第51話 二十四
スウェーデンから戻ってきたシンジとカナタはまたファミレスにいた。
泉田たちはまだ戻ってきていないようだ。中位ダンジョンは階層おおよそ30で、踏破適正レベルは千。スキルスクロールを入手した泉田たちからしたら——『冥界の果て』の面々にも前払いで一つずつスキルスクロールを渡している——多少は苦戦するかもしれないが、問題はないはずだ。
「石碑ダンジョンは合計24個。この24って数字に何か意味があるのかな?」
二人は目下、石碑ダンジョンの謎に取り組んでいる。
「24と言えば?」
「…24の瞳?」
有名な小説だ。
「なるほど。戦時中の話だよな?」
「うん。私も詳しくは知らないけど」
「でも石碑ダンジョンは世界中にあったよな?日本の小説に基づく謎出すか?」
「うーん、わからないけど」
「やっぱり気になるのはアルファベットなんだよなぁ」
「そうだよねぇ。『アルファベット』…『24』…」
カナタはぶつぶつ言いながらスマホをいじっていたが、唐突に顔をあげた。
「24個のアルファベット!!ギリシャ文字だ!!」
「は?」
「なんで今まで気づかなかったんだろう。ギリシャ文字のアルファベットは24個なの!」
「!…なるほど。石碑に書かれていたのが英単語だったのはミスリードで、本当はギリシャ文字だったってわけか」
「そうだと思う!だからまずはアルファベットをギリシャ文字のアルファベットに置き換えて、ギリシャ文字の順番に並び替えると…」
カナタは、スマホでギリシャ文字とアルファベットの対比表を見ながら整理していく。
「できた!」
《この世には ——Alphabet》
《二つの ——Blizzard》
《星がある ——Garden》
《二つの ——Darkness》
《星に ——East》
《忍び寄る ——Zero》
《影がある ——Heart》
《太陽の光が ——Quiz》
《届かない ——Ice》
《闇からの影 ——Knight》
《月から ——Love》
《道が通る時 ——Memory》
《影は ——Nightmare》
《光に出て ——X》
《光を侵す ——Oasis》
※ここにP
《自らを ——Revival》
《照らす光に ——Season》
《油を添えて ——Tears》
《そして ——Universe》
《どうしても ——Fairy》
《困ったら ——Cherry Blossom》
《僕を ——Yesterday》
《呼びなさい ——Wish》
「意味が通るな!いや、意味自体は正直よくわからないが、文章にはなってる」
英語のアルファベット順に並べた時は文章になっていなかったのだ。
「当たりなんじゃないか?」
「並べ方は合ってるっぽいけど、意味は相変わらずよくわからないね」
文章にすると、こんな感じだろうか。
《この世には二つの星がある。二つの星に忍び寄る影がある。太陽の光が届かない闇からの影。月から道が通る時、影は光に出て光を侵す。【Pが入る】自らを照らす光に油を添えて。そして、どうしても困ったら僕を呼びなさい。》
二人はじっくり文章を何度か読む。
「まず、二つの星が何?って感じだよね?星なんていっぱいあるのに」
宇宙には無数の星がある。
「宇宙の星じゃなくて何か別の星を指してるとか?」
何かの比喩なのかもしれない。もっとも、ノーヒントで比喩を解くのは厳しい気もするが。
「で、その星に影が忍び寄ってるのよね。備えろっていう伝言はこれのことかな」
「可能性は高いな。月から道が通る時とやらに影が来るんだよな?月から道が通るってなんだ?」
「光に油を添えるってのもよくわからないよね」
「いや、それはそうでもない。昔は光を灯すのに油を使ってたからな。光を絶やさないためには油が必要だったんだ」
「じゃあ光を絶やすなってこと?」
「うーん、多分?」
断定は難しい。
「でも一番の謎は…」
「「僕」」
二人がハモる。
「だよなぁ。誰なんだ?『僕』って」
「困ったら僕を呼びなさいって言ってるから、おそらく味方してくれるんだろうけど…そもそも誰かもわからないし、どうやって呼んだらいいのかもわからないよね!」
「やっぱりダンジョンの制作者か?」
「可能性は高いよね…」
「あのレインボードラゴンはなんか知ってるんだろうなぁ…」
レベル50万で、年齢が宇宙並だったレインボードラゴン。伝言を伝えてきた主を当然知っているだろうし、このメッセージについても、もっとわかることがあるかもしれない。
しかしどこに行けば会えるのかもわからないし、また戦うのもできればごめん被りたい。
「とりあえず泉田さんからの報告を待つ?」
「そうだな、あと一フレーズで何かがすごくわかるわけではないだろうけど、揃ってから考えた方がいいよな」
というわけで、話はまたいったん保留となった。
泉田から報告があったのはその十日後だった。
正直なところ、自分たちで行った方がよほど早かっただろうが、泉田たちのいろんな意味でのレベルアップのためだ。仕方がない。
内容はこうだ。
《備えよ ——Past》
→【中位 過去の入り口ダンジョン】、インド
文章に当てはめるとこうなる。
《この世には二つの星がある。二つの星に忍び寄る影がある。太陽の光が届かない闇からの影。月から道が通る時、影は光に出て光を侵す。【備えよ。】自らを照らす光に油を添えて。そして、どうしても困ったら僕を呼びなさい。》
「結局『備えよ』か!」
思わず突っ込むシンジ。
「なんか振り出しに戻った感じ…」
カナタもちょっと疲れた声だ。
「とりあえずいろんな角度から検証していくしかないな…」
一つ謎が解けたと思ったら、それはあくまで次の謎の入り口でしかなかったようだ…。
これにて第二章「石碑」は終了です。
そしてストックが尽きましたヽ(´o`;更新にお時間いただくかもしれません…m(_ _)m




