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能登より  作者: 秋月ニナ


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宮本編2


 集中して塗っていると、横からお腹の鳴る音が聞こえた。

 それも可愛らしい音ではない。とびきり豪快で大きな音が続けて二回。



 さすがに続けてお腹が鳴っているとなると、反応しないのも不自然だ。筆を止めて諸星を見る。

 隣に座る諸星が気まずそうに、お腹を撫でた。しかしその間にまたお腹が鳴った。



「……朝ご飯食べてきてないの?」

「……うん」



 躊躇いがちに諸星が答える。美意識のない諸星でもさすがに恥ずかしいと思っているのかその声は小さい。

 教室の壁に掛けてある時計を見るとまだ七時二十分だ。今の時間なら見回りにくる先生も居ない。さっと食べてしまえば、問題にならないはずだ。



「今のうちになにか食べれば?」


 そう提案すると諸星は首を横に振った。


「お昼ご飯も忘れてきちゃって……」

「あー……」



 困った様子の諸星に納得がいく。

 ここが都会ならさっとコンビニまで買いにいけるのだろう。

 だけど、この田舎では高校からコンビニまで歩いていけば片道三十分はかかる。往復するとなれば一時間の距離。誰かの自転車を借りれば短縮できるかもしれないけれど、道がデコボコしている今、自転車に乗るのは危なかった。



(今から歩いてコンビニに行けば遅刻になるし……)


 一応歩いて五分のところにスーパーはあるものの、開店する時間には一時間目が始まっている。

 困った様子の諸星に見つめられると、こちらまで困る。


(……一応食べ物はあるけれど……)


 チラリと視線が机に置いた鞄にいく。

 鞄の中には昨夜焼いたクッキーが透明のチャック袋に入れてあることを思い出したからだ。

 帰りの迎えを待っている間に食べようと用意していたもの。自分で食べるだけだから、飾り気のない袋に入れていた。



 それを渡すべきかどうか。


 そもそも仲が良いとは言えない相手が作った物を食べるだろうか?

 悶々と考えている間に諸星のお腹が鳴る。

 捨てられた子犬のような視線が居た堪れない。

 ――結局考えた末に、覚悟を決めて椅子から立ち上がる。

 解決策があるにも関わらず、困っている人を放っておくのはわたしの美意識に反していた。



(わたしが可愛いのは見た目だけじゃない。内面だってそうなんだから!)


 鞄からクッキーの入った袋を取り出して諸星に「食べる?」と聞いてみる。

 断られたら気まずいかもしれないけれど、言い出さずに後悔するよりは気が楽だ。

 チラッと諸星を見ると、彼女の目が輝いて見えた。


「良いの?」


 そう聞いているが、諸星の視線はクッキーに向かったままだ。

 分かりやすい反応につい笑ってしまった。


「駄目だったら言わないよ」


 持ってきたのはココアとバニラを重ねた四角いアイスボックスクッキー。

 自分で食べるだけだからと、包丁で切りそろえるだけのものを作ってきた。


「ありがとう」



 嬉しそうに笑った諸星の顔。

 きっと今クラスの男子が居れば、間違いなく赤面するだろう。それくらいの破壊力があった。


(……なるほど。これがギャップ萌え)


 普段無表情で何を考えているか分からない彼女が見せるギャップ。

 笑っていれば可愛いのにと余計なことを思いながら、袋を開けて諸星にクッキーを取らせる。

 おずおずと彼女が取ったのを見て、自分も一枚取り出す。

 バターをいっぱい使ったクッキーは我ながら美味しくできている。

 こっそりと諸星を観察すると、味わうようにゆっくりと噛んでいた。



「美味しい……! これ宮本さんが作ったの?」

「……うん」

「凄いね。お店の物みたい」



 屈託なく褒められると照れくさい。

 なんとなく自分の顔を見られたくなくて、クッキーの入った袋を諸星の手元に差し出す。


「ん」

「ありがと」

 一枚目と違って、ためらうことなくそれを取り出して頬張った。


「諸星さんは甘いモノが好きなの?」

「……食べることが好きなだけ。よくお母さんに食べ過ぎって叱られちゃう」



 恥ずかしそうに諸星がうつむく。叱られるほど食べているのに、ほっそりとした体形を維持しているのだから羨ましい。


(前にダイエットもしていないって言っていたし)


 さらりと女子を敵に回す発言をしているのに、ファンクラブまであるのはどういうことか?


「良かったらそれあげるよ」



 ここまで喜んでもらえると悪い気はしない。

 クッキーの入った袋をそのまま渡そうとすれば、諸星は遠慮した。


「えっ、さすがに悪いし」

「いいの。それに口止めも入っているから」

「口止めって……?」

「わたしがクッキーを作ってきていたこと誰にも言わないで」



 ただでさえ、一部の女子には『あざと女子』だと言われているのだ。

 お菓子を作って持ってきていることを知られたら、「あからさまに女子力狙っているよね」とかなんとか言われてしまうだろう。

 それに男子に知られると「自分にも作って欲しい」と期待した目で見られてしまう。

 お菓子作りは気が向いた時に作るのが楽しいのだ。『趣味』が『義務』に変わらないようにしておきたい。

 その意図に気付かなかったのか諸星は不思議そうに首を傾げている。



「それだけ?」

「うん」

「……ありがと。そういえば宮本さんはなにを描いているの?」


 ――毎日横の席に座っていながら、今更その質問をするのか。



(コイツ、どんだけわたしに興味がないのよ)


 一週間かけて下絵を完成させたのだ。その間にチラリとわたしの絵を見ればなにを描いているのか分かりそうなものを……。


 じとりと睨み付けたいところだが、完璧な美少女はそんなことはしない。あえてふわりと笑ってみせる。



「桜だよ」


 諸星の視線は色を乗せた場所だ。

 まだ桜には色を塗っていない。だから余計にその場所に視線がいったのだ。



「ここ、車も描いてあるし道路だよね? どうして黄色なの?」



 たしかに本来であればアスファルトの色は黒に近いグレーだ。そこを黄色に塗るなんておかしい。だけど今年は、今年だけは……その色で合っているのだ。





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