第6話 登録
「よし、探索人登録しよう」
今後についてあれこれ考えていたシンジだが、結局のところ「探索人になるしかない」「ダンジョンスクールには行きたくない」という2点ははっきりしている。
ならば、反対される前にさっさと探索人になってしまえばいいのだ。
探索人になりさえすれば、レベルがあがっていっても不審に思われないし、アイテムを売り捌くこともできる。
シンジのアイテムボックスには大量の異世界アイテムが眠っている。ちょっと相場を調べたが、小出しで売るだけで一生暮らせそうではある。尤も、相場が今のままであれば、である。
そうはならないだろうな、とシンジは思っている。
なぜなら人類のレベルがどんどん上がっていくからだ。そうすると今は入手困難なアイテムもやがては簡単に手に入るようになるだろう。
だから、相場も今のままではあり得ないはずだ。
カナタにもメッセージを送っておく。さすがにテレパシーはもう切ってある。
『俺、探索人登録するわ。カナタはどうする?』
『私もそうする。家族には反対されてるけど、さすがに今更ダンジョンスクールはねぇ…』
というわけで、早速明日登録に行くことにした。
——
翌朝、最寄りのダンジョン探索協会で待ち合わせした二人は、協会を見上げた。
三階建ての小さなビルだ。
中に入ると、役所のように待合席が多く設置されていて、奥にカウンターがある。
「向こうのギルドとは全然雰囲気違うね」
「さすがに文明的だな。新人にからむバカはいなはそうだ」
異世界のギルドは、「冒険者ギルド」という名称で、ラノベなどでよく描写されているような粗野な感じのギルドだったのだ。冒険者も横暴な態度の者が一定数いた。
登録の申込用紙に記入し、新規受付窓口の番号札をとってしばらく待っているとシンジの番号が呼ばれた。
「じゃ、先行ってくる」
「こんにちは。今回は探索人に新規登録で宜しいでしょうか?」
「はい、そうです」
受付の若めの女性に聞かれて、頷く。
「では申込書と住民票をお願いします」
先ほど記入した申込用紙とあらかじめ準備していた住民票を渡す。
「夢島シンジさん、22歳ですね。それではウィンドウをお願いします」
「ウィンドウオープン」
【ステータス】
名前/性別/年齢: 夢島シンジ(男性、22)
レベル: 11
ジョブ: サポーター(上位)
ランキング: 7,332,652,677
適性: 魔法(上位/光、無)、武具(下位)、薬学(上位)
「はい、ありがとうございます…珍しいジョブですね」
「そうみたいですね」
「少々お待ちください」
女性はそう言って席を立ち、すぐにもう一人、中年の男性を連れてきた。
男性はシンジの前に座ると、
「私は彼女の上司にあたる渡部と申します」
「はぁ…」
(なんだなんだ?たかだか上位ジョブだぞ?なんで上司出てきた?)
「いや、突然すみませんね。珍しい上位ジョブの方がいらっしゃったとのことでしたので」
「珍しいと言っても、それなりにいると思いますが」
「いえいえ、とんでもない!サポーターは日本では現在他に二人しか確認されていませんね」
「二人!?」
思ったよりだいぶ少ない。もしかしてミスったかもしれない。
「ええ、回復と察知が可能になる光と無魔法適性、さらに下位ながら武器適性もあるので護身もできるサポーターは、上級パーティーものどから手が出るほど欲しがっていますね」
「マジですか…」
完全にミスっている。目立ちたくないと思ってかなり改竄したステータスだったが、それでも目立ってしまっているようだ。
「無魔法があると鑑定もいけますからね。ぜひうちで働いてもらいたいくらいですよ」
目が本気だ…。
「いやいや、まだレベル11ですし、全然ですよ。どこかのパーティーに所属する予定もないですし」
「おや、そうなのですか?うちへの就職はともかく、パーティーやクランは探されるものかと」
クランというのはいくつかのパーティーが集まった団体のことである。
「いろいろ縛られるの嫌なんですよねー。幼馴染と一緒に気楽にやるつもりですので」
「ほう、ちなみに幼馴染というのは…」
「渡部さん」
その時、別の女性職員が渡部に声をかける。
「お取り込み中すみません、あちらにも上位ジョブの方が…」
「あ、それが多分俺の幼馴染です」
「ほう!上位ジョブ二人で組むということですね。それは羨ましい限りで…あ、川西さん、せっかくだからその方もこちらにお連れして」
「はい」
呼ばれてカナタがシンジの隣に腰掛けた。
「厳島さんは『勇士』のジョブ持ちでして」
川西と呼ばれた女性が報告すると、
「勇士ですか!これまた珍しい!日本では…」
「他に三人しかいらっしゃらないですね」
「え!」
カナタが驚きの声をあげる。思ったより少ない、と思っているに違いない。
「どうですか、厳島さん。うちで働いてみては」
「えーと、いきなり言われましても…私たちは、気ままにやっていきたいと思ってますので…」
「それは残念ですね」
渡部はそれ以上食い下がらなかったが、
「しかし珍しい上位ジョブということで、周りに知られれば勧誘は絶えないでしょうね」
「なるほど…」
それはそれで面倒そうだ。
「まぁ、お気をつけて頑張ってください。それから素材はぜひうちの支部に持ち込んでください」
営業を忘れない渡部。
「そうですね、素材が集まり始めたら…」
シンジが返答すると、渡部は頷いて去っていった。
「結局登録はこれで大丈夫なんでしょうか?」
「はい、あとは探索人講習を受けていただければ晴れて探索人です」
「わかりました」
その後、探索人講習の案内を聞いて、この日は終了となった。
後日受けた探索人講習では、探索人として基本的に知っているべき事項について解説された。特筆すべきことはなかったが、とりあえずランク制であることがわかった。
ランクはG〜SSSまであり、全員Gランクでスタートする。ランクはレベルと実績の総合判断で、Fは一度でもダンジョンに潜ってアイテムを回収したことがあり、レベルが十に達していればすぐになれるという。
講習後、探索人カードが配布された。ICチップが埋め込まれたクレジットカードサイズのカードだ。
内容はこんな感じだ。
名前/性別: 夢島シンジ(男性)
ランク: G
ジョブ: サポーター(上位)
適性: 魔法(上位/光、無)、武具(下位)、薬学(上位)
しょっちゅう変わるレベルやランキングを抜いた内容になっている。
もちろん、転職オーブを使えばジョブも変わるわけだが。ちなみに、転職した際はカード更新が必要とのこと。
こうしてシンジとカナタは無事に探索人となった。




