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能登より  作者: 秋月ニナ


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諸星2



(寝れるのかな?)


 今も揺れていて、誰かが騒ぐ声が聞こえている。プライバシーもない、寒いこの場所で休むことができるのか……?



(……私、自分のことばっかり考えている)



 もう十六になったというのに、どうしてこんなに子供っぽいのか。自分で自分が嫌になる。

 体育館に入っても暖房器具がない部屋は寒かった。それに常時誰かしら出入りするから、そのたびに冷たい風が部屋に入った。


(寒いなぁ)



 今何時だろう?

 壁にかけられている時計は地震の影響を受けたのか針が止まっている。

 仕方なくポケットに入っていたスマホを取り出すと電池が三十パーセントしかないことに気が付く。


(こんなことになるなら、ちゃんと充電しておけば良かった)



 着の身着のままで逃げてきたのだ。当然充電器なんかないし、モバイルバッテリーも部屋に置いてきてしまった。


(やだなぁ)



 どうせ自分を心から心配する友人なんかいない。それでも『圏外』という文字が心細くさせた。


(とりあえず充電器と布団、家から持ってこないと……)



 薄い毛布は支給されているが、これだけじゃ心もとない。

 一度家に戻って、なにかしらの荷物を持ってこなければ……。

 そう決めて、忙しそうに誰かの手当をしていた母の元に駆け寄る。



「お母さん」

「わっ! どうしたの?」

「一回、布団とかの荷物持ってくるよ」

「でも危ないよ! 暗いし明るくなってからのほうが良いんじゃない?」

「だって寒いし、このままじゃ風邪引いちゃうよ」



 私がそう言うと、母は困ったように眉尻を下げた。


「皆に着いていくから!」


 じっと私を見つめる母の心配そうな眼差しに怯みそうになる。だけど、動かないままでいると、不安と自己嫌悪で押しつぶされそうになるのだ。母はまだなにか言いたげだったけれど、他の人に声を掛けられて、会話が打ち切りになってしまった。


 それでもチラチラと母からの視線がこちらに向けられていることに気付く。

 私は「大丈夫だから」とうなずいて、体育館を出た。



 スマホを見ると夜の七時だ。

 街灯はなく、停電のため民家に電気は付けられていない。

 暗闇が支配した世界を歩く。もし、ここで猪や熊が出たら太刀打ちできないな、と考える。けれど耳を澄ましてみると、動物や鳥の鳴き声は全く聞こえてこなかった。


 聞こえるのは人の話し声だけ。


 もしかすると、動物達も地震の恐ろしさから身を潜めているのかもしれない。野生の動物が近くにいないことが分かると、少しだけ肩の力が抜けた。


 中学校の近くまでは人がいて、安心できた。

 ただ家の方向に進むたびに人が減っていく。



(寒いなぁ)



 本当だったら今の時間、おせちを食べて、デザートにアイスも食べるはずだったのだ。それを想像すると、よりむなしさが増した。


(なんでこんなことに……)



 何度も何度も考える。

 考えるたびに父に言われた「なんで能登なんかに行くんだ」という問いを思い出す。

 真っ暗な視界。スマホのライトを照らして歩かないと、どこに電線が落ちているのか、道路が断絶していないのか。それすらも分からない状況だった。



 今までに何度も歩いた道、それが真っ暗というだけで違う顔を見せられているようだ。

 中学校から家までの中間地点になった頃には一人ぼっちになっていた。

 スマホはいまだに圏外のまま。



 けれど、電波が復旧したとしても、私に連絡してくれる人はいるのだろうか?

 東京でも、能登でも、特定の仲の良い子はいた試しがない。



(……駄目。ネガティブなことばっかり考えている)



 空腹と寒さが悪い。

 グウ、とお腹が鳴る。

 一度空腹を意識するとよりお腹が減った感覚になるのはなぜなのか?


(お腹空いた)


 家に着いたら、台所にあるチョコレートを食べよう。



(それをポケットに入れて、お母さんにも差し入れしよ)


 きっと母は今も体育館で人を助けているだろうから。私よりもよっぽどお腹が空いているはずだ。


(こんな時に食べ物のことばっかり考えている)



 きっとこれは現実逃避に近いのだろう。だけど、そうでもしないと心細さに膝が折れてしまいそうだった。

 だから、あえて違うことを考える。



(なにを持っていこう?)


 一人で歩いてきているのだから持っていける量は限られている。

 あまり重い物も持てない。

 とりあえず上着を羽織って、毛布と充電器も持っていきたい。



(お母さんの上着も持ってこなきゃ)



 毛布も持っていくとなると、母の分の上着も重ねて着ていかなければ……。そんなことを考えているうちに家が見えた。

 いつもより時間が掛かってしまったが、なんとか辿り着いたことに安心する。


 ホッと気持ちが緩むのを感じながら、玄関の引き戸を開けようとした。けれど、玄関の戸は両手を使っても開かず、代わりに勝手口のドアは開いたままだ。

 玄関側の窓ガラスが割れて、瓦もコンクリートに落ちて粉々になっていた。



(靴、脱いでいったら危ないよね?)


 どこにガラスの破片が落ちているのか分からない。そんな状態で素足のまま歩いてしまえばあっという間に怪我をするだろう。

 ゆっくりと勝手口から家に入る。扉を閉めようとすると、玄関の戸とは逆に、開いたまま固定されていて、閉めることができなかった。


 仕方なく、靴を履いたまま上がる。ドアのことはあとで母に相談しなければ。

 そう思って廊下を歩こうとすると、廊下の片側の床が抜け落ちて、転びそうになった。



(なにこれ……?)



 明らかにもおかしかった。フローリングの床が波打ち、ただ立っているだけでバランスが崩れそうになる。


(早く出なきゃ……)


 階段を上がろうとすると、ギシギシと床が悲鳴を上げていた。もしこのまま階段が抜け落ちたとしたら……?


 恐ろしさにゴクリと息を呑んだ。


 早くここから出ないと。焦る気持ちばかりが増した。

 二階の押し入れに入っている毛布を取り出して、わざと階段の下に落とした。



 なるべく自分が歩いているところを避けて投げたのは一応の衛生面を考えてのことだ。

 祖母が住んでいた家は古く、階段は急だ。その上、地震でいつ家がぺしゃんこになるか分からない。現に天井がたわんでいる。



 毛布を両手に持って降りるとなると、スマホのライトは照らせない。真っ暗でなにも見えない状態で、手が使えないまま階段を降りなければならなくなる。それを避けるために毛布を下に投げたのだ。



(……落ちないようにしないと)



 長く家にいるのは危険だ。はやる気持ちを堪えてそろりそろりと階段を歩く。

 もしここで転んで足が折れたとしても、誰も助けてはくれない。




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