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 十二月になり、期末テスト期間に入った。部活動は休みになり、僕は二葉と一緒に帰ることが常となった。緋奈は、当然ながら僕以外にも友達がいるので、その子たちと朗らかに下校していた。記憶障害は未だ治っていないようだった。


「アンドロイドってテスト勉強しなくていいのか?」


 僕は自室で机に向かいながら二葉に尋ねる。


「教科書の内容を保存しているから、出題内容に合わせてそれを参照すればテストは問題なく解けるよ」


「いいなあそれ」


 僕はシャーペンを回す。


「なあ、もし緋奈がアンドロイドを作る未来がなくなったら、今ここにいる二葉はどうなるんだ? 消滅とかするのか……?」


 二葉は耳に髪の毛をかける。


「未来が変わっても、今現在ここにいるという事象はもう変わらないよ。緋奈がアンドロイドを開発しなくなっても、私は消えない」


「それって僕を狙うアンドロイドも消えないってことだよな」


 僕は消沈気味に問う。


「緋奈がアンドロイドを開発しなくなるか、河瀬との出会い、結婚が訪れないことが確定したら、その時点でもう未来からアンドロイドがくることはなくなると思うけれど……」


「そうなんだな。じゃあ、緋奈と付き合えるよう頑張ってみるか」


 僕は照れ臭くなり、わざとらしく両腕を上に伸ばす。


「やった、ついに決意をしたんだね」


 二葉は胸を両手で押さえその場で控えめにピョンピョンした。


「よし、ちょっと待ってね」


 二葉はこめかみを人差し指で押さえる。何だろう?


 スマートフォンから通知音が鳴る。二葉からだ。……遊園地のチケット? 二枚?

「テスト期間が終わったらそれで遊園地に行って、告白しよう!」


「ちょ、おい、気が早いな……」


「善は急げだよ」


 二葉は顔の横でブイサインを作る。


「この時期だと、ふつうクリスマスを狙うものじゃないのか」


「ああっ、失念してた。まあ勿体ないからその日付でデートよろしく」


 やれやれと息を吐き、僕はテスト勉強を続けた。


 期末テストが終わり、僕はいつもながら日本史で補習になった。緋奈もだった。


 追試を終えて、教室内に緋奈がいるうちに、話しかける。


「緋奈、あのさ」


「ん、何?」


 緋奈は微笑みの含有した顔で僕を見る。


 僕は腰に手をつき、髪を掻く。なんだか照れくさい。


「遊園地、行かないか。今週の土曜日。チケットがあってさ」


「二人で?」


「うん」


「確認だけど」


 緋奈は目線を彷徨わせた後、僕を見る。


「どうした?」


「私と彰って付き合ってないよね?」


「うん。そうだが」


「だよね。日記にも書いてなかったし。うーん、二人でかぁ」


「前の映画も二人で行っただろ?」


「そうだけど……。あ、部活の課外活動で行くのはどうかな? 彰、二葉ちゃんと仲良いし、皆で行った方が楽しいよ!」


 何だ? ここ最近、二葉と一緒に帰ってることが気に障ったのか?


「緋奈、僕は」


「うん、そうした方が良いよ! じゃあ皆で行こうね! 一年生にも言っとくよ」


「緋奈!」


 僕は緋奈が明るく振舞っているのに無性にイラついた。こめかみを指でトントンと叩く。


「何? なんでイライラしてるの? またこめかみトントンしてる」


「ん?緋奈、お前記憶が」


「あれ? そうだね……何で彰がイラついてる時の癖分かったんだろう?」


 緋奈は額を手で押さえ目を伏せる。


「……緋奈、僕は二人で遊園地に行きたい」


 緋奈からは返事がなかなか来ない。今はそっとしておいた方がよかったか? 僕は口を真一文字に結び、拳を握る。


「わ……かった。楽しみにしてるね」


 緋奈は眉をハの字にしつつも、屈託ないようにみえる笑顔を見せた。


「じゃあ部活行くか」


「うん」


 部活を終えて、僕は緋奈と、そして二葉の三人で帰った。


 その日の夜、自室で二葉に報告する。僕は椅子に座り、二葉は窓のすぐ近くで立っている。


「二人で遊園地に行くことになったぞ」


「おお、やったね」


「なんか記憶障害になってからの緋奈、性格がちょっと変わった気がするんだよな」

「記憶障害で性格が変わる例はときどきあるよ」


「そうなのか。違和感あってちょっと辛いわ」


「記憶が元に戻ったらいつもの緋奈に戻るよ」


「だといいが」


「彰くん、明日放課後付き合ってね」


「ん、何だ何だ。部活は? どこに行くんだ?」


「部活終わってからでいいよ。彰くんの勝負服買わないとね。未来でもそうだったけど、彰くんの私服、正直微妙」


「ぐっ」


 僕は思わず背中を丸める。アンドロイドに精神攻撃された……。


「勝負服って、そんな気合入れなくてもいいんじゃないか」


「このデートの日が、未来を決めるんだよ。彰くんの一世一代の勝負の日。できる準備はしっかりしておかないと、ね」


「デートって……」


「デートでしょ?」


 二葉から圧を感じる。


「はい、そうです」


 僕はベッドにボフンと倒れ込み、なんて告白しようなどぐるぐる考えて、寝た。


「本日はどういった感じにされますか~?」


 女性店員の甲高い声に辟易する。僕は今、美容室に居る。


 人生初の美容室。いつもは理髪店でお手頃に済ましていた。客層はお年寄りがほとんどだったから気兼ねすることなく利用できていたが、今回みたいな所には、自ら進んでは絶対入らない。


「とにかく、格好良くしてください」


 二葉が店員にお願いする。


「ご姉弟ですかー? 綺麗ですねお姉さん~」


 まあ、カップルには見えないよな。……友達にすら見えないのか。同じ高校の制服姿なのに。確かに一見すると、僕と友人関係になるのは二葉にとってメリットがなさそうである。不釣り合いだ。


「いかがですかー?」


 綺麗に整えられた眉。無造作ショートの髪。なかなか格好良いんじゃないか? 僕は自然と少し口角が上がる。


「ありがとうございましたー」


 美容室を出る。支払いは二葉が済ませていた。


「なあ、今こんな風に髪型セットしても、風呂入ったら元通りになっちゃうだろ。意味あるかこれ」


 僕は自身の髪に軽く触れる。


「大丈夫。記憶したから」


「え」


「美容師さんの、髪にワックスをつける動き、覚えた。デート当日は私がセットするね」


「そうか……分かった」


 続いて服屋に行く。


 二葉がテキパキと見繕い、黒のニットセーターにグレーのチェスターコート、ジーンズを購入した。とても気楽に買えるような値段ではなかったが、二葉が顔色一つ変えず支払った。

 まるで本当に姉みたいだなと思ったが、口に出さず心の中に留めおいた。


 帰宅する。母に髪型を茶化されたら嫌だな。と思ったが母は特に髪について触れることなく、僕はホッとした。


 遊園地に行く日の準備をしたことで、変に緊張が襲ってきた。これでうまくいかなかったらどうしよう……。


「なあ、二葉。どういう基準で服選んだんだ? 二葉のセンスか?」 


 僕はベッドで仰向けになりながら二葉に尋ねる。


「彰くんの体格から似合いそうなのを選んだよ。あとは私の好みだけど、私の好みは私を開発した緋奈の好みってことだから安心して」


「お、うん」

 

 僕の告白は成功するのか? もし失敗すれば、緋奈とはもう今まで通りの関係ではいられなくなってしまうのではないか。期待と不安が入り混じる。


「二葉、告白が成功する確率ってどれくらいか分かるか?」


 二葉は少し間を開けて答える。


「九割がた成功すると思うけど……人の心は数字で測れないところがあるから、どうだろうね」


「うっ、そこは百パーセントって言って欲しかった」


「大丈夫だよ。ちゃんと誠意を持って伝えれば。冗談っぽく言ったら駄目だよ。あくまで真剣にね」


 むむむ……。小っ恥ずかしいがやるしかないか。色々と浮かんでくるネガティブ思考に蓋をするように、寝た。



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