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第6話 きらきらひかる

 クリスは()き通ったものが好きだ。

 たとえば、ビー玉。たとえば、アクリル製の小さなメモスタンド。


     ☆


「ロゴの下から切り落として磨いたら、グラスになるよねえ……」

 行きつけの卸売業者に品物を取りに行った、帰り道。

 宙港で借りたワゴンを運転する僕のとなりで、飲みかけのナガノ星名物・ウィルキンソンのジンジャエールを光にかざしながら、クリスがつぶやいた。

 ヤマト星系を開拓した大和開発㈱の創業者が大のお気に入りで、かなり初期のうちに製造元の飲料会社の工場を誘致した――とかいうこのジンジャエールは、他のメーカーよりぐっと辛口なため主にバーや居酒屋への卸しが中心で、あまり一般には知られてないが……その分コアなファンが多くて、ナガノ星の隠れた名物となっている。

 うちの店でも結構売れるので、ヤマトに戻って来た時には必ず数ケースまとめて仕入れてるわけなんだけど、配送を頼まずわざわざ直接取りに行く理由は、ここのオヤジが必ず冷えたやつをオマケしてくれるからだったりする。


「うーん……グラスにはちょっと重いかも?」

 僕も、飲んでいた(びん)を持ち上げてみる。

「それに、もともと190㎖だから……ちょっぴりしか入らないね」

「やっぱそっかあ。手にしっくり来るし、いいなあって思ったんだけど」

「コカコーラの瓶のグラスなら、見たことあるよ。歴史の教科書だったかな」

「あれ私の資料集でしょ。中世地球学の」

「そうだったっけ?」

「そうよー」

 瓶から目を離して、クリスが口を(とが)らせる。

「どっちにしても、コカコーラの瓶はあんまり好きじゃないのよね」

「どして?」

「底の透け感がイマイチ」

 やっぱりそこなのか。いや洒落(しゃれ)じゃなく。


 小さいころから、クリスは透き通ったものが好きだった。

 ベッドの下の「たからもの入れ」には、ビー玉やおはじき、プラスチックの指輪は言うに及ばず、ガラスの醤油(しょうゆ)さしのフタやらパラソルチョコレートの芯やら、あらゆる透き通ったものが詰まっていた。

 アルコールウニの空き瓶(院長がお歳暮にもらったやつ)まであったっけ。

「なんで、こんなのまで入ってんの?」

 ジュエルキャンディをちょっとだけしゃぶって、綺麗(きれい)になった表面から陽を透かして飽かず眺めているクリスに僕が()いたら、

「ほかのビンより厚くてキラキラしてるからー♪」と返事が返ってきたものだ。

(ウニ瓶が厚くて7角形なのは、実は光の屈折で中身を多く綺麗に見せるためだ――ということを、高校の物理の授業で知った。クリスの目のつけどころは間違ってなかった、ということなのかもしれない)


「一輪挿しでもいいわねえ……」

 子どものころとかわらない瞳で、うっとりとつぶやくクリスを見ながら、僕は今度マキナに行った時に加工してもらってみようかな――などと、こっそり考えていた。


     ☆


 その日、めずらしく僕は宇宙服を着て船外作業をしていた。


 宇宙時代初期の(ころ)とはちがってメンテナンスも自動化した現代、とくに個人ユースの小型船舶では、一応実践研修の時に訓練は受けるものの航行中に船外作業をする必要はほとんどない。

 何故にその日に限って外に出てたかといえば――たまたま航行中の近くで貨物船が事故ったとかで(乗組員は無事に救助されたらしい)、いつもより多めに浮いていたデブリ(宇宙ゴミ)が数個、防護フィールドをすり抜けて外壁の隙間(すきま)にもぐりこんでしまったからだった。

 いつもだったら、マリアが外部作業用のマニピュレータでちゃっちゃっと排除してしまうんだけど、その日に限ってマニピュレータが動作不良で動いてくれず……。


『えーと……このまま出たらまずいんだっけ?』

 まだ「ボディ」を完全には使いこなせてないマリアが、困惑した声で訊いてきた。

「まずいんじゃない? 仮にも精密機械でしょアナタ」と、クリス。

『やっぱまずいよねぇ……宇宙服なんて着たことないよ』

「そもそも人間用のスーツじゃ駄目なんじゃなかったか? アンドロイド用のやつじゃないと」

 フライパン片手にキッチンの端末でマニュアルを検索しながら、トールが言う。

『そうだったかも。どうしよう、そんなの準備してないよー』

 慌てるマリアを見かねて、僕は立ち上がって言った。

「いいよ、僕、行ってくる」

『いいの? タカアキ大丈夫?』

「大丈夫だよ。僕だけ今ヒマしてるし、久しぶりに外の景色見るのも楽しそうだ」

 宇宙服を着るのが手数が多くて面倒くさいだけで、別に船外作業は嫌いじゃない。個人用小型船舶は、安全最優先のために緊急時以外の船外作業は禁止されてるから、むしろなかなかないチャンスを逃すのももったいない。

「えー。サンディも行きたーい」

『サンディは駄目。さすがに危ないから』

 つまんなーい、と()ねる声に送られながら、僕は倉庫室奥の船外作業用エアロックに向かった。


 というわけで、その日僕は、数年ぶりの船外作業を体験していたのだ。

 マリアから指示されたあたりを探したら、デブリは幸い無茶なもぐり込み方もしておらずにあっさり回収出来た。

 外壁にも目立った損傷のないことを、目視で確認する。

《ついでに防護フィールドのアンテナ角度、手動調整しといてよ、タカアキ。応急処置だけど》

〈人使い荒いなー〉

 申し訳なさそうにしていた割にはあっさり言いつけるマリアの指示にぶつくさ言いながら、アンテナの手動制御装置の方に回り込んだ時だ。


(……ん?)

 ゆがんだアンテナのせいで出来た防護フィールドの隙間から、ゆったりとしたスピードで飛んでくる、キラリと光る何かを見つけて…僕は思わず手を伸ばした。

〈わああああっ。タカアキ何やってんの危ないっ〉

〈へ?〉

 急に割り込んできたクリスの声に我に返った僕が見たのは、店舗室のウィンドウに写りこんだ――うっかり変な方向に手を伸ばしたせいで船から離れ、慣性の法則に従って防護フィールドに内側から突っ込んでいこうとする、自分の姿だった。

〈うわあああっ!?〉


     ☆


「もうっ。タカアキの馬鹿(ばか)ちん!」

「……馬鹿ちんはないだろクリス……」


 結局『ママ』が咄嗟(とっさ)牽引(けんいん)ロープのウィンチを思いっきり逆回転させてくれたおかけで、防護フィールドには突っ込まずに済んだ。

 かわりに外壁の方にぶつかって、痛い思いはしたけど。

「馬鹿ちんでしょーが。何に気を取られたのか知らないけど、船外作業中に予想外の行動取らないでよね。命綱つけてるとはいえ心臓冷えたわ」

「……ゴメンナサイ」

 無事に戻った倉庫室で、ぶつけた背中に湿布を()ってもらいながら、僕はクリスに怒られていた。

「まったくもう。はい終わりっ」

「いてっ」

 湿布を貼った箇所をわざとクリスにはたかれて、思わず顔をしかめる。


「で、何に気を取られたわけ?」

「あーそれそれ」

 僕はさっきまで着ていた宇宙服を引き寄せ、探った。

「どこ行ったかな……あったあった。クリス、手、出して」

「え、何?」

 宇宙服から転げ落ちたものを拾い上げ、怪訝(けげん)そうな顔をしつつも素直に差し出したクリスのてのひらに乗せる。

「わあ――何これ? 綺麗……」

 それは、直径4センチくらいの、丸いような3角のような不思議な形をした、透き通った物体。

「コーナーキューブプリズムだよ」

 コーナーキューブプリズムは光学部品の一種で、入ってきた光をもとの方向へ180度跳ね返すための特殊なプリズムだ。多分、事故った宇宙船から飛んで来たんだろう。

「これがフィールドの隙間から飛び込んで来て、回収しようとしたらバランス崩しちゃって」

「危ないなあ、もう」

「ごめんって」

「まあいいわ、無事だったんだから。……プリズム? これってガラス? 透明度すごく高い」

「光学製品用のクリスタルガラスだからね。残念ながら、(にじ)が出る60度のプリズムじゃないけど」

「ううん、すっごい綺麗」

 倉庫室の電灯にかざして見ながら、クリスがつぶやく。

「クリスにあげる。好きそうだったから、持って帰って来たんだ」

 引っ張られた反動であちこちぶつかりながらも、離さずにしっかり回収していた自分を誉めたい。

「いいの? ありがと、タカアキ」

 瞳を輝かせて、子どもの頃と変わらない満面の笑みを見せるクリス。

 そう、この笑顔が見たくて――


「またタカアキにもらった宝物が増えちゃったわ♪」

 でも危ないことはホントやめてよね、と(くぎ)を刺しながら、クリスは片隅の棚から、施設から持ってきた「たからもの入れ」を取り出した。

「……そんなにあげてたっけ?」と僕。

「そうよー。この箱の半分以上、タカアキがくれたやつよ?」

 そうだった。クリスの笑顔が見たくて、子どもの頃からいろいろ見つけてきては、渡してたんだっけ。

「交通事故現場で拾ったフロントガラスのかけらでしょー、苦労して取り出してくれたラムネの玉でしょー。あ、これ、学校の授業で作ったプラ板のキーホルダー♪」

 うわー、自分、子どもの頃から行動パターン変わってないです……。

 昔から拾いモノしかプレゼントしてない事に気がついた僕は内心ヘコんだけれど――そんなことまったく気にもしてない様子で、いろいろ取り出しては楽しそうにデスクの上に並べるクリスの笑顔に、んーまあいっか……と思うことにしたのだった。

……少なくとも、ウニ瓶には勝ってる。たぶん。


     ☆


「あれって、事故船のやつだろ? 本当は返さなきゃいけないんだぞ」

 リビングに戻ってきた僕に、ニヤっと笑ってトールが言った。見てたのか……。

「名前が書いてあるわけじゃなし。それにちょっと端が欠けてたから、どうせ廃棄処分だよ」

「訴えられても知らないぞー?」

「何だよもう! 大体『ママ』もマリアも見て見ぬフリしてくれてるんだから、見逃せって!」

「心配するな。わかっててからかってるんだ」

 ニヤニヤと肩をたたくトールに、僕は思いっきり脱力した。


     ☆


 後日、仕入れで立ち寄ったマキナのアクセサリー工房で機材を借り、ジンジャエールの瓶で作ったミニグラスと一輪挿し、あと残った部分でリングとブローチを作ってクリスにプレゼントしたら、予想通り大喜びしてくれた。

 よく考えたらやっぱりタダみたいなプレゼントなんだけど、今度はかなり苦労したから、自分的には満足だったりする。

 

【次回予告】

その1 南瓜王トーナス・パンプキンⅠ世は立志伝中の人物である。

その2 「あれ、お弁当は?」

その3 人力で運ぶマッチレース……だ、そうだ。

次回、第7話「日常の断片――それすらも幸福な日々」 8月13日更新予定です。

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