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 僕はハッとする。何も脳で精査せず、思ったことが口に出てしまった。ああ…だから僕はコミュニケーション能力が低いんだ。思わず鼻頭を掻く。


「アンドロイド? どういうこと?」


 緋奈が首を傾げて不思議そうに僕に問いかける。


 あれ、なんだこの反応? ……いや、知らないフリか。その手には乗らないぞ。


「アンドロイドだって心、あるよ」


 二葉が真っ直ぐ僕を見据える。数秒目が合っただろうか。僕は目を逸らす。緋奈は僕と二葉に目線を往復させていた。


「えっと、今の会話から推測するに、二葉ちゃんは、アンドロイドってこと?」


 緋奈は怪訝そうな声色で、だが分かりやすい作り笑いを浮かべ、仲裁に入る。


「うん」


 二葉が素直に頷く。ここでネタばらしか?


「え? またまた~。ふたりして私を騙そうとしてるんでしょー?」


 ん? 何だこの反応?


「緋奈が二葉さんと組んで僕を引っ掛けようとしてたんじゃないのか?」


「なにそれ?」


 あれ……。緋奈と二葉はグルじゃないのか? つまり、これは……二葉の中二病独演ショー?


「彰くん、信じてくれてなかったんだね」


 二葉は眉をハの字に曲げた。


「いや、だってほら、あり得ないだろ……?」


 僕は緋奈の顔を見る。緋奈は、私に話を振るなとでも言いたげにアイコンタクトをしてきた。


「昨日、豊島区で道路が陥没した事件があったでしょ」


「あ、ああ。水道管が老朽化して起きたっていう」


 いきなり話が飛んだ。何が言いたいんだこの重症中二病女子は……。



「あれ、私と、彰くんを狙うアンドロイドとの戦いの跡なの」



「二葉さん」


「何?」


 僕はもう耐えきれず聞くことにした。


「中二病?」


 二葉は額に手をやり、俯く。


「そう言われる可能性も予想してある程度覚悟してたけど、実際言われると結構辛いなあ」


 部室に沈黙が流れる。いつの間にか一年生もこちらに気を遣ってか、パソコンをいじる手を止めていた。


「私、帰る」


 二葉は目を伏せながら緩やかな動きで部室を出て行った。目が潤んでいるようにみえた。アンドロイドの目が潤むか? やはり今までのは二葉の妄言だろう

 僕は小さくため息を吐く。後ろから肩を叩かれる。振り返ると緋奈が眉根を寄せて何か言いたげにしていた。


「彰。今のは駄目。謝りに行って」


 僕は手をひらひらさせる。


「いや、僕は思ったことを素直に言っただけで」


「まだあまり関係築いてない人に、茶化すようなこと言っちゃ駄目だよ。たとえ図星だったとしても」


 その言い方は緋奈も二葉が中二病だと思っている節があるってことだ。僕は苦笑する。


「ほら、追いかけて。ちゃんと仲直りしてよね。大事な五人目の部員なんだから。私はパソコンの監督責任があるから、彰はそのまま二葉ちゃんと帰っていいよ。ほら、ファイト!」


 緋奈に肩を引っ叩かれる。


「やれやれ」


 僕は鞄を肩に掛け、部室を出て下駄箱に向かった。


「まだ近くにいればいいけど」


 校門を出ると左に、腕を組んで二葉が待機していた。


「うわっ」


「来ると思ってた。根っこは優しいもんね、彰くん」


「な、何でそんなのわかるんだよ……!」


「未来でずっとあなたと過ごしていたもの」


 まだその妄想設定続ける気なのか。僕はかぶりを振ってため息を吐く。


「一緒に帰りましょう。彰くんと話したい」


 不覚にもドキッとした。普通にしていたら可愛いのに、勿体ない。だがどこまでその設定が練られているか興味もある。僕は二葉と下校することにした。


「えっと、二葉さん。昨日アンドロイドと戦闘したとか言ってたけど、道路が陥没するってどういうこと……?」


 さあなんて切り返す?


「さん付けしなくていいよ。昨日池袋の商業施設行ったでしょ」


「うん……尾けてたのか!?」


 僕はのけぞる。もしかして、この女子、僕に惚れてたり……?


「彰くんを尾行してたアンドロイドがいたから、首根っこ掴んで道路に叩きつけたの。そしたら道路が陥没しちゃった」


「なるほど」


 この細い体にそんなパワーがあるとはとても思えない。設定に綻びが生じてきたぞ。


「陥没こそしちゃったけど、アンドロイドは無事破壊できたから安心して」


「うん……あのさ二葉さ、二葉。気になったんだけど」


「何?」


「きみが本当にアンドロイドなら、証拠を見せてくれよ。皮膚の下の機械の腕を見せるとか……」


「それは難しいわ。私は人に似せて作られているから、皮膚の下には疑似的な血液が流れているし、痛覚もあるから、皮膚を剥ぐのは痛い」



 アンドロイドに痛覚があるって欠点だろ……。


「アンドロイドに痛覚があるって欠点だろ……」


 思考と言葉が同時に溢れた。しまった、また失言したか。


「心に寄り添えるように。ということらしいわ。私に感覚機能があるのは」


 二葉は平静な様相で答える。


「へえー……じゃあさ、何でこのタイミングで僕に、自分がアンドロイドだと打ち明けたんだ?」


「もう影から見守っていればいい段階じゃなくなったの。高校入試の時期あたりから彰くんのことをずっと見ていたんだけど、昨日ついにアンドロイドが、彰くんを襲おうと現れたから」


 おいおい、本格的にストーカーだな……。そんな前から目をつけられてたのか僕は。頭がぶっ飛んでいなければ嬉しかったかもしれないのに。


「これからは、堂々と彰くんを守らせてもらうわ」


「ま、まさか家にまで入るわけじゃないよな?」


「そこはプライバシーを尊重するわ。中に入らず、家の前で張ってるから」


「張ってるって……食事は? 睡眠は?」


 二葉は目をしばたたかせる。僅かに笑っているようにみえた。


「心配してくれるんだ」


 僕は頭をポリポリと掻く。


「いや、心配っていうか、まあ、当然の疑問だろ?」


「大丈夫。食事も睡眠も、摂ってもいいけど摂らなくても平気なの私」


「そっ……かぁ」


 流石にその設定は無理あるだろうとは、突っ込まないことにした。


「その、僕を狙うアンドロイドは何でこの時期にやってきたんだ?二葉がいない時期にやってきてたら、障害無く僕を殺せたんじゃないのか?」


 二葉の妄想設定に付き合うのが、若干楽しくなってきた気がする。


「緋奈、日記つけてるでしょ」


「うん? そうだな」


 何で知ってるんだ? 緋奈が言ったのか? 初対面で日記のことなんて話すか……?


「その日記に、二千二十四年十一月三日。彰に文章生成AIを教えてもらったと書いてるの」


「それが……どうかしたのか?」


「この出来事がきっかけで、私や他のアンドロイドが生まれたのよ」


「え」


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