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下駄箱に、手紙が入っていた。
まさか、ラブレター!? でも僕は緋奈が好きなんだ。すまない……。浮足立って手紙の内容を読む。
『放課後、屋上に来て。二葉』
なんだ二葉か。一緒に登校している時に言えばよかったんじゃないのか? そもそも一緒にいたのにどうやって手紙を入れたんだ? アンドロイドだからこそ出来る人知を超えた方法があるのか? もっと手軽にスマートフォンにメッセージ送るとかあるじゃないか。なんだってこんなまわりくどいことを……。
僕は肩を落とし、教室へと向かった。二葉は距離を取って僕の後ろをついてくる。これは僕が提案した。
二葉のような見た目が綺麗な可愛い女子と一緒にいると、悪目立ちして周りに目をつけられてしまうかもと。
放課後、僕は屋上へ向かう。この学校、屋上のドアに鍵はかかってないのか? 杞憂だったようだ。屋上へのドアはすんなり開いた。
中央に女子が立っている。ツインテールの髪型。二葉じゃないのか……? いや、顔立ちと背格好は二葉だ。
女子は僕を見てニコリと笑みを作る。
「彰様、お話しておきたいことがあります」
「様? 何だかしこまって。彰くんでいいよ」
「あ、えっと、うん。話したいことがあって。彰くん」
「何だ?」
僕は二葉の方へ近づく。
「彰くん駄目! そいつは私じゃない!」
後ろから声がした。僕は反射的に声の方へ振り向く。
「え? 二葉?」
ストレートヘアのいつもの髪型の二葉が立っていた。
「二葉が、ふたり……?」
僕は視線を彷徨わせる。普通に考えれば、ストレートヘアの二葉が本物だが……。
「そいつは一美。私の元になったアンドロイド一号機、私の姉よ」
二葉? は鋭い目つきで、一美? を見つめる。
ツインテールの一美? が言う。
「嘘だよ! そいつが一美。彰くんを騙そうとしてる!」
なにがなんやら……。僕はたじろぎ一歩後ろに下がる。
「彰くん。一美に近づいたら殺されるよ」
ストレートヘアの二葉? が僕の方へと歩いてくる。
「待て待てこっちに寄るな。どっちが本物か考える時間をくれ」
二葉? は足を止めて、眉をハの字にする。
「彰くん、私が本物って分からないんだね……」
怪しい。二葉がこんなあからさまに悲しむか? いや、確か中二病って指摘した時も悲しんでいたよな。じゃあこっちが本物?
「彰くん。騙そうとしてたらこんなあからさまに髪型変えないでしょ。偽物って言ってるようなものじゃない。私が二葉だよ」
確かに。ツインテールのこっちが二葉……?
「一美は、私を倒せないからこんな姑息な手段に出たんだよ」
ストレートヘアの二葉? が怒気を含んだ声色で言った。
「自分で言ってて恥ずかしくならない? 一美」
ツインテールの二葉? も同じく怒気を含有した声色で言った。
「分かった、分かった」
「え?」
「どっちが本物か分かったの?」
僕は手をひらひらさせる。
「僕がこの場から去ればひとまず解決だ。じゃあそういうことで。ドアから離れてくれ、ストレートヘアの二葉」
「「それはだめ」」
どちらがそうとは分からないが、二葉と一美、両者同時に発語する。どうやら姉妹というのは本当っぽい。
「ここで彰くんが私たちを判別できないと、これから先また同じような危険に出遭うと思う。今、しっかりと見定めて」
ストレートヘアの二葉? が僕を真っ直ぐ見据える。僕は目を逸らした後、いつも目を逸らさず二葉の顔の特徴を、しっかり精細に覚えていればよかったと悔いた。
「今が、私と一美を見分ける最大のチャンスだよ。彰くん」
ツインテールの二葉? が真剣な眼差しで僕を見た。数秒目を合わせたが、やっぱり僕から目を逸らす。
僕は目頭を押さえて、視線をふたりへ往復させる。どっちだ? 間違えたら殺されるだろう。
身震いがした。口の中が渇く。
「そもそも、屋上に呼び出して、話ってなんだ?」
僕はツインテールの二葉? に聞いてみた。
「それは、二人きりじゃないと話せない」
「今じゃなきゃ駄目なのか? 二人きりになる機会は毎日あるだろ」
僕の家だ。
「今じゃなきゃ駄目なの」
……。怪しい。だが百パーセントじゃない。どうしたものかと僕は腕を組み頭を傾げる。そもそも僕を屋上に呼び出した意図は? 襲うならここじゃなくてもいいはずだ。あ、二葉を倒せないからって言っていたな。じゃあここでずっと過ごせば……いや、根負けするのは僕か。アンドロイドは飲食、睡眠不要らしいが、僕はそういうわけにはいかない。
「なかなか決められないみたいだね。じゃあこういうのはどう?」
ツインテールの二葉? は屋上の端に立つ。
「一美も端に立って」
ストレートヘアの二葉? は眉根を寄せて訝しげながらも、ツインテールの二葉? の言う通りにする。
「偽物、一美だと思う方をここから落として」
ツインテールの二葉? はそう言って僕に背を向ける。ストレートヘアの二葉? もそれに倣って僕に背を向ける。
「おいおい、僕に生殺与奪の権を渡していいのか?」
「大丈夫。私も一美もこの高さから落ちたくらいじゃ壊れない。それに、信じてるから」
ツインテールの二葉? は柔和な声色で言った。
それにしても屋上から落とせとは……。発想がぶっ飛んでいる。
「間違えて私を落としたら、一美は彰くんを即殺すと思う。気をつけて、彰くん」
ストレートヘアの二葉? が真剣な声色で言った。
どうにかして二葉と一美を見分けなければ。僕は頭に湧いた疑問をぶつける。
「一美とやらが二葉を倒せないなら、いま戦って勝った方が二葉ってことになるんじゃないのか?」
「倒せないっていうか、ほぼ互角なの。万に一つは私が負けるかもしれない。確実じゃないわ」
ストレートヘアの二葉? が拳を握りしめ気落ちした声色で言う。
「じゃ……じゃあ……えっと」
「彰くん! 直感に従って。どうなろうと私は彰くんを恨んだりしないから」
ツインテールの二葉? が柔らかな声で言った。
「……。そっちの二葉も同意見?」
僕はストレートヘアの二葉? に尋ねる。
「私は、間違えられたら、少し悲しいかな」
どっちが本物の二葉だ?
閃いた。これを聞いてわからなかったら、もう直感に任せよう。
間違えたら殺される。下腹部がひんやりする。僕は意を決して言葉を放った。
「二葉! 好きだ! 付き合ってくれ!」
「え?」
「は?」
ツインテールの二葉? は照れているような声。ストレートヘアの二葉? は蔑むような声。
「こっちだあああ!」
僕はツインテールの二葉? にタックルする。
「チイィ!」
ツインテールの二葉? の悔しがるような発語。よし、合っていたか。
二葉? もとい、一美は屋上から転落していった。
僕は落ちていく様を見下ろす。地面と激突した一美は、何事もなかったかのように立ち上がり、その場を去っていった。
「彰くん、よくわかったね」
ストレートヘアの、本物の二葉が安心したような表情で僕に近づく。
「緋奈に告白しようとしてる僕が二葉を好きなんて言ったら、頭おかしいんじゃないかと本物の二葉なら思うだろうと思ってな」
僕は腰に手を当て軽く上体を伸ばす。
「うん。何言ってんだこいつ。って思った」
ははは。渇いた笑いがこぼれた。
「何でツインテールで現れたんだろうな一美とやらは。二葉と同じ髪型にしてた方が騙しやすかったと思うけど……」
二葉は視線を空に向ける。
「一美にとって、それはアイデンティティなの。姉としてのプライドがあるのよ」
「ツインテールにか?」
「うん。ツインテールに」
ツインテールにどんな秘話が……。気になったので躊躇せずに聞いてみる。
「誰かにツインテールが似合ってるって言われたとか?」
「まあ、そんな感じよ」
あまり突っ込んでほしくなさそうだなと思い、僕はそれ以上は言葉をつぐんだ。
「さあ部室に行きましょ」
僕と二葉は屋上を後にした。




