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 僕の部屋に緋奈と二葉が入る。

 夜に女子二人と同じ部屋にいる……。凄く緊張する。僕は手汗を悟られないように椅子に座り腕を組む。手汗なんて触れられもしなければ、分かるはずないのに。二葉がいなければ、どうなっていただろう。夜にカップルが部屋で二人きり……。いや、駄目だそんな皮算用していては。僕はかぶりを振る。


「彰、考えたんだけど」


 ベッドに座った緋奈が会話を切り出す。


「ん?」


「河瀬の件。私、囮になるよ」


「! 駄目だ! そんなの、駄目だ……!」


 僕は腕組みを解き膝の上で拳を握る。


「でもこれしか方法なくない?」


「でも、緋奈が危険な目に遭ったら、悲しいよ……」


「たとえ危険な目に遭っても、未来で河瀬に殺されるか、今殺されるかの違いじゃん。何もしないで死を待つより、何か行動を起こした方がいいよ」


「未来で殺されることはないだろ。僕がついてるんだから」


「そんなのわかんないじゃん」


 この前は、僕がいるから大丈夫だと言ってたじゃないか。何考えているのか、女子というのはわからない。


「やっぱり、緋奈って抜けてるよな」


 あ、しまった失言だったか。


「はあ? 何でそうなるの」


 僕と緋奈は顔を見合わせお互い眉根を寄せる。僕と緋奈はほぼ同時にプイッと目を逸らした。なんだか、彼女だと考えると目をずっと合わせられない。緋奈だけは、目を合わせていられるただ一人の異性だったのだが。僕は緋奈をチラリと見る。


「河瀬のために揉めるなんて馬鹿らしいな。ごめん緋奈」


「……うん」


 緋奈は伏し目がちに頷いた。


「とにかく、緋奈が囮になんかなっちゃ駄目だ」


「二葉ちゃんはどう思う?」


 何故二葉に聞く。まあ二葉も滅多なことは言わないだろう。


「私は緋奈の提案に賛成」


「え? 何でだ?」


 僕は思わず少し前のめりになった。


「できることは試してみるべき。危険を感じたら逃げればいいし、彰くんと私がついてるでしょ」


 むむむ。それはそうだが……。


「決まりね。じゃあ冬休みが終わったら行動を開始しましょ」


「お、おい。僕は同意してないぞ、まだ」


 緋奈は僅かにため息を吐き、やれやれと両手を振る。


「彰、男らしくない」 


 がーん。辛い……。


「……わかった。危険だと思ったらすぐ逃げろよ。僕らも危険だと思ったら、割り込むからな」


「うん。わかった」


 それで今日はお開きとなった。緋奈を家まで送って、僕は寝る体勢に入る。いつものように二葉に話しかけた。


「まず河瀬の生活パターンを知っておかないとな。二葉、現時点で何かわかるか?」


「文京区の大学に通ってるってことくらいかな。河瀬は今、大学生みたい」


「なるほど。一度、朝から尾けてみるか」


「一回だけにしてね」


「え?」


「危ないから」


「うん……わかったよ」


 そうだ、相手は殺人鬼。普通に考えて危ないよなと思い直す。 


「二葉もついてくるんだよな?」


「うん。でもあくまで私は彰くんの周りを警戒するから、河瀬の動向にまでは気が回らない。河瀬の尾行は彰くんの役目だよ」


「ああ」


「……うまくいくといいね」


「そうだな」



 新年を迎え一月五日の松の内の午前中。僕と緋奈、そして二葉は神社にお参りに来ていた。三が日に行かなかったのは、二葉が言うには人がたくさんいると僕の安全が確保し辛かったかららしい。


 僕は無難に無病息災をお祈りした。緋奈に何をお祈りしたか聞いたら「秘密!」と屈託ない笑顔を向けられた。可愛い。二葉は、僕と緋奈が幸せになりますようにと祈ったらしい。良い奴だ。


 おみくじを引いたら三人とも大吉だった。なんだか逆に怖く感じた。


 緋奈は午後から用事があるみたいで、僕は午後から部誌に載せる小説を書いた。あと少しで完成だ。明日も書いたら年明けの部活に間に合うだろう。



 一月八日、三学期が始まった。



 皆無事に部誌に載せる小説を書き終えていて、緋奈はホッとしていた。今日の部活動は部誌製作の一日となった。


 帰り道、緋奈に相談される。


「囮になるって言ったけど、どうやって囮になればいいかなあ。まず河瀬と出会って気にいられなくちゃいけないよね」


「そうだな。河瀬の行動パターンを分析しなきゃな。で、うまく出会えるタイミングを探す。任せてくれ今度河瀬を尾行する」


「え、危ないんじゃ」


「一日だけだよ。それなら怪しまれないだろ」


「一日だけじゃ、行動パターンの分析なんてできないんじゃ……?」


 僕はハッとする。


「あ。それもそうだな。じゃあ一週間」


「彰くん」


 二葉がジトっとした目で僕を見た。そうだよな、一回だけって言ってたもんな。でも僕はすっとぼけてみる。


「な、なんだよ?」


「……いえ、なんでもない」


 ありがとう二葉。


「彰、学校はどうするの?」


「休む。インフルエンザに罹ったとか言えば一週間は休めるだろ」


「そっか。寂しくなるね。……ありがとう。頑張ってね」



 来週、学校を一週間休んで河瀬を尾行することが決まった。


 そして一週間後、尾行決行日がやってきた。


 家を出て僕は学校にインフルエンザに罹ったと連絡する。今週いっぱいは休むようにとお達しを受けて電話を切る。河瀬の住んでいる麻布のタワーマンションに向かった。


 タワーマンションに着くと同時にスラッとした長身のオフィスカジュアルな服装の男が玄関から出てきた。二葉が僕に「あれが河瀬鉄矢だよ」と教えてくれた。僕は河瀬鉄矢の後ろを気づかれないよう慎重に尾ける。文京区の大学に着いた。……東大じゃん。これで性格が表面的にでもよかったら、確かに河瀬の外面は完璧だなと思った。


 河瀬は大学に入っていった。僕も入ろうと思ったが、あることに気づいた。僕、制服じゃん。


 これでは目立ってしまう。僕は諦めて、大学の前で待機した。昼になり、お腹が空いたのを我慢しながら河瀬が出てくるのを待っていると、警察官が近づいてきた。職質か。やばい、学校に連絡されては……。

 と思ったら二葉が警察官をバックドロップした。ゴギッ! と嫌な音がした。何かが折れる音。二葉は警察官の左目に人差し指を突っ込んで、ドンッ。と銃弾を食らわせた。


 僕は二葉に駆け寄る。


「アンドロイド……か?」


「うん。職務質問のフリして殺そうとしたみたい」


 最近現れなかったから少し気が抜けていたが、そうだ、僕は命を狙われているのだ。僕は背筋に悪寒を覚え、ゴクリと唾を飲み込む。


 四時頃、河瀬が大学から出てきた。そのまま近くのカフェに入った。ここは若者が多い。ここで、ターゲットを品定めしているのか? 河瀬はタブレットをいじりながらコーヒーを飲んでいる。僕は空腹を我慢できず、サンドイッチを頼んだ。


 河瀬は七時頃まで、カフェにいてその後自宅に帰った。それを見届けて僕も自宅に帰った。


 母に学校を休んだことはバレていないようだった。ひと安心。緋奈から『大丈夫だった?』とチャットが来ていたので『大丈夫だったよ』と返して寝た。


 翌日。僕は鞄に私服を詰めて家を出た。母は午前九時頃まで家に居るので、学校に行くフリをして家を出なければならなかった。


 駅のトイレで私服に着替えて、河瀬の住んでいるタワーマンションに向かう。今日もタワーマンションに着くのとほぼ同時に、河瀬は玄関から出てきた。僕は後を尾ける。大学だ。


 少し躊躇したが、私服だし堂々としていたら大丈夫だろうと、僕は大学内へと入った。


 河瀬は一般の大学生らしく普通に講義を受けて、普通に(おそらく)友人と談笑しながら昼食を食べて、よくいるであろう大学生の一日を過ごしていた。

 

 そして、今日は千代田区のカフェで午後七時頃まで居座り、自宅へと帰っていった。おそらく色々な場所のカフェに行くのだろうなという気がした。


 予想通り、それから平日一週間は、大学が終わったらカフェという日程で河瀬は過ごしていた。休日、河瀬はマンションから出てこなかった。


 明日になったら緋奈に報告しよう。緋奈からは毎日安否確認のチャットが来ていた。嬉しい。



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