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翌日。起きて、付き合ったんだし何かおはようとか連絡した方がいいかな? などと考えて二葉に聞いた。二葉は、どっちでもいいんじゃないか、恋愛には色々な形がある。と、なんだか冷めた返答をした。
この二葉の考えは、二葉を開発した緋奈の思考がベースなのだとしたら、おそらく緋奈も同じような考えだろう。とは思ったが、やはり不安なので僕は、『おはよう。今何してる?』と素っ気ないか? と悩みつつ緋奈にチャットを送った。返事はすぐに返ってきた。嬉しい。部誌に載せる小説を書いているようだ。邪魔しちゃ悪いなと思って、頑張れとだけ送って僕も書くかと思い、机に向かった。
気づけば夕方までぶっ通しで小説を書いていた。
昼食は挟んだが。約九千字といったところか。今僕は幸福に満たされているので筆が乗ったのだろう。
スマートフォンを見ると、『彰は何してるの?』とチャットが来ていた。しまった。見逃していた。僕は慌てて自分も小説を書いていたと返信を送る。すぐ返事が来た。嬉しい。どれくらい進んだのかと聞かれたので、半分くらいと答え緋奈はどれくらい進んだのか聞く。四分の一くらい書けたみたいだ。明日部室で読ませてよと送ると、完成してからと返事が来たので少しガックリした。ふと、休日になんてことない連絡を取り合う彼女がいるって素敵なことだなとしみじみした。
僕は窓から外を眺めている二葉に声をかける。
「二葉ー。二葉は彼氏作らないのか?」
何聞いてるんだろう。浮かれているな僕。
「……私が恋愛できると思う?」
「いや、二葉、見た目可愛いし、男いっぱい寄ってくるんじゃないか?」
「確かに高校に入学して今まで八人に告白はされたけど」
ええ? 凄いな二葉……。
「私は彰くんを守らなきゃいけない。恋愛にかまけてる暇なんてないよ」
「じゃあその、僕を守る必要がなくなったら恋愛してみてもいいわけだ」
「アンドロイドだと知って尚、私を好いてくれる人がいたらね」
「あ、じゃあ将来、緋奈に男性アンドロイドを作ってもらったらいいんじゃないか?それと恋愛すれば」
「もっと運命的な出会いがしたい」
「え?」
「運命的な出会いがしたいの」
おおう……案外ロマンチックだな二葉。
「いつかできるといいな。恋愛」
「強いて言うなら」
「ん?」
「未来の彰くんとは恋愛みたいな関係だった」
!? 僕はせき込んだ。
「な、な? 未来の僕は二葉が恋人だったのか!?」
「正確には違うんだけど……私を大切に思ってるのが伝わってきて、私も彰くんといると安心感があって……。お互い好きとは言わなかったけど、心地いい信頼関係だった」
「な、なるほどな……」
「でも」
「?」
「彰くんは緋奈を好きなのがひしひし伝わってきてたから、私と彰くんは恋愛関係じゃないね。ややこしいこと言ってごめん」
二葉は本当に人間みたいだなと妙に感嘆した。その後は特段つつがなく過ごし、緋奈とは『おやすみ』とだけチャットをして一日を終えた。
月曜日。僕と緋奈は最寄り駅で待ち合わせをして、二人で学校に向かった。正確にいうと三人だが。後ろから二葉がついてきている。通学路途中で緋奈が、二葉も一緒に喋ろうよと誘って、二葉も僕たちの会話に加わって一緒に登校した。自然と緋奈の手に僕の手が触れて、思わず手を引っ込めてしまった。そのまま繋げばよかったか……? と後悔した。
授業、部活を終えて緋奈と二葉で一緒に帰った。クリスマスに遊ぶ約束をして、浮足気味に帰宅した。
クリスマスデート……。ああ人生って素晴らしい。でも二葉が常に見てるんだよなと、少し気落ちした。
クリスマス当日。クリスマスと言っても特別なことをするわけではない。昼食を一緒に食べて、映画を観て、ゲームセンターでUFOキャッチャーなどをして、カフェでまったり過ごしちゃったりして、夜は僕の家でケーキを食べるといった段取りだ。それに、二人だけじゃない。二葉も今回は遠巻きに見てるのではなく、一緒に日程を回る。
緋奈はふんわりとした群青色のニットワンピース。可愛い。
二葉は白シャツにクリーム色のニットベスト、膝下丈スカートだ。清楚という感じがする。
映画は、カップルで恋愛映画を観るなんてベタで小っ恥ずかしいから僕はアクション映画を推したが、緋奈と二葉の圧に負けて、恋愛映画を観ることになった。ロマンチストな二人だ。
映画は……うん。微妙だった。でも上映中チラリと緋奈を見ると涙を流していた。可愛いかった。二葉は、顎に手を当て何か考えてるような様相で映画を観ていた。
映画を観終わり、次はゲームセンターではなくカフェに行くことになった。
カフェで緋奈の映画の感想弾丸トークを、否定しないように努め、うんうんと頷きながら聞き僕はどうだったか聞かれたので、可もなく不可もなくと言ったら、緋奈と二葉にジトっとした目で、冷めてるね。と言われて駄目な発言だったか? と少しばかり焦ったが、緋奈と二葉は顔を見合わせて笑った。楽しんでくれているならよかった……。
ゲームセンターで僕はぬいぐるみを三つ取った。緋奈はUFOキャッチャーの才能がないようだった。二葉は「私は絶対取れるから面白みがない」とプレイを拒否したので、
一回だけということでどうやっても取れそうにない台をプレイさせてみたら、難なく一発で景品を取ったので、僕と緋奈は驚嘆した。
本当はラノベのキャラのフィギュアを取りたかったが、デートでそれを狙うのはちょっと恥ずかしいよなあと思い、やめておいた。今度一人で取りにこよう。
僕の家に行って、母が買ってきたケーキとローストチキンを皆で食べる。
母が緋奈に喋りかける。
「緋奈ちゃん、久しぶりね。記憶喪失になって大変だったんでしょ? ごめんなさいね彰が」
確かに原因を作った一端は僕にある。僕は黙ってローストチキンを頬張る。
「いえいえ、記憶が戻ったのも彰のおかげなので……」
「そう。彰、二葉ちゃんと緋奈ちゃんに囲まれて、幸せね。どっちが好きなの?」
母が野次馬根性でニヤニヤ聞いてきた。僕はローストチキンが喉に詰まり、炭酸飲料を喉に流し込んだ。
「緋奈ちゃんは幼馴染で、二葉ちゃんはここ最近ずっと居てもう家族みたいなものだから、彰、迷っちゃうわよね」
母は頬に手を当てにっこり微笑む。
「家族みたいなものじゃなくて、本当に家族になります」
「え?」
二葉が言った言葉に、緋奈と母が同時に反応した。二葉は言葉を続ける。
「緋奈が。ね、緋奈」
「あ……えっと、うん。まあ……いずれは、なれたらいいな」
緋奈は顔を微かに紅潮させて目を伏せる。
「え、まあまあまあ、彰……緋奈ちゃんと!?」
母は仰々しく口に手を当てて驚いた。
「ああ、うん、付き合ってるよ」
まさかこのタイミングで言うことになるとは。まあ遅かれ早かれだ。僕は照れをみせないように開き直ることにした。
「まあ~! 二葉ちゃん感想は?」
急に話を振られた二葉は目をしばたたかせて答える。
「? それは、良かったと思ってます。」
「そう……。しかしねえ、彼女がいるのに違う女子とひとつ屋根の下で過ごしてるのって罪よねえ~」
余計なこと言わないでくれ……。僕は母の発言に辟易した。
「緋奈から了解は得てるよ」
「そうなの?」
「はい。彰を信じてますから」
「はあ~、若いっていいわ~」
母の情緒は大丈夫か。要らぬ心配だな。僕はローストチキンを食べ終わり、ケーキに手を伸ばす。
なんてことない雑談に花を咲かせ夕食の時間は終わった。




