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地獄の合同説明会・中編

「しかし実際どうでしたか? バニティ様に至るまでの婚約者探しは?」


 私の追及に、両親は気まずそうに押し黙った。


 両親はソフィーを愛している。婚約者探しは難航した。つまり「お前は、どの家からも拒否された」とは愛する娘に言えないのだろう。


 だから私は自ら


「いくら伯爵家の娘でも、魔法の使えない私を次の当主の妻として受け入れる家などあるはずがない。しかしバニティ家は、その普通はあり得ない不利を飲み込んだ」


 父はソフィーには「バニティ伯爵は子どもの頃からの友人だから」と説明した。けれど単なる友情では、嫌がる息子に条件の悪い女を娶らせる理由として弱い。


 しかもソフィーは魔法が使えないせいで、強い劣等感を持っていた。要するに暗くオドオドして、お世辞にも魅力的な人物ではなかった。


 無害なだけでいいところの無いソフィーを、やがて当主となる長男の嫁として受け入れようとしたのは


「要するに、お父様たちはバニティ家に対して恩か弱みなど、何らかの切り札を持っていたのではありませんか? そして娘の幸せのために、そのカードを切った」


 私の指摘に、両家の両親はギクッと顔を強張らせた。


 その反応にバニティ君は


「ほ、本当ですか、父上? 我が家はテーミス家に何か弱みがあるのですか?」


 彼も恐らく不平等な婚約の理由は、父親同士が親友だからと聞いていたのだろう。


 しかし実際は


「弱みというのではないが……うちは私の父の代に事業が失敗して没落しかけた。それをテーミス家の援助によって持ち直したんだ」


 やはりバニティ伯爵は義理堅い性格のようだ。父も本来、決して人の弱みに付け込んで、上に立とうとする性格ではない。


 両者の性質を考えると


「私の父とバニティ伯爵は、表向きは対等な友人関係だった。実際に私の婚約までは、テーミス家がバニティ家の弱みに付け込むことは無かったのでしょう。だからこそ大恩あるテーミス家からの、たった1つの要望を無視できなかった」


 返事を聞かずとも、両家の両親の気まずそうな態度を見れば正解だと分かった。


 バニティ家は、我がテーミス家に大きな借りがあった。この前提を踏まえれば、後の流れは容易に推測できる。


「バニティ様は恐らく、何度も私との結婚は嫌だと訴えたはずです。しかしバニティ伯爵としては、過去の恩を返すために、この婚約を拒めなかった。ですから、そうですね。例えばこんな脅しを口にしたんじゃありませんか?」


 私はバニティ伯爵を真顔で見据えると


「『お前が拒むなら彼女は弟と結婚させる。ただしその場合、家を継ぐのも弟だ』と」

「な、なぜそこまで……」


 親に限らず年長者が後進の育成にあたり、身近な者と比べて競争を煽るのはよくあることだ。


 しかし他人に強いられた競争は


『自分には代わりがいる』

『少しのミスも許されない』


 恐怖と重圧によって追い詰めて、限界以上の努力によって人を壊すか。足りない実力を嘘で誤魔化すことを覚えさせる。バニティ君は後者だった。


「そうやって両家の両親は歪んだ婚約だと知りながら、バニティ様に犠牲を強いた」


 私の指摘に、ついにバニティ伯爵は声を荒げて


「犠牲だなんて! そもそもうちの息子と結婚したがったのは君だろう!」


 バニティ伯爵が怒るのは当然で、彼も本当は自分の息子に不本意な結婚などさせたくなかっただろう。


 私は彼の怒りを「ええ」と受け止めると


「ですから本件の責任は私にもあります。私もバニティ様がこの婚約を望んでいないと知りながら、あなたの気持ちを無視して追い詰めてしまいましたから」


 バニティ君に目を向けると、彼は泣き出す寸前の表情で、こちらを見ていた。


 子どもの頃から彼なりに、両親に見放されたくない一心で、たくさんの我慢をしていたのだろう。


「子にとって、いちばんの恐怖は親の愛を失うこと。ただの嫌では通らないから、追い詰められたバニティ様は犯罪に走った」


 私はバニティ君が犯行に至った動機を代弁すると


「どんな事情があろうと、罪を犯していいことにはなりません。ですが本件に関しては、バニティ様に歪んだ婚約を押し付けた私や皆様にも責任があります」


 改めて両家の両親に向かって


「彼だけに全ての責任を負わせて、親の愛を失うことを何より恐れていたこの子を、家から追い出すことはしないでください」


 私の願いに、バニティ伯爵夫人は驚いて


「つ、つまりルーサーをお許しいただけるのですか?」

「事件を公表して前科をつけるつもりはありません。その代わりご家族でしっかり話し合い、二度と同じ過ちを犯さずに済むように、彼を導いてあげてください。それが私がお二方に望む親としての責任です」


 ソフィーの身分を考えれば、かなり生意気な台詞だが、幸いバニティ夫妻は安堵の表情を浮かべた。


 さらに同席していたアムルーズ男爵夫人がおずおずと


「あの、それはバニティ伯爵のご子息だけでなく、うちの娘もですか? 人の婚約者に手を出しただけでなく、無実のあなたを陥れようとしたうちの愚かな娘を、お許しいただけるのでしょうか?」


 バニティ君の犯行は親に圧力をかけられた結果だが、アムルーズ君は初めての恋に狂ったとしか言えない。


 かなり軽率で衝動的だが、根は素直な子であることは確認済みなので


「アムルーズさんはすでに過ちを反省し、二度と不正はしないと自ら誓ってくれました。私はその言葉を信じます」


 アムルーズ男爵夫人に微笑み返すと、本人ではなくアムルーズ君が


「お、お姉様ぁぁ!」


 ぶわっと感涙すると、気合(きあい)の拳を2つ作って


「はいっ、必ず! リーベは今後何があっても絶対に! お姉様を失望させるような真似はしません!」


 アムルーズ君はきっと約束を守ってくれるだろう。そう信じたくなる明るさが彼女にはあった。


「じゃ、じゃあ、うちの息子もお許しいただけるのですか?」


 最後に偽りの目撃証言をした少年の母に問われるも


「主犯の2人を許しながら、ご子息だけ罪に問うことはできませんが、犯罪に手を染めるほど金遣いが荒いのは心配です。ご両親に援助を求めるのではなく他の方法を探していたのも、親には言えないような目的だった可能性があります。ご子息の将来のためにも、何にお金が必要だったのか明らかにし、指導なさったほうがよろしいかと」


 取りあえず見た目に健康を害している様子はないので、酒や薬物ではないだろう。金を得るためなら犯罪にも手を出すほどのはまり様から見て、女か賭博と考えられる。仮にそれ以外の目的でも、そのためには犯罪も辞さない心理状態を放置しておくのはマズい。


 私の助言に、彼の両親は怖い顔で息子を睨んで


「ええ、もちろん。今後同じことを繰り返させないためにも、こってり絞らせていただきます」

「うわぁぁん!? なんで僕だけぇぇ!」


 幸い当事者間で合意が得られたならと言うことで、先生方も納得してくれた。


 加害者3名は自主退学し、それぞれ別の学校でやり直すことが決まった。

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