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 翌日。登校中、緋奈に河瀬の行動のあらましを伝えた。緋奈はなるほどと、どうすればいいのか考えてみると言って、下駄箱で別れた。


 教室に入る。一週間休んでいたからといって、心配して声をかけてくれる人なんてやはりいない。まあそんなもんだよな、と特段心に波を立てずいつものように僕は授業を受ける。


 部活動に行く。一年生ふたりに、体調を心配され少し申し訳なくなったと同時に嬉しくなった。二葉も心配されていた。そういや二葉は何と言って学校を休んだのだろう? 僕はひっそり聞いてみた。


「二葉、何て言って学校休んだんだ?」


「インフルエンザに罹ったって言ったよ」


 同じ!? 怪しまれないか……? いや僕と二葉は一見接点がなさそうにみえる。ふたりで画策したとはとても思われないか。


「工藤先輩。新しい部誌読みますか?」


「お、読むよ」


 一年生が部誌を手渡してくれた。僕はカバンを下ろしソファに腰かける。

 読むのを促すってことはこの子は感想が欲しいのかな、と思い一年生の小説から読む。


 読み終えて一年生に声をかける。


「これ、面白いな。タイトルが伏線になってるんだな。凄い」


「ありがとうございます」


 一年生は微かにはにかんだ。


 次に僕は緋奈の小説を読む。記憶喪失の女性が記憶を取り戻し、支えてくれた男性と付き合って終幕した。これまんま僕と緋奈じゃ……。


「まんまじゃん……!」


 僕は鼻頭を掻く。


「ん、まんまって?」


「おわあ!」


 緋奈がひょっこり横から顔を出す。


「なんだ緋奈か……。いや、これ、これのこと」


 僕は部誌を指さす。


「彰、楽しく書けることが大事って言ってたじゃん。楽しく書かせて頂きましたー」

 緋奈はひらっと敬礼した。


 なんとも照れくさい気持ちになったが、それを悟られないように努める。


 部活を終えて、下校する。緋奈が話を切り出す。


「河瀬と接触する良い方法を思いついたの。河瀬は四時頃大学を出るんだよね? 部活休めばギリギリ間に合うと思うから明後日、河瀬の元に行きましょ」


「何で明後日? 明日じゃ駄目なのか?」


「明日は次の日二年生は部活休むって一年生に伝えなきゃいけないでしょ」


「ああなるほど。それで、河瀬と接触する良い方法って?」


「秘密。ベタな方法なんだけどねー」


「……。危険なことはするなよ」


「うん。大丈夫」


 次の日、一年生に翌日二年生は休むことを伝えて、また次の日、僕と緋奈と二葉は東大前にいた。二葉が緋奈に何か手渡した。


「それ、発信機兼盗聴器。念のため持ってて」


「うん。ありがとう」


 河瀬が大学から出てきた。


「緋奈、あいつが河瀬だ。尾けるぞ」


「ふーん、イケメンだね」


 ……。僕は少しムッとしたが、まあ確かにイケメンではあるなと自身を制した。


 河瀬はカフェに入った。僕たちもカフェに入り、河瀬と離れた席をまず確保する。緋奈がドリンクを注文しに行った。コーヒーを受け取りそして、つまずいたフリをして河瀬にコーヒーをぶっかけた。


 おいおい、これが良い方法か……。確かにベタだが、河瀬が怒ったらどうするんだ。


 河瀬と緋奈は何やら話し込み、十分ほど経って緋奈が戻ってきた。コートを持っている。


「連絡先ゲットしたよ。コートをクリーニングして渡すから次会う約束も取り付けたし」


「おお……凄い。コミュ強だ……」


 僕は率直に感心した。緋奈は口角を上げ得意げな顔をしている。


「でも危ないぞ。逆上されたらどうするんだ」


「もう。うまくいったから、やったね。でいいじゃない」


 うーん、僕が消極的過ぎるのか? 僕は腕を組む。


「とにかく、何か進展があったら教えるね。じゃあ帰ろっか」


 何だか冷やかしみたいなカフェの利用の仕方になってしまって後ろめたさが残り、店員と目が合わないよう伏し目がちに店を出た。


 一週間後、河瀬のコートのクリーニングが終わったので、文京区のカフェで緋奈と河瀬は会うことになった。カフェの場所を事前に指定されていたので、僕と二葉は先にカフェに入って、河瀬のいる席から離れた席に座る。


 緋奈がやってきた。僕は盗聴器の受信機を耳につける。


『お待たせしてすみません。これ、コートです』


『ありがとう。うん、バッチリ』


『河瀬さんはこの辺りの大学生ですか?』


『そうだよ』


『もしかして……東大生?』


『うん』


『わー! 凄いですね! そのルックスで更に頭も良いって、素敵です!』


 東大生なのは僕から聞いて知っていただろ。白々しいな……。いや、これがコミュ力……? 


 その後は当たり障りのない会話を一時間ほどして、河瀬と緋奈は解散した。何だか、本当に河瀬に惚れているんじゃないかという語気で緋奈が喋っていたので僕は不安になってきてしまった。


 緋奈と合流して、家に帰る道中聞いてみた。


「緋奈、河瀬に惚れてないよな……?」


「え? 何言ってんの彰のバカ! あり得ないよ!」


「あ……ごめん」


 良かった。僕は安心して胸をなでおろす。


「でも、事前情報何も知らないで出会ってたら危なかったかもね」


「……」


「未来の私がまんまと引っかかった実績もあるし、ね。まあ大丈夫だよ今のところは」


「今のところは?」


 僕はジトっとした目で緋奈を見る。


「絶対! これからも大丈夫!」


 緋奈はトンと胸を叩いた。


「あ、河瀬から連絡だ」


「内容は?」


「日曜日、カラオケ行かないか? だって」


「カラオケ……。密室でふたりは危ないだろ」


「いやいや、防犯カメラ付いてるし変なことはしないでしょ」


「……緋奈が他の男とふたりで密室にいるのが嫌だ」


 僕は後ろ髪をポリポリと?く。


「彰……。でも断ったらもう誘われないかも」


「それはそうだな、はあ。わかった。でも僕も違う部屋取って様子見てるからな」


「うん。そうして」


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