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第57話 一位の講説

「…全然ダメだな」


シンジが話し終わると開口一番、支倉が言った。完全なダメだしだ。橘は遠慮してるのか頷きはしなかったが、表情を見ると同意しているようだ。泉田は大きく頷いている。


「全然ダメか?どこがダメなんだ?」


「まぁ明日の『攻略のコツ』はまぁいいとして…。スキルを習得しやすくなる方法とか、経験値の効率の良い稼ぎ方はアウトだな。まだ世界で誰も知らないのではないか?」


「だから教えるんだろ」


「まぁ、それはそうなんだが」


支倉は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「いや、佐藤君が言いたいことはわかる。その通りだろう。しかし、世間というのはそう単純ではない」


支倉の言わんとしていることはわかる。しかし、世間の目ばかり気にしていたら大局を見失う。でもそんなことは支倉もわかっているだろう。


(立場があるって大変だな)


異世界の王様もそうだったが、立場があると配慮する対象が多くなる。さぞ面倒だろう。


——でも。立場が上なのに誰にも配慮しない馬鹿よりは、配慮し過ぎなくらいの方が好感はもてる。


「それなら、どうする?もともとの依頼はダンジョンスクール生に有用な講義をしてほしいってものだったよな?俺もそれは必要だと思ったから準備したんだが」


と言いつつ教材の準備などは特にしていないが。何を話すか考えたくらいだ。


「でも、するなって言うなら無理にはしない」


選択肢を支倉たち——たち、と言ってもこのメンツなら最終判断は支倉がするのだろうが——に委ねる。


「……」


支倉は黙考した。

しばらく部屋に沈黙が落ちる。やがて、支倉は口を開いた。


「予定通り講義してくれ」


「いいんだな?」


これだけ渋ったということは、相当騒ぎになるのだろうと思われる。


「ああ。むしろ、今を逃したら次いつできるかわからないからな。もうこの勢いでやってしまうしかないな」


腹を括ったようである。


「ちなみに、マスコミ対応するつもりはないんだよな?」


確認するように言われる。


「え?俺そんなこと言ったか?」


「マスコミの質問には答えないって言ってただろ」


泉田が口を挟む。


「あれは授業中だったからだな。記者会見でもないのにマスコミの質問に答える必要あるか?」


「なるほど。では質問を変えよう。記者会見をするつもりはあるか?」


支倉に聞かれて、考える。

記者会見。今更、緊張するとかはないが、積極的にやりたいわけではない。マスコミと言えば——偏見かもしれないが——揚げ足をとってくるものだし、そこから風評被害に遭う可能性だってある。

だが、必要ならするのも吝かではない。魔王に比べれば風評被害など別に怖くもない。


「必要かによるな。本当に必要ならしてもいいな」


「そうか。もしかしたらお願いするかもしれん」


「応相談ってことで。じゃあもう行っていいか?」


「ああ、大丈夫だ」


了承をもらい、シンジはさっさと転移した。

残された三人は、シンジがいなくなると同時にため息をつく。


「とんでもないですね、彼」


橘が口を開く。


「強さが異次元なのは認識していたし、アイテムも大量に保有していることはわかっていたが、まさか知識までとはな」


支倉が同意する。


「あれはちょっとおかしくないですか?あの知識はどこから来るんですかね?まぁそれを言ったら、強さも保有アイテムもおかしいわけですが」


こちらは泉田だ。


「さぁな…。本気で宇宙人かと疑いたいところだが、本人は日本人だと言ってるしな…」


「彼が義務教育を受けているところは想像もできませんね」


確かに。まず、態度がでかい。総理大臣にもタメ語である。あの態度で無難に義務教育を受けられるとは思えない。


「まぁ、彼の素性は探らない方針だからな。幸い、彼とはいい協力体勢を築けている。特に泉田君は信頼されているようだし、このまま良好な関係を保っていこう」


———


翌日も、表面上は同じような感じで進んだ。

立ち見が明らかに増えていたり、マスコミも明らかに多かったりしたが、授業を進める上で差し支えはない。シンジはあらかじめ決めていた内容を淡々と説明していく。

内容は「攻略のコツ」について。具体的なトラップや、ダンジョンのパターン、役に立つアイテムなどを解説する。

これまでの講義の中で一番とっつきやすく、実践しやすい内容だったかもしれない。生徒たちは熱心に聞き入っていたし、質疑応答の時間はやはり時間目一杯まで使われた。

しかしこの日は特に騒ぎが起きたり、止められたりすることなくシンジは帰路に着いた。


その翌日は「スキルの習得について」。なんと全国放送になった…。

お茶の間の皆さんがスキルの習得になど興味があるのか甚だ疑問ではあったが、やりたいならやらせておけというのがシンジのスタンスである。

あくまでシンジは授業としてとり行う。それさえ邪魔しなければ配信もご自由にどうぞだ。むしろ、それを視聴した一般の探索者がスキルについて造詣が深まりレベルがあがるなら大歓迎だ。


話した内容は文字通り「スキルの取得について」だ。

スキルの習得方法は基本的には二つだ。スキルスクロールから覚えるか、自然に覚えるか。他にも特殊な覚え方もあるがここでは割愛する。

スキルスクロールから覚えるのは誰でもできるから、今回話したのは自然に覚える方のコツである。

といっても、こちらはかなり個人差かある。


「ブレスド」と呼ばれる、誰に教えてもらわなくてもどんどん自然にスキルを覚えるタイプの人間もいる。しかしこれは当然少数派だ。

では、彼らはなぜそれが可能なのか?完全にその再現できなくても真似はできないか?と試行錯誤して生まれたのがこの「スキルの取得法」だ。


簡単に言うと、スキル取得のポイントとなるのは二点だ。①スキルを使いたいという意思と②類似スキルの使用。


この「スキルを使いたいという意思」が曲者で、「使いたい」という願望だけではダメで、「自分なら使える」という確信が入った意思でないといけないのだ。この匙加減が難しい。


また、類似スキルの使用というのも難問である。まず、何をもって類似とするのか?そして、類似スキルなど持っていなかったらどうしたらいいのか?


実はこれは単純で、何らか共通項があれば良く、「魔法スキルを覚えるためには魔法スキルを使えばいい」くらいのざっくりしたものである。

あるいは、剣術スキルが欲しい場合。「剣を振り回す行為」だけでOKの場合もある。なので厳密には「類似スキルや類似アクション」でOKなのだ。


これらのことをシンジが説明すると、会場は沸きに沸いた。

これまではよほど運がいいか、スキルスクロールを入手するかでしか手に入らなかったスキルが、手の届くところまでやってきたのである。生徒たちは狂喜乱舞である。


その日は質問もそこそこに演習場ですぐ試したいという生徒がほとんどだった。おかげでシンジは早めに解放された。

泉田たちなのかはわからないが、誰かが手を回しているらしくシンジに突撃してくるマスコミはいない。


最終日は、「訓練について」と称して「経験値」という概念について詳しく説明した。特に、各ジョブごとに「何によって経験値を得られるか」を詳細に説明しておく。

これがわかれば、各自が効率的なレベルアップ方法を編み出していけるはずだ。


五日間が終わり、世間は大騒ぎだが、シンジはやり切ったので満足だ。

この五日間の講義はやがて「一位の講説」として伝説の授業と称されるようになる。そして、その内容が普及してくのにあわせて、人類のレベルも急速に上がっていくのだった。

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