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第46話 報酬

『なんか知らんが大量のマナストーンを売ることになった』


とりあえずいつも通りLINUでカナタに報告する。


『なんか知らんって何よ』


『いや、成り行きで。代わりに戸籍と探索者ライセンスを偽名で用意してくれるらしいぞ。あ、嫌だったらカナタは売らなくてもいいけど』


『有り余ってるし嫌とかないけど。なんだかんだで協力要請されると受けちゃうよね、シンジって』


『まぁ…』


その通りなので、特に返す言葉はない。


『じゃあシンジがそっち対応している間に私が報酬のスキルスクロール配っておくね』


『ああ、よろしく』


『いろいろ落ち着いたら残りの石碑ダンジョン攻略する?シンジの方が時間かかりそうなら私一人で行ってきてもいいけど』


『そんなにかからないと思うけど…もしカナタの方が先に手が空いたら、下位から順番に任せていいか?上位までで。最上位のスウェーデンは一応一緒に行った方がいいと思う』


基本的にダンジョンは一人で行くところでないが——カナタは斥候系のスキルをほとんど持っていないし——それでも上位ダンジョンの適正攻略レベルは一万。さすがにカナタがどうこうなるとは思えない。


『了解。スキルスクロールの方が終わったら適当に行ってくるね』


———


翌日、カナタは『冥界の果て』のクランハウスに来ていた。もちろん認識阻害とマスクをしている。


今日の目的は、石碑ダンジョンの攻略を完了した探索者たちへの報酬配布である。泉田が快く場所を提供してくれている。ありがたい限りだ。

ちなみに、アランベルトだけは先日すでに報酬のスキルスクロールを受け渡し済だ。アランベルトの希望通り闇と重力の最上位魔法、それから神話級剣術を渡したらものすごく喜んでいた。


最初にやってきたのは『虹の向こう』パーティー、氷見シズクとイツキの双子だった。


「ご機嫌よう」


お嬢様な挨拶とともにシズクが入ってくる。場所は前回と同じ小部屋で、前回同様面接かのように長机が設置してある。

シズクは相変わらずサラサラな長い銀髪である。弟の方も、髪は短いがこちらもシャンプーのCMに出てきそうな位サラサラである。羨ましい…。


「こんにちは」


カナタが声をかけると、イツキの方も会釈をした。二人が腰掛けると、カナタは早速本題を切り出す。


「今回は依頼を引き受けてもらって助かったよ。約束のスキルスクロールね」


カナタが差し出した合計4本のスキルスクロールを二人はいそいそと受け取る。


「こちらこそ、素晴らしい報酬をありがとう存じますわ」


優美に頭を下げるシズク。


「事前にもらっていたスキルも素晴らしかったです!今回の件で僕たちもかなり強くなれました」


イツキも同意する。


「それは良かった」


「ところで、不躾な質問で申し訳ないのですけれど。どうして今になって日本の戦力底上げを目指していらっしゃいますの?日本の未来を憂いているなら、お二人がそこまで圧倒的に強くなる前から活動されていても良かったように思いますわ」


シズクははっきりと物を言うタイプのようだ。踏み込んだ質問をしてくる。


「それは…今まではちょっと手が離せなかったのよね」


「それはお二人がそこまで強い理由と関係があるということでしょうか?」


鋭い。ダンジョンが出現してから三年間、二人は一切表に出て来なかった。そしてカナタはその三年間は「手が離せなかった」と言っている。そこにすなわち二人の強さの秘密があるのでは?と、シズクは考えたのである。


「そう思ってくれて構わないかな」


「なるほど、よくわかりましたわ」


何かがよくわかったらしい…。


「私たちも遠慮なくこちらのスキルスクロールをいただいて、強くなりますわ。私、『剣聖』というユニークジョブを賜ったことにも意味があると考えておりますの。でもその意味は、強くならないと全うできないと考えていますわ」


『ユニークジョブ』というのは確かに特別だ。

世界でただ一人、自分しか持っていないジョブ。そして、得てしてそのジョブは超強力だ。

異世界ではユニークジョブ持ちを『神の加護持ち』と言ったりもした。ユニークジョブは大体が神様が下さったとしか思えない強力なジョブだからだ。

そして、それに結びつけてユニークジョブ持ちを『神の使者』と呼ぶ人間もいた。

ただし、本当に神の賜物かは不明だ。


「確かに、そうかもね。私もユニークジョブ持ちだけど、このユニークジョブをもってすべきことがあったの。それにかかりきりで、今まで他の活動はできなかったのよね」


嘘は言っていない。『勇者』としてすべきことがあったし、そこに全身全霊をかけていたのは事実だ。


「私にもきっとすべきことがあるのだと思いますわ。そのために強くなって備えることにいたします」


「僕はユニークではないですが、姉さんを支える役目だと思ってます」


イツキのジョブは『吟遊詩人』だ。

確かにユニークではないが、サポーターとしてはかなり強力で、勇者パーティーの一人も吟遊詩人だった。


「そうだね、『剣聖』は強力なジョブだけど、搦手にはそんなに強くないから、しっかりしたサポーターが必要だと思う」


「まぁ、お詳しいのですね」


「ジョブについては、大体ね。もちろんユニークだから本物の剣聖を知っていたわけではない、けれ…ど…」


話しながら、カナタは何か違和感を覚えた。何か見落としているような…。


「どうされました?」


「いや、なんでもないよ」


違和感はあるが、まずはいったん会話を締めくくらなければ。


「とにかく、二人は良い組み合わせだと思うから頑張ってね」


「ええ、もちろんですわ!」


二人は礼を言いながら退室した。

一人残されたカナタは考え込む。


(確かに違和感があった…。何について?そう、剣聖に会ったことがないっていう話。ユニークだから、当然だよね)


そこまで考えてカナタはハッとした。


当然ではない!なにせカナタがいたのはこことは違う異世界なのだ。


(待って、ユニークって()()()()()()()()()ユニークなの?アーカストと地球が完全に異世界ならそれぞれに勇者とか剣聖がいてもいいよね?あれ、でも私はアーカストの勇者で、地球でも勇者だ…この場合どうなるの?)


それからカナタが知っているユニークジョブについて考えてみる。


(今回の勇者パーティー…ユニークジョブは不作って言ってた…。聖女も剣聖もいないって。聖女はわからないけど、剣聖は地球にいた。地球にいたからアーカストにはいなかった?え?異世界なのにそんなことってある?)


自分の考えを一蹴したくなるが、完全に否定する要素がないことも事実だ。


(アーカストと地球は…単純な異世界じゃない…?ダンジョンだって似過ぎているし…。え?これってかなり重要な話だよね?)


なんだか世界の秘密に迫っている気分だ…。


(これは、シンジの意見を聞かないと)

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