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「できたーっ」
私は座った姿勢で両腕を上に伸ばす。ふうと息を吐き、かちこちに固まった全身を弛緩させていく。あまり凝りをほぐす効果は得られなかったが、頭はなんとなくクリアになった気がする。机の上にあるマイクのスイッチを入れる。
「一美~。見せたいものがあるの、こっち来てくれる?」
部屋を見回す。
コンクリートで囲まれた無機質な壁。散乱する工具に機材。パソコンの横にはロボットアームが鎮座している。几帳面な人には耐えられないであろう、乱雑な部屋の光景だ。
私は夫が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。美味しい。夫は無頓着な私に代わって身の回りのことを世話してくれる優秀な人間だ。私には勿体ないかも。
部屋の中央に目を遣る。一見すると人間に見紛う女性型ロボットが鉄柱で固定され直立している。私はそれを惚れ惚れと見ながらコーヒーをもう一口飲む。
「お呼びでしょうか、緋奈様」
いつの間にか一美が横に立っていた。私の思う清楚を詰め込んだ、ロングヘアのアンドロイド一号機、一美が私に声をかける。
私はにんまりと顔をほころばせる。
「あなたの妹ができたよ」
「……私と瓜二つですね」
「あ、うん。外見考えるの億劫になっちゃって」
おめでとうございますと労をねぎらわれると思っていたので、ファーストリアクションで虚を突かれた気持ちになった。
「このまま起動すると、私と見分けがつかなくなるのでは?」
「うーん、そうだね……あ、一美はこれからツインテールにしてよ。それで見分けがつく」
「ツインテールですか……」
「お願い。お姉ちゃんになるんだから、ね」
「……承知いたしました」
一美は渋々といった感じで了承する。アンドロイドでこの感情表現。開発した私は凄いなあと、感慨にふける。
今回開発したアンドロイドの二号機は、一号機の一美と比べて、より人間らしくなっている。
この二号機と一号機の一美が一緒に生活することでいったいどのような化学反応を起こすか、データをとるのが楽しみだ。
「緋奈様。こちらの二号機の名前は?」
一美が二号機を見据えて私に問いかける。
「二葉だよ」
「二葉……私の妹、二葉……」
一美はまじまじと二葉を見つめる。
なんだ、嬉しいんじゃん。若干不服そうな雰囲気だったので、私はホッとした。
あとで夫にも報告しよう。夫は商才があるから、三年前に一号機を開発した時みたいに私の技術を工学界にシェアしてひと稼ぎしてくれるだろう。
一美は二葉から目を離さない。
何を思っているのだろう。私は気になって、パソコンで現在の一美の思考データを文字出力してみた。
出てきた言葉にコーヒーを口に運ぶ手が固まった。
「ぶち壊したい……?」




