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第62話 人質

その日シンジは転職革命——要はダンジョンスクール生全員を転職させることだが——の準備をしていた。

ダンジョンスクール生全員の名前とジョブ、それから転職の希望について——もちろん全員の希望を叶えられるわけではないが——の一覧はすでに受け取っている。


(かなりの個人情報だよな…)


漏れたらまずいので、使う時以外はアイテムボックスにいれてある。これで紛失することもないだろう。

その一覧を見ながら、誰を何に転職させるか検討し、その分の転職オーブを用意しているのである。


その時、支倉から電話がかかってきた。


「もしもし?」


「すまんが、緊急事態が発生した。すぐ来れないか?」


電話越しでも、支倉にして珍しく焦っている様子が窺える。

支倉が「緊急事態」と言うのなら、相当だろう。二つ返事で頷く。


「ああ。行けるぞ。何があったんだ?」


「蒲田のダンジョンスクールで人質立てこもり事件だ」


蒲田のダンジョンスクール。ヨツバたちが通っているところだ。

四人は、学校を辞める予定ですでに学校側にも伝えてはいるはずだが、まだ正式には辞めていない。巻き込まれている可能性が高い。


(なんでよりによって蒲田なんだ?いや、他のところならいいってわけじゃないが)


「わかった、すぐ行く」


詳しい状況はついてから聞けばいいだろう。いったん電話を切ってカナタに連絡をいれる。カナタも来れるとのこと。

カナタはいざという時のために転移の魔法を込めた【妖精の真珠】をいくつか持っている。なので迎えには行かず、現地で合流することにする。


現地に転移すると、校舎の周りには何台もの警察の車両が停まっていた。

そして、バリスティックシールド——防弾盾——を装備した特殊事件捜査係と思しき人間が校門の前に集まっている。


シンジが転移で現れると一瞬全員の目が向けられるが、先日の記者会見のおかげで顔が知れているのか、すぐに視線はそらされた。


「佐藤君!よく来てくれた」


車両の方から支倉が現れる。


(それにしても、なんでダンジョン庁の大臣が対応してるんだ?ダンジョンスクールだからか?大臣がこんなところに来ていいのか?)


いろいろな疑問が脳裏をかけめぐる。もっとも、今はどうでもいいことではあるが。

ただ、そういえばダンジョン庁の大臣は他の大臣とは毛色が違うと以前聞いたことを思い出す。そのあたりが関係しているのかもしれない。


「ああ、山田もすぐ来ると思う。状況を教えてくれ。そもそもダンジョンスクールで人質をとって立てこもれるってことは相当なレベルの犯人ってことだよな?」


ダンジョンスクール生も、まだ正式な探索者ではないとは言え、その卵である。日頃から戦闘訓練もしている。それをまとめて人質にとれる犯人とは一体何者なのだろうか。


「山田君も来るのか、助かる。それが、外国の傭兵集団らしくてな。レベルは鑑定できていないが、生徒たちよりは高そうだ。最新の武器も装備してるようだな」


なぜ外国の傭兵集団が日本で人質立てこもり事件?とも思うが、それは解決してから探ればいいことだろう。


「最新の武器?」


「ライフルとかマシンガンとかだな」


(そんなものが効くか?)


マナを纏っているダンジョンのモンスターに現代武器は効かない。それと同様に、レベルが上がってマナを纏えば、人間にも現代武器は効かないはずだが。


「…もしかして、マナを纏うって概念がないのか?」


「マナを纏う?なんだそれは」


シンジは頭を抱えたくなった。

異世界ではあまりに常識で意識すらしていなかったが、レベルが上がれば自動でマナが纏えるわけではない。きちんと自分でマナをコントロールして纏う必要がある。

慣れれば、ほとんど意識しなくても常時纏えるようになるが。


「ってことは、現代武器も脅威なんだな…?」


「待て待て。現代武器は脅威ではないとでも言うのか?」


「レベルが50もあれば本来は現代武器なんてなんともないはずなんだよな。その技術が知られていないようだが」


「それはまた…」


支倉はやや絶句した。

そこにカナタも転移でやってくる。


「来たよ」


「ああ、なんでも地球にはマナを纏うって概念がまだないらしい。それで武装集団に占拠されてるようだな。もちろんダンジョンスクール生よりレベルも高いんだろうが」


「え?マナを??それでどうやってダンジョン潜るの?」


マナのコントロールは異世界では真っ先に学ぶ。

しかしあまりにも初期のことだったのですっかり失念していた…。


「まぁその辺はまた確認しよう。それで、人数とか、目的はわかってるのか?」


「それがだな…」


なんだか歯切れが悪い。


「人数は正確にはわからないが、十人から二十人くらいらしい。人数としてはさほど多くないが、校内の何ヶ所かに爆弾をしかけたと主張しているので迂闊に動けない。そして目的は…私を出せと言っている」


「はぁ?支倉さんを?」


「なぜ私なのかまではわかっていないが…。私一人で人質を解放してくれるならそれもありだが、その保証もないからな…」


「いえ、どちらにしても大臣が行くのはなしですよ」


隣の秘書が指摘する。


(そりゃそうだ。相手の要求を飲むとか逆効果だし、大臣を差し出すわけにもいかないよな)


「確かにそれはなしだな」


「特殊事件捜査係も、もちろんレベルはそれなりの者を集めているが、爆弾の所在がわからないことには動けなくてな」


言われて、そちらに目を向けて軽く何人かを鑑定する。

レベルは100〜300くらい。地球基準では「それなり」なんだろう。


「じゃあとりあえず佐藤が爆弾を探知かな?」


「爆弾の探知はやったことないが…まぁ、それしかないよな」


カナタの言葉に頷くシンジ。


「できるのか」


「多分。物質で探知するか、時間で探知するか、どっちかだな」


物質での探知は文字通り該当する物質を探知する方法で、この場合は「爆薬」あたりを探知するかたちになる。ただし、万一爆薬を使用しないタイプの爆発物だった場合、探知から漏れてしまう。

時間探知はちょっと特殊で、「その場に置かれてからの時間経過」で探知する方法だ。爆弾がしかけられたばかりなら、こちらでも探知できるはずだ。ただし、爆弾が仕掛けられたタイミングが正確にわからないのでこちらも確実とは言えない。


「まぁ、併用するかな」


「どちらの方法も今の我々には難しいな。任せる」


支倉の言葉に頷き、シンジは早速「探知」の無魔法を使うことにする。


「『探知』」


目を閉じると、すっとシンジの「感覚」が広がっていく。これは説明が難しいが、肌で風を感じられるように、さまざまなものを感じる「感覚」の範囲が広がっていく感じだ。

その中で、特に「爆薬」と「置かれてからの経過時間が短いもの」に集中する。


やがて、いくつかの反応を検知する。それらは概ね「爆薬」と「置かれてからの経過時間が短いもの」の両方に該当するようだった。


「爆弾は5個だな。場所は特定できた」


「さすがだな!場所はどこだ?」


「いや、特に共有する必要もないな。今回収する。『アポート』」


『アポート』は遠くにあるものを取り寄せる無魔法だ。

すぐにシンジのまわりに五つの爆弾が現れる。


「おい!危ないだろう!」


思わず支倉が叫ぶが、


「結界で囲んであるから万一爆発しても大丈夫だ」


シンジは飄々としている。


まずは無事爆弾を回収できた。あとは犯人たちをどうにかするのみである。

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