1話
「もう、死にたい」
溢れ出したそんな言葉。逃げても、逃げても何にもならない。何も変わらない日常。
私にとって、死ぬということは救いだ。この環境から私を救い出してくれる、唯一の。
「夕菜!アイツッ……!どこ行きやがった!」
バタバタと、走っている足音が聞こえる。この場所が見つかるのも時間の問題だろう。私にとっては、逃げられる場所なんてないんだから。
怖い。苦しい。辛いよ。誰か助けて。その言葉は、私が思うだけで誰にも伝わらなくて。伝えることもできなくて。ただただ心が悲鳴をあげているのを感じる。
「石橋夕菜ー!!出てこい!」
さっきよりも近くで。より怒気のこもった声で私のことを探している声が聞こえる。だんだん近づいてくるその音が怖くて、震える。 朝の少し冷たい風が、私の肺を満たす。深呼吸をしても、震えは止まらない。
どれだけ小さく縮こまっても、耳をふさいでも恐怖は消えなくて。心臓がぎゅうっと潰されるような気持ちに陥る。
「……見つけた」
ぜえはあ息を切らして、そう呟いたあと、竹田隆樹はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
あぁ、終わったな、と思う。
「お前、何逃げてるんだよ」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる隆樹。本能が恐怖を訴えかける。それとは反対に、冷めきる思考回路と固まる体。動けない。眼の前のことを認識してはいるのに、動けない。
「私に、何か用」
怖いけど、涙は出てこない。こんなのは、日常茶飯事だから今更だ。精一杯の冷静さをかき集めて、震える手を組んで隠して胸を張って言う。恐怖を見せないように。弱みなんて、見せないように。私は、自分にウソを付くために笑った。怖くなんてない、と。
隆樹は私の長い髪の毛を引っ張って、
「お前は一生俺達から逃げられないんだよっ!」
そう言ってギャハハ、と、下品に笑ってみせた。それから、隆樹の仲間が集まってきて……それからのことは、よく覚えていない。
気がついたら、私は呆然と物置の裏にいた。思い出せるのは、コレくらい。ドロだらけで、傷だらけの体。普通に生活していてなるようなものじゃないことは一目瞭然だ。
「死にたいなぁ」
私は、もう一度呟いた。
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