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火守という名

彼女は名乗った。

「火守」と。


それは隊に所属していなくても誰もが知っているであろう事件。


5年ほど前だったか、大規模な妖侵入事件、結界ログの改ざん、原因不明の制御失敗など。

立て続けに事件が重なったらしい。


だが、目の前の少女が火守と名乗ったのは事実。

こればかりは聞かないとわからないが…。


「…火守」

「あー、やっぱ隊の人だね〜。そりゃ知ってるか〜」


その言葉だけで察したのだろうか。

彼女は困ったような顔をした。


「でも、どうせ知ってるでしょ?私から言えることは何もないよ」

「…そうか」


そんな有無を合わせないような空気に藍は頷くことしかできなかった。





           ○ ○ ○



「火守」。

その名が目の前の少女の口から溢れた。


ま、だろうね。

数年経っているとはいえ、すでに隊の教本に載っていることは知っている。

知らなければ、それこそ「なんで?」と、思っただろう。


だが、残念ながら当時の記憶はあんまりない。

教本では、当主は処分、分家は解体、赤の符は途絶えたという内容らしい。

「だから自営業?」

「そ。隊に入る気もないし、どうせ入れさせてくんないでしょ?」


別に隊自体は嫌いではない…いや、嘘。ちょっとだけ。

ほら、同業者だから…ね?

仕事取られちゃうし。


「でも、守ってる」

「うん。だって守るのが火守だから」



           ○ ○ ○


藍はわかった。

この少女が誰よりも街、結界を理解していると。


あの事件の真実は藍にはわからない。

この少女しかわからないことはたくさんあるのだろう。


藍とてずっといた組織を疑いたくはないが、この少女はずっと街を守ってきたのだろう。


自分は事実を受け入れるのみ。


「またどこかで会うかもな」

「…そだねー、そんときはよろしくね。宵野さん」


夜の結界は静かに音を立てた。

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