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「緋奈。よく聞いてくれ。もう正直に言うよ」
「あ、やっぱり嘘ついてたんだ。最悪」
僕と緋奈は向かい合わせに座る。
「僕は未来から来たアンドロイドに命を狙われているんだ」
「ん? あれ、まだ嘘つくガッツあるんだ」
緋奈は足を組む。
「嘘じゃないんだ! 二葉が今戦ってる相手。それが僕を狙うアンドロイドだ」
「うーん。確かに二葉ちゃん、横に吹っ飛んでいったけど。今戦いの真っ最中ってこと?」
「ああ」
「……二葉ちゃんは何者なの?」
「二葉も未来から来たアンドロイドだ。僕を守るためにやってきたんだ」
「誰が何の目的で、彰を狙っているの」
包み隠さず言うか? 言ってしまおう。
「緋奈の将来の夫だ。緋奈はこれから先、アンドロイドを開発する。それを悪用しようと考えた夫に緋奈は殺されるんだ。それで未来の僕は、緋奈が殺されないよう、アンドロイドを開発するのを阻止するため、二葉をこの現在に送ったんだ。つまり、緋奈を悲劇から守ろうとしてる僕を殺そうと緋奈の未来の夫が殺人アンドロイドをいま現在に送っているんだ」
伝わったか? 僕はゴクリと唾を飲み込む。緋奈は微かに息をふうと吐く。
「……だから私にAI使うのやめさせようとしてたんだ」
「! ああ、そうだ」
伝わったようだ。ぼくはホッと胸をなでおろした。
「冗談だとしたら笑えなさ過ぎるよね。それに、だから彰は、身を危険に晒すかもしれない。とか言ってたんだね。前にカフェで襲ってきた女性が、彰を狙うアンドロイドだとしたら辻褄も合うし」
「……ん? 緋奈、記憶が……?」
緋奈はこくんと頷く
「うん。全部思い出した」
僕は目をしばたたかせる。
「……! そうか! そうか……!」
不覚にも涙が出そうになるが、グッとこらえた。
「そっか。彰は私を守ろうとしてたんだね」
「うん。そうだ」
改まって言われると小っ恥ずかしい。僕は後頭部を掻く。
「うーん、じゃあ、私の未来の夫って、彰じゃないんだ」
緋奈は視線をどこに焦点を合わせるもなく泳がせた。
「ああ……残念ながら」
ん? 待てよ。緋奈は僕が夫じゃなかったことにガックリきてるのか?
「緋奈」
僕は緋奈を真っ直ぐ見据える。
「ん?」
緋奈も僕をじっと見る。
「緋奈は僕が好き?」
「なにそれ、どういう意図?」
しまった。照れくさくて変なこと聞いてしまった。
「好きだよ。恋愛的にかはちょっとわかんないけど」
心臓が高鳴る。背中に冷や汗を感じる。言うぞ、言うぞ。
「僕は緋奈が好きだ。恋愛的な意味で。付き合ってくれ」
言った。僕は思わず目を強く閉じる。今だけは、緋奈を直視できない。
「あれ、何だろう。凄く何か胸に湧き上がるものが……嬉しいってことなのかな」
僕は薄目を開け緋奈をチラリと見る。緋奈は両手で胸を押さえ、顔を紅潮させていた。
「うん。……わかった。私も彰が好き」
「え、じゃあ……」
僕は思わず前のめりになる。
「これから改めてよろしくね。彰」
「あ、ああ……!ああ!」
僕は天井を見上げる。付き合えた……付き合ったんだ僕は緋奈と!
ゴンドラは頂上を過ぎていた。
僕と緋奈は見つめ合う。
「ははは……。何か照れくさいな」
「あはは。そうだね」
河瀬の魔の手を逃れるためには、ここから僕と緋奈は結婚までいかないといけない。これは、まだ緋奈には伝えなくていいか。
僕と緋奈はなんだかこの状況が面白くなってお互いに笑い合う。
ゴンドラが地上に着く。
二葉が扉を開けた。そうだ、悠長にしてる場合じゃなかった。一美が襲撃に来ているんだ。
「なんとか追っ払えた。決着はできなかったけど」
「あ、そっか。ありがとう二葉。……!」
二葉の左腕の肘から下がもげていた。右手にもげた左腕を持っている。左腕は血まみれだ。
「疑似血液の循環を止めたから、これ以上は血が滴らないけど、見た目グロいよね、ごめん」
「え、きゃあああああ!」
僕の後ろから顔を覗かせた緋奈が叫ぶ。
「二葉ちゃん、それ、痛くないの!? 平気なの? ほ、ホントにアンドロイドなんだ……」
緋奈は口元を押さえる。
「しまった。緋奈がいるのを失念してたわ」
二葉は気落ちした声を出す。
「大丈夫だ二葉。緋奈にはもう伝えた。……痛くないのかそれ。痛覚あるって言ってたよな?」
僕は鼻頭を掻く。
「そう……。言ったんだ。痛みは大丈夫。痛覚を一時的に切ってるから」
「ならよかった」
僕はふうと息を吐き、辺りを見回す。観覧車の係員が倒れている。
「あの係員、死んでないよな?」
「大丈夫。気絶してるだけ」
僕は浅く深呼吸した。
「彰くん、告白は成功した?」
「馬鹿。告白してなかったら今のは問題発言だぞ。……成功したけど」
「ああごめん。成功したんだ。やったね」
二葉はニコリと表情を作る。腕がもげているのにその笑顔。なんだかアンバランスだった。
「私のこと話したんだったら、もう包み隠さず話した方が良いよね。緋奈、これから時間取れる?」
「私、六時には帰らないと……。あ、でも彰の家に居るって言ったら六時過ぎても大丈夫かも。お母さんに聞いてみるね」
「オッケー出たら、私のウチに行きましょ。左腕直しながら話すよ」
「何で僕の家なら大丈夫なんだ?」
「親同士が仲いいからだよ」
緋奈は母親に電話した。




