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第68話 星

シンジ、カナタ、そして異世界人ルペカの3人はシンジの家に転移で戻ってきた。


「ここはシンの家?」


「ああ、そうだな」


「すごいね〜、不思議なものが置いてあるね。家具とかのデザインもアーカストとは違うね」


ルペカは興味津々である。


「それよりルペカ!なんでいるの?」


「あ、そうそう、すごい大事な用があって来たんだった」


「そりゃそうでしょ!わざわざ異世界にまで来たんだし…しかもあんな大怪我して!」


「とりあえず座ろうぜ」


カナタとルペカがダイニングテーブルのところに座り、シンジがお茶を持ってくる。


「これは紅茶かな?」


「いや、麦茶っていう…まぁ紅茶の仲間ではあるかな?」


「へぇ〜。おいしいね」


ルペカは一口飲むと、気に入ったらしく頷いた。


「で!事情を説明してよね」


地球とアーカストは異世界である。行き来はそんなに簡単ではないはずだ。

シンジたちが召喚された時だってかなりのマナが必要だったはずだし、そもそも勇者召喚用の特殊な魔法陣が必要なのだ。マナがあれば行き来できるというわけではないはずだ。


「もちろん。二人にも協力してほしいし」


「協力?」


「うん。そもそもことの発端は、『予言者』が受けた予言なんだけど」


『予言者』とは文字通り予言に特化したジョブである。適性も『予言』のみ。

このジョブを持っていると半強制的に神殿行きなのがアーカストだ。そこでひたすら予言に従事する。

といってもそこまでブラックではなく、ちゃんと休みもある。意外とホワイトな異世界なのだ。


「『重要予言』か?」


『重要予言』は、予言する側が予言対象を指定せずに、「重要な事柄」についてなんらか予言を受け取れるというものだ。シンジもできはするが、面倒なので最近はやっていない。

アーカストでは、この『重要予言』は毎週定期的に行われていた。


「そうそう。ちょっと今までとは毛色の違う予言でね。こういう内容なんだけど。《いつも見守る太陽が告ぐ。もう一つの星へ赴き、忍び寄る影に備えよ。暗き穴に秘められた油を探せ》」


その内容に、シンジとカナタは思わず顔を見合わせた。


「何か心当たりある感じ?」


「ああ。予言じゃないんだが、こっちでも似たようなメッセージを受け取っててな…」


シンジはアイテムボックスから、例の石碑メッセージの書いてある紙を取り出してルペカに見せる。


《この世には二つの星がある。二つの星に忍び寄る影がある。太陽の光が届かない闇からの影。月から道が通る時、影は光に出て光を侵す。備えよ。自らを照らす光に油を添えて。そして、どうしても困ったら僕を呼びなさい。》


「確かに、似てるね。星、太陽、影、油…特に影については《忍び寄る影》で同じ表現だね。これは同じ対象と見ても良いだろうね」


石碑のメッセージについては、しばらく手詰まり感があったが、こんな形で進展するとは。


「それで、その予言でなんでルペカがこっちに来ることになったんだ?」


「ということはシンたちはまだ気づいてない感じかな?この《星》というフレーズなんだけど」


「《二つの星がある》と《もう一つの星》の《星》だな。…なるほど。アーカストと地球が二つの星なんだな?」


《二つの星》が何を指すのか謎だったが、《もう一つの星》が地球で、だからルペカがこちらに赴いたのだとしたら、必然的に《二つの星》のもう一つはアーカストということになるだろう。


「そうそう!」


「でもなんで《もう一つの星》が地球だって思ったんだ?そもそもアーカストには住んでいる地上が星っていう概念なかっただろ?」


地球では天動説が地動説に移行して久しい。地球も空の星のような星の一つであることは常識だ。

しかしアーカストではそうではなかった。地はただの「大地」であり、空の「星」とは完全に別物と認識されていた。


「え?ってことはこっちでは地上が星っていう認識があるってこと?」


「子どもでも知ってる常識だな」


「じゃあなんで《二つの星》の一つが地球だって気づかなかったの?」


ルペカには、二人の出身が「地球」という場所だというのは以前に伝えていた。しかし、それが「星」だという話しはしたことがなかった。


「いや、でも空にも大量に星があるだろ?こっちの人間の考え方でいうと、空の星と地球は同類なんだよな。だから地球だけ特別って考え方がなかった」


「えー!そうなんだ、不思議!こっちではそもそも自分たちが住んでるところが星だなんて考え方はないから、大変だったよ。でも『重要予言』だからね。放置するわけにもいかないし。古い文献とかあたってね」


かなり本格的にこの『重要予言』に取り組んだようだ。


「そしたら、こういう文献が見つかったんだよ。《太陽が見守るこの大地は、まるで空に輝く一つの星のよう。生きとし生けるものを抱く大地は、この世の唯一の真の星》。それでアーカストが星なんだって結論に至ったわけ。でも文字通りの星じゃなくて、比喩かなって話だったけど」


「なるほど…で、なんでもう一つの星が地球なんだ?」


「だって、生きとし生けるものを抱く大地、つまりアーカストが唯一の星なわけでしょ?ってことは僕たちの世界には星はそれしかないわけだ。でも、予言では《もう一つの星》と言っている…そしたら、生きとし生けるものが生きる別の場所があるって話で、そうすると僕たちが知る中では地球しかなかったんだよね」


「なるほど」


筋は通っている。


「で、予言ではそのもう一つの星に赴けって言ってるでしょ?でも僕たちは勇者を喚んだことはあっても僕たちが行ったことはない。そこからまた大変だったよ。勇者召喚の魔法陣をいじったりして、なんとか人一人を送れるようにしてね」


「どうしてルペカが来たの?」


「僕たちの地球での知り合いは二人しかいないからね。またで申し訳ないけど、まずは勇者を頼ろうって話になって、だったら同じ勇者パーティーの誰かだろうって。それで白羽の矢が立ったのが僕だったわけ。ほら、僕以外はみんな国の重鎮だからさ」


ルペカのジョブは『吟遊詩人』。そしてそのジョブ通り、ルペカは流れの吟遊詩人をやっていた。

勇者パーティーには他に三人、アーカストの人間がいたが、その三人はルペカの言う通り国の重要人物で、お勤めがいろいろあるのだ。


「暇なルペカを送ったってわけね」


「カナひどい!」


「それで?怪我はどうしたんだ?ダンジョンに入ったのか?ダンジョンでもなければ、ルペカの脅威になるようなものが地球にあるとは思えないんだが」


「いや、それがさ、魔法陣が完璧じゃなかったみたいで。こっちに着いたら、腕が千切れてるし持ってきたはずのアイテムも全部ないし」


「それはキツイな」


さすがに、エリクサーなしで四肢欠損を癒すのは治療が専門ではないルペカには厳しかったのだろう。


「まぁでも早めに二人に会えて良かったよ!でも、こっちの世界にはダンジョンがないって言ってなかった?明らかにダンジョンあったけど」


「ああ、それがな…」


今度はシンジたちが説明する番になった。シンジは、地球に戻ってきてからの出来事をかいつまんでルペカに説明した。

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