ)した。

 敬治と目の前の王水の魔術師の対戦場所は人の気配も無く、目に付きそうにもない薄暗い場所で、夕日に染まりつつ空がより一層、その空間を不気味にさせていた。

 そんな空間を目の前にしても何も感じる事は無いのか、王水の魔術師は淡々と足を進めていき、敬治と向き合った。

「東坂高校一年十二組十八番、斉藤敬治。入学の時の実力テストでは校内三十二位。でも、数学は十一番か。へぇー……」

 魔術委員のではなく、自らの携帯電話(スマートフォン)を弄りながら、敬治の情報を述べていく王水の魔術師は携帯電話を白衣のポケットの中へと入れる。

 少年の言葉を聞いた敬治は「なんでそれを……?」と言うような訝しげな表情を浮かべてみせる。

「なんで僕がこんな事を知っているのかって、そんな分かりやすい表情をしているよ?

 情報って言うのはその勝敗を分けるほどの力を持ってる。沢山の情報から取捨選択し、それを繋ぎ合わせていく事によって結果へと結びつく。言ってみれば、莫迦(ばか)と天才の違い。莫迦は情報をうまく取捨選択できない人で、天才はそれができる人。つまりは僕が天才で、君が莫迦って事だ」

 自分を莫迦呼ばわりする少年に不満を覚えながらも、敬治は黙って少年の話に聞き入る。

「『君』は失礼かな? 『先輩』とでも訂正しておくよ。それで中学校の時に魔術委員の会長を去年、殺そうとした谷崎一也(いちや)に会ったんですか……どんな人でした? 大犯罪者は?」

 再度、白衣のポケットの中から携帯電話を取り出して指を走らせる少年。

 敬治が中学一年生だった時の谷崎の事を思い出しながら、敬治は少し、切ない気持ちに襲われる。

(なんで、谷崎先輩が……?)

 その答えを求めるために東坂高校に入学し、魔術部に入部した敬治。しかし、未だにその答えを魔術部部長である藤井は教えてくれない。

「普通の人だった……」

「へぇー……そんな人のせいで僕たちが戦わなきゃならないって言うのも、ちょっと嫌ですよねぇ……」

 王水の魔術師のその言葉に敬治は疑問を抱く。

(谷崎先輩のせいで俺たちが戦わなきゃならない……?)

「どういう事?」

「あれ? このトーナメントの目的を分かってないですか? しんどいですね、情報が無いと。

 十人の称号を持った魔術師を選抜する理由(わけ)は今年の夏も谷崎が『会長を殺しに来る』と宣言してるからです。会長は谷崎の相手をし、他の谷崎の傘下の者たちには十人の称号を持った魔術師をぶつけようと言うわけです」

(何だよ、それ……そんなのメールのどこにも書いてなかったじゃないか!)

 拳を握り締める敬治に対して、少年は携帯電話の画面を睨み続け、その後、敬治を睨みつけた。

「けど、変ですね……先輩の小学生の頃の情報が全く、見当たりません。まるで、“誰かの手によって意図的に消し去られた”ように。小学生の頃に何かあったんですか?」

 少年の質問に敬治は黙りこくった。そして、何か嫌な事を思い出すような表情で、ポツリと呟く。

「何も……」

「そんなに間を置かれたら、余計知りたいなぁ……もしかして、先輩が魔術で人を傷つけない事と関わっていたりするんですかね?」

 瞬間、敬治は血相を変えて少年を睨みつけ、自らの拳を握り締めた。

「……図星、と言うわけですね。では、こうしましょう。僕が勝てば、先輩の小学校の頃の情報を提供し、先輩が勝てばそれは回避でき、晴れて二回戦へ進める」

「ちょっ!? 何勝手に決めてんだよ! 俺はこんな人を傷つけるような戦いは――――!?」

「先輩の性格はもう、完全に理解しました。あなたは――このような約束を絶対に守る真面目な人だってね?」

 携帯電話を白衣のポケットの中に入れ、左横の壁に左手の掌を付ける少年。そして、少年は先と同様のAraiを唱えてみせる。

Teml(テムル)

 その瞬間、コンクリートの壁が溶け出し、その溶け出したコンクリートは何本もの刃の形へと変化する。そして、その何本ものコンクリートの刃は敬治目掛けて、宙を走った。

「――ッ!?」

 少年の魔術に対して、Araiを唱える準備をしていなかった敬治はその刃を避ける事しかできない。だが、全ての刃を避けられるほどの運動神経を敬治は持ち合わせてはいなかった。

 右腕と左足のふくらはぎを(かす)る刃に歯を食いしばりながら、体勢を立て直すのと同時に少年は敬治の目の前にまで迫ってきており、敬治目掛けて左手を振るおうとしている瞬間だった。

Denthur(デンサー)!!」

 Araiを唱えた敬治は大量の電撃と光と轟音に包まれ、少年を後方へと吹き飛ばした。

 地面に何度も身体を叩きつけながら転がる少年が止まるのと同時に、敬治の周りの電撃も止む。

 コンクリートの地面に寝そべったまま、動く事のない少年を見つめ、唾をごくりと呑み込む敬治。すると、少年は両腕の力で起き上がって、白衣についた汚れを払う。少年は何箇所かの掠り傷を負っただけで、命に別状は無かった。

「……所詮、先輩の決意はこんな和紙のように薄っぺらい決意だったんですよ。正義・真面目ぶったって、現実はこんなもんです」

(……俺の決意はこんなもんだったのか……?)

 自分に問いかける敬治だが、返答は無い。

「どうしたんです? 今度は現実逃避ですか? ほら! 見てくださいよ、僕の傷。あなたの魔術で傷つきました。どうしてくれるんですか?」

 敬治を嘲笑うように言葉を紡いでいく少年は溜息を吐いて、敬治を挑発する。

「それか、こんな中途半端な傷をつけないで、もっと思いっきり電撃の魔術を使ってみたらどうです? きっと、重みが無くなって、スッキリするんじゃないですか?」

 尚も、黙ったまま動かない敬治の後ろの光景はオレンジ色から青へと染まりつつあった。

「このまま、何もする気が無いんなら、身体のどこかを溶かして差し上げますよ」

 にやりと口元を歪めた少年は敬治の方へと然程、速くも無い速度で走り出す。

(……当てなければ……当てなければいいんだ!!)

 自分にそう言い聞かせながら、右手を突き出す敬治はAraiを唱える。

Ricelect(リセレクト) chosk(チョスク)

 敬治の突き出した右手から放出される電撃。そして、その瞬間に少年も左手を突き出してAraiを唱えた。

「Lisioudonstリショウドゥンスト

 電撃は蛇行しながら突き進んで行き、敬治の方へと走る少年の左手にぶつかった。「しまった」と言うような顔をする敬治に対して、少年はにやりと笑みを浮かべ、少年の左手にぶつかった電撃は“溶け出した”。

「――――ッ!?」

(溶けた……!?)

 自らの目を大きく見開く敬治の表情など、気にする事無く、そのまま走り続ける少年は敬治の目の前に来るのと同時にその身を屈め、地面に左手を着けた。

Bossetomltボスエトムルト wasmp(ワズムト)

 その瞬間、敬治の立っていた地面のコンクリートが溶け出し、敬治を足から段々と飲み込んでいく。

「これに飲み込まれたら、息ができずに気絶するでしょう。それか、僕が助けるのが間に合わず、死にますね。

 僕を攻撃して尚且つ、敗北を認めるんなら、解いてあげてもいいですが? まあ、足を切断して逃げるのも手ですね。どうします?」

(魔術は人を傷つける事もできる……魔術は人を助ける事だってできる……でも、俺は王水の魔術師を傷つけて、誰かを助ける事になるのか……?)

 問いに答えるものはおらず、敬治は段々とその身を地面に沈めていく。

(違う……俺の目的は何だよ……谷崎先輩に直接理由を聞けるかもしれないチャンスを踏みにじりにするのか……?)

 敬治の揺らいでいた眼差しが、一点に集中する。

「あの人は大切な事を教えてくれたんだ……――Denthur(デンサー)!」

 Araiを唱えた瞬間に光と電撃に包まれる敬治は痛みを堪えるように歯を食いしばる。

「僕の魔術で溶け出したコンクリートはどろどろの水も同然。それなのに自分に大量の電撃を食らわせて……本当に哀れですね」

「……自分から情報口にしてんじゃん」

 にやりと敬治は笑みを浮かべて見せ、より一層、自らの電撃を激しくさせた。するとその瞬間、溶け出していたコンクリートが粉状に固まっていき、空気中に飛散する。

 敬治の身を包んでいた電撃は止み、敬治は粉の中から足を出して、少年の前に立った。

「お前の魔術はもう、理解できた。これからが、俺の反撃だ」

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