第5話 様子見
ヨウスケとユキナのランキングを修正しました。
次の月曜日、シンジとカナタは幼馴染二人が通う「蒲田」にあるダンジョンスクールの近くのファミレスにいた。
ダンジョンスクールの演習の様子見をするためだ。
「とりあえず、どんな感じでやってるのか見よう」
「そうだな、こっちのダンジョンも、調べた感じ向こうと同じ感じみたいだけど、行ってみないとわかんないしな」
「ところでさ…ランキング、やばいよね?」
「ああ…絶対バレたら大変なことになるぞ。俺は隠し通す所存」
「そうだよね。うん、絶対そっちの方が良いよね」
その後、簡単に打ち合わせしてから現地へ向かう。「透明化」、「隠密」、「認識阻害」の無魔法三重掛けをしておく。「透明化」は文字通り透明になる魔法で、「隠密」は存在感や気配を消す魔法。そして「認識阻害」は誰なのかを認識できなくする魔法だ。「透明化」と「隠密」で十分だとは思われるが、念のためだ。
ダンジョンスクールは「蒲田」駅から徒歩10分ほどのところにあり、見た目は普通の中学や高校と変わらない。
なぜこの立地かというと、単純にダンジョンができたからだ。ダンジョンができると、その一帯は政府が買い上げる仕組みになっている。そこに防衛施設や、ダンジョンスクールなどを建設するわけである。
ダンジョンスクール生は、ダンジョンでレベルを上げつつ、いざという時には防衛施設を守る自衛隊と一緒にモンスターとも戦う。
【蒲田ダンジョンスクール】
校門のところには、完全にそのままな名前が掲げてある。校門を通り抜け、ダンジョンスクールの奥にある防衛施設のさらに奥、ダンジョンの入り口に向かう。
ダンジョンの前のスペースには、生徒たちが集まっており、その中にアヤセとヨツバの姿もあった。人数としては20-30人くらいか。
『いたわね』
『結構軽装だな』
無魔法「テレパシー」で会話しながら慎重に近づく。他の属性魔法も強力ではあるが、無魔法はとにかく使い勝手が良い。スクロールを集めるのに苦労はしたが、便利な魔法が目白押しだ。無魔法バンザイ。
生徒たちは、全員歩きやすそうな軍隊風のズボンと、揃いの長袖を身につけており、その上から防具やマントを羽織っている人もいる。
アヤセはマントを、ヨツバは矢の束を背負っていた。
「お前らー、今日の課題はポーション一つ取得だ。いつも通り慎重に行けよ。んじゃ順番に突入!」
先生らしき若い男性が全員に声をかけた。生徒たちは、4-5人のパーティーで順番にダンジョンに入っていく。
ダンジョンの入り口は、黒いモヤのようになっており、そこを通り抜けると異空間にあるダンジョンに飛ぶ。どういう仕組みかは不明だが、ダンジョンは現実世界にあるわけではないのだ。
なので、ダンジョンの中といってもいかにもダンジョンっぽい洞窟なようなものもあれば、青空が広がる草原だったりもする。ダンジョンは謎がいっぱいなのだ。
アヤセたちの番になった。アヤセとヨツバ、そしておそらくこの間二人が言っていた剣士の女性と盾使いの男性の二人がダンジョンに入っていく。こっそりとついていくシンジとカナタ。
中に入ると、ウィンドウがポップアップする。
【下位 静かなる調べダンジョン】
下位ダンジョンは踏破適正レベルは百。ただし低層に潜る分にはもっと低くても構わない。総階層は十くらいが平均だ。
ちなみに、この自動ポップアップウィンドウは周りには見えない。ウィンドウは「オープン」と呼び出すことで初めて周りにも見えるようになるのだ。
四人は慣れているらしく、サクサクと進んでいく。
「ポーションは三階まで行かないとドロップしないから、今日は三階だな」
盾使いの男性が言うと、全員が頷いた。
『とりあえず、鑑定してみてよ』
カナタがシンジにテレパシーで声をかける。このテレパシー、一度発動すれば微弱な魔力を消費するものの、切るまではそのまま繋がっている便利な魔法なのだ。
『オーケー』
「鑑定」も無魔法だ。シンジにしか使えない。
【ステータス】
名前/性別/年齢: 小早川ヨウスケ(男性、19)
レベル: 39
ジョブ: 盾使い(中位)
ランキング: 328,353,135
適性: 盾(中位)、魔法(中位/水、土)
【ステータス】
名前/性別/年齢: 引芝ユキナ(女性、21)
レベル: 38
ジョブ: 剣士(中位)
ランキング: 368,538,250
適性: 剣(中位)、魔法(中位/風)
『二人ともヨツバたちと似たような感じだな』
四人はどんどん奥へと進む。下位ダンジョンの一階だ。罠もほとんどない。ゴブリンやスライムなどの低級モンスターを危なげなく蹴散らしていく。
ほどなくして下り階段へ辿り着くと、迷わず降りていく。
二階も似たような洞窟が続いている。
出てくるモンスターもあまり変わらないが、バットという蝙蝠モンスターが増えた。飛ぶ分、少し厄介だ。
弓と魔法で倒していく。
『意外と大丈夫そうだな』
『まぁ、下位ダンジョンだしね…罠察知とか、回復とか、まだそんなにいらないのかもね』
三階に降りると、ヘビ型モンスターのスネークが登場した。
「うう、気持ち悪いよー」
ヨツバが泣き言をいいながらも弓で戦っている。ヨウスケとユキナが前衛で、アヤセはヨツバと一緒に後衛だ。
『あ…』
その四人の後ろの方に、ゴブリンアーチャーがいた。名前の通り弓を扱うゴブリンだ。距離があるからか、前方に夢中の四人は気づいていない。
『おいおい一人は後ろを警戒しろよ!!』
思わずつっこむ。
言っている間にゴブリンアーチャーが弓をつがえて、矢を放つと…
パシッ。
鋭い音を立てて矢がアヤセの脇腹あたりをかすめるかかすめないかの位置を射った。
カナタが風の魔法で少しだけ位置をズラしたのだ。
「後ろにゴブリンアーチャー!!」
ようやくゴブリンアーチャーに気づいた四人は体勢を立て直し、無事にスネークたちとゴブリンアーチャーを片付けた。
ゴブリンアーチャーは矢をドロップし、スネークは一体だけポーションをドロップしたようだ。魔物自体は、光の粒となって消えていった。
そう、魔物を倒して入手できるのはドロップ品だけで、その分剥ぎ取りなどは必要ないが皮などはそれがドロップされないと手に入らないのだ。
『カナタ、ナイス』
『うん、でも、危なすぎ!!見てらんないよ』
四人も危機感はもったようで、
「今のはやばかったよね」
「矢を射られるまで全然気づかなかった」
「っていうかなんで外れたんだろ?ゴブリンアーチャーなら当たりそうだけど」
「ラッキーとしか言いようがないよ。今後からは後ろももっと警戒しよう」
「とりあえずポーションは入手できたし、今日はもう戻ろう」
四人は手早くドロップ品を集めると、元来た道を戻り始めた。
——
カナタとシンジは二人ファミレスにいた。
「ねぇ、どう思う?」
「カナタも絶対思ってると思うけど、不安すぎる」
「とりあえず、二人には防御系の魔法をかけておきたい。せっかくだから四人ともかな」
「そうだよな…」
二人はあれこれ話し合い、結果シンジの無魔法「封印」でカナタの防御魔法「ウィンディシールド」をアクセサリーに閉じ込め、それを渡すことにした。四人がピンチに陥ると、自動で無魔法「解除」が働きウィンディシールドが発動するという優れものだ。
どうでもいいがこの解除条件の設定が地味に一番大変だった。ピンチをどうやって定義するのかが難しかったのだ。
結局、「一定以上の威力の攻撃が体に当たりそうな時」という設定にしておいた。
「でもなー、どうやって渡すかな」
「私たちがなんでそんなの持ってるんだってなるよね」
「じゃあ…ダンジョンに仕込んでおいて、自分たちで見つけてもらうか」
「無難ね!それでいこう」
そういうことになった。
後日、再び「透明化」「隠密」「認識阻害」を使って四人を追跡し、それっぽい宝箱ーーダンジョンの宝箱をシンジの無魔法「コピー」で複製したものーーにペンダントを入れたところ、無事四人が入手。
「ペンダントだ!なんかちょうど四個あるよ」
「四個も入ってるなんてすごくね!?しかもなんかマナが結構入ってそうなペンダントだな」
マナの説明は長くなるので今は割愛するが、魔力のようなものである。
「とりあえず持って帰って鑑定に出そう!」
こうして無事に四人にペンダントを入手させた二人だったが、後日鑑定されたペンダントがかなり珍しい上位アクセサリーとしてスクール内で騒がれ、しかも四つもいっぺんに出たものだから「自分も欲しい!」と三階に突撃する人が続出するちょっとした騒ぎになるのだが…だ二人には預かり知らぬことであった。




