第54話 講義
「今日のトピックは『パーティーについて』だな。すでに実技でパーティーを組んでやってると思うが、今日は基本をおさらいすると思って聞いてくれ」
と言いつつ、日本の基本と異世界の基本は違うだろうなと思うシンジ。
そもそもパーティー編成の時点で、異世界では基本とされる「斥候」や「回復」が基本扱いされていなかったようだし。
「まずは編成についてだが、基本的には前衛・後衛・回復・斥候を揃える必要がある」
大講堂にざわめきが広がる。
やはり基本が違うようだ。
「前衛は基本的に近接武器を使うやつ、後衛は遠距離武器と魔法使い、回復は光魔法を使えるやつ、斥候は盗賊ジョブや斥候ジョブだな」
「斥候ジョブなんていたか?」
「盗賊ってそんな重要だったんだ…」
「光魔法って結構レアだよな?」
いろいろな声が聞こえてくる。
レベルが上がると基本的に身体能力もあがっていく。聴力も例外ではない。なので、シンジの場合、小声であっても結構鮮明に聞こえてしまうのだ。
「武器や魔法で戦ってるやつが目立つかもしれないが、ランクの高いダンジョンを攻略するなら斥候と回復は必須だからな。今のうちからちゃんとパーティーにいれて、連携を確認するのがいいと思うぞ」
生徒たちが、またお互いにひそひそ話をしたり目配せをしている。誰を勧誘するとか、そういう話をしているようだ。
「はい!先生、質問です!」
先ほどと同じ男子生徒が手を挙げた。
「なんだ?」
「斥候や回復の人は直接戦わないのでレベルが上がりにくいと思います。パーティーを組む上で、それはネックになりませんか?」
「それはやり方が悪い。金曜の訓練の話の時に詳しく話すが、回復役は光魔法が使えるんだから、バフで戦闘に参加すればちゃんと経験値がもらえるし、斥候は石礫でも投げとけば経験値がもらえるんだからどうとでもなる」
「それは、先生はどのアクションが経験値に結びつくか知ってるってことですか!?」
「…当然だろう?」
質問されて、ちょっと嫌な予感がする。いや、予感ではない。こんな質問が出るということは、彼らは知らないのだ。経験値の稼ぎ方を。
「当然ではありません!」
予想通り、言い返される。
「…わかった。それは金曜にまた詳しく解説する」
この話をしたらパーティーの話ができないのでいったん終わらせる。
そこから、前衛・後衛・斥候・回復の役割をもう少し詳細に説明していく。その次は連携の取り方だ。
どれも異世界ではかなり初期に教えてもらった内容だ。これすらも知らないということは、本当に人類は右も左もわからない中で戦ってきたんだな…と改めて地球の状況を実感する。
話すことが足りるのか若干心配だったが、それは杞憂だった。ダンジョンスクールが思ったよりレベルが低かったので——失礼を承知で言っている——、話すことはいくらでもあった。
一通りパーティのあり方について説明したあと、質疑応答に入る。
「回復役はポーションで代替可能ですか?」
「斥候が見つからない場合、どうしたらいいですか?」
「このパーティ編成はどれくらいのランクのダンジョンから必須なんでしょうか?」
様々な具体的質問が飛んでくる。
「ダンジョンランクによっては可能だが、アイテムボックスなどでポーションをかなり多く持てる場合を除いては完全に代替するのは難しいな」
「斥候は特別なスキルがなくてもできる部分はある。斥候役を立てて学ばせるんだな」
「上位ランクくらいからは必須だと思う」
シンジは一つ一つ回答していくが、あっという間に時間が来てしまう。それでも質問は終わらず、そのまま二限目に急遽授業が延長されることになった。
もともと二限目に予定されていた授業はどうなるんだろう?ということが微かに気になりつつも、シンジは生徒たちの質問に答え続けた。
———
「長かった…」
講義が終わって早々、シンジは先生方への挨拶もそこそこに自宅に転移で戻ってきていた。予定の倍の時間講義をしていたせいか、思ったより疲れた。
戦闘とはまた違った疲労感である。
ちなみに、明日からは応接室に直接転移していいと許可をもらった。わざわざ公衆トイレに転移しなくていいのは楽だ。
ふとスマホを見ると、LINUにメッセージが来ていた。カナタかと思いきや、ヨツバだった。ちょっと久しぶりだ。
トークを開く。
『シンジ!一位だったの?なんで教えてくれなかったの、びっくりしたじゃん!!ってことはカナタが二位?』
思わずスマホを落としそうになる。
(え?なんでだ?どこでバレた?認識阻害かけてたよな?声も)
タイミング的に、今日の講義を配信で見て気づいたのだろうが、どこで気づかれたのだろうか?
文面からして「もしかして…?」とかいうレベルではなく、確信している。
『え?なんでわかった?』
『えー!?むしろ気づかれないと思ってたの?何年幼馴染やってると思ってるの!仕草で全然わかるよ!』
(仕草…)
そんなに特徴的な仕草をしていただろうか?自分ではわからないが、幼馴染がそう言うならそうなのだろう…現に正体を見破られているわけだし。
『そうか…いや、ごめん。言うといろいろ面倒ごとに巻き込むと思ったし、そもそも信じてもらえるかわからなかったし』
『ダンジョンができたことより信じられないこととかないよ!!』
それは…そうかもしれない。
『とにかく!詳しい話聞かせて!四人で会おう』
『アヤセも気づいた?』
『当然!』
当然らしい…。
結局、その日の夜、シンジの家に集合することになった。




