初恋の妹は縁石に立つ作家志望
「梅雨に入ったんだってねー」
唐突に『隣の』少女が言ってくる。
僕は「そうだね」と微笑んで返す。
梅雨に入ったらしい。
だから雨が降っている。
土砂降りではない。
でも、その『梅雨の雨』という状況が、今の僕たちを作っている。
「2人きりの図書館だったらいいなぁ」
とろけるような笑顔。
僕はひきつった笑みで返す。
赤色を点滅させる信号機、
ポツンポツンと立つ街灯と僕の持つ懐中電灯だけが僕らの光、
相合傘をしながら夜の図書館へ向かう。
「おぉ…! 貸し切り状態…!」
キラキラと目を輝かせる幼なじみの少女。
『梅雨で雨の日は3時間延長!』
出入り口にポスターがはられていた。
いつもは6時までだけど、今日は雨だから9時まで。
太っ腹すぎないか?
8時20分くらいの図書館。
利用者は僕と、この子だけ。
「ソファーで横になりながら読める…!」
「ルールは守ろうね?」
「えー。私たちしかないのに」
「ルールだからさ。ね?」
「デートなんだからもう少しはしゃいでもいいのに」
「デート!?」
つい大きな声を出してしまう。
バッ、と職員に顔を向ける。
迷惑そうな顔はしてなかった、ホッと安堵。
「私じゃイヤ?」
カクッ、と可愛らしく首を傾ける。
「お姉ちゃんとが良かった?」
「嫌じゃないよ、全く」
「そ。よかった」
ニパッ、と無邪気に笑顔の幼なじみ。
「よしっ、デート楽しもっと」
…。
そっか、これデートになるのか。
図書館デートか。
夜の、2人きり。
これ以上意識するのは、やめよう。
閉館までいたけど、外に出ても雨は降っていなかった。
梅雨に入ったばかりの6月。
「ふふふっ」
相合傘を断り、少女は縁石の上を笑顔で歩く。
下に落ちたらワニに食べられちゃう、そんなゲームをしているのかもしれない。
僕はさりげなく、
「中学校の図書室もいいよ?」
「学校はイヤ」
「あう」
即察する。
そして、
「私の恋人になるんだったら学校行ってもいいよ?」
小悪魔の笑み。
いつものセリフ。
初恋だったあの人、の妹。
危ない作家志望、
止め方が分からない。




