第69話 油
お互いの情報共有が終わると、今後の話に移る。
「とりあえず、ルペカはしばらくうちに滞在するよな?」
「うん、そうさせてもらえるとありがたいよ。というかそのつもりで来てるしね」
ルペカは、この世界に二人以外には全くアテがないのだ。当然二人の世話になるつもりで来ている…。
「まぁ、いいけど。アーカストの時みたいに盛大なおもてなしはできないぞ」
二人がアーカストに喚ばれた時は、それはもう盛大なセレモニーで迎えられたのだ。
「それはもちろん大丈夫だよ。そもそもあれはこっちが勝手に二人を呼んで勝手にやったことだしね」
「で、今後なんだが、《暗き穴に秘められた油》とやらを探す感じか?」
アーカスト側が受けた予言では、《もう一つの星へ赴き、忍び寄る影に備えよ。暗き穴に秘められた油を探せ》とのことだった。
もう一つの星、すなわち地球で暗き穴に秘められた油を探せと言っているのだから、言われた通りにするのが一番シンプルで速いはずだ。
「暗き穴ってダンジョンのことだよね?」
ダンジョンの入り口は黒い円になっている。暗き穴と表現しても違和感はないし、何かのお宝やアイテムを探す場所としても最適だろう。
「多分な…《油》が何を意味するのかはまだわからないが」
「《油》についても、ヒントとなりそうな文献があってね。《太陽との道標となるそれは、まるで光を灯す油のよう》という内容なんだけど。ただ、これは一部消失した文献に載っててね、ここで言う《それ》が何を指すかはわからなかったんだ」
「なるほど。その、《それ》とやらをダンジョンで探せばいいんだな?具体的に何かはわからないが、《太陽》と関連する何かではある、と」
「っていうかさ、《太陽》って、何を指すんだろうね?」
予言や文献によると《太陽》は大地を《見守っている》という。
また、石碑メッセージの方では、《太陽の光が届かない闇からの影》というフレーズがあった。逆に言えば、《太陽の光》が届く範囲は影がなく安全、と読むこともできるのではないか?すなわち、太陽がある程度の範囲を《見守っている》と解釈することもできる。
「神様的な何かか?」
「その可能性はあるよねぇ」
シンジの言葉にルペカも同意する。
「それも、《油》を見つけたらはっきりしそうだけど」
「でもこんなにいろいろ曖昧だと《油》を見つけても《油》ってわからなかったりして」
「いや、それはないと思う。だって僕らって世界中のかなりのアイテムを所持してるわけだよね?それにも関わらず《探せ》って言ってるってことは、僕たちがまだ持っていないアイテムってわけだ。だったら、見つけたらすぐわかると思う」
それも一理ある。
「じゃあ、俺たちがまだ持っていないアイテムをダンジョンで探してく感じか?」
「うん、それでいいと思う」
ということで、地球のダンジョン攻略に本腰をいれていくことになった。
———
「で…事情を説明してもらえるということだが…?」
その後、三人は『冥界の果て』のクランハウスで支倉と会っていた。泉田には場所を提供してもらっているが、席は外してもらっている。
まずは一通り支倉に事情を説明し、そこから他へどう共有するか検討する予定だ。
そう、シンジとカナタはかなりの事情を説明するつもりでいる。
「ああ。宮間さんから報告があったと思うが、こちらは俺たちの仲間のルペカだ」
まず、支倉にルペカを紹介する。
超高レベルの謎の人物として報告があがっているはずだ。
「ああ、聞いている。レベル10万近いとな。でも、それより二人の方が強いらしいな?」
「ああ、山田が10万くらいで、俺が12万くらいだな」
「……」
ある程度予想はしていたのだろうが、いざ実際の数字を聞くと途方もなかったようで、支倉は沈黙した。
「それで、俺たちがなんでこんなに強いのかって話なんだけど」
「!…話してもらえるのか?」
「ああ。かなり突拍子のない話なんだが…」
「大丈夫だ。二人、いや、三人か?の存在以上に突拍子のない話はないだろう」
「ならいいけど。実は、俺と山田は、このルペカの出身である異世界に五年間ほどいた」
「…異世界???」
「ああ、異世界だ。そこはダンジョンやジョブが大昔からあって、時折魔王が現れる世界だ。そこに俺と山田は勇者として魔王を倒すために召喚された。五年前のことだな」
「……なるほど。そこで五年間戦って魔王を倒したからそんなに強いんだな?」
意外と飲み込みの良い反応である。
「その通りだな。異世界の人間の協力のもと五年前から猛特訓して、魔王を倒した時にはレベルが10万を超えていた」
「…お前たちが宇宙人ではないかという話はあったが、異世界か。なるほど。四年以上前にこの話を聞いたら一笑しただろうが、ダンジョンが唐突に現れた現代だと、むしろ普通のことに思えるな」
「信じるのか?」
「ああ、信じるな。というか、ずっと謎だったことが解けてすっきりした感じだ」
なぜ一位と二位だけ突出して強いのか?その謎に対する単純明快な答えを得たのだ。
「で、ルペカとは俺たちが異世界で旅をしていた時にパーティーを組んでたんだ」
「なるほど。異世界との行き来は簡単にできるものなのか?」
「いや、全然だな。そもそも特殊な魔法陣が必要だし。今回ルペカが来た時も死にかけたらしいし」
「そうまでして来る理由があった、と?」
「ああ。俺たちが石碑から見つけたメッセージと関連する予言があったらしくてな」
そこから、アーカスト側で受けた予言や、文献の話を説明する。
「だから、今後、異世界と地球が同時に何らかの脅威に晒されると思われる。俺たちはその対策として、ルペカと一緒にダンジョンにあると思われる《油》を探す予定だ」
「わかった。この情報をどう取り扱うかはかなり悩ましいが、話してくれて助かった。三人は《油》に専念してくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「ちなみに、二人の名前なんだが…」
「あ、それはまぁ、いったん表向きはこのまま佐藤と山田で」
五年間異世界にいた、という情報と「シン」「カナ」という名前の一部がわかっていれば、二人の本名に辿り着くのもそんなに難しくはないだろう。
かといってそれを大々的に知られると困る——自分たちは平気でも家族や周囲に迷惑をかける可能性がある——ので、表向きはこのまま偽名でいく予定だ。
「まぁ、わかった」
その後、情報の取り扱いと、今後の動きについてもう少し打ち合わせをして、解散となった。




