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第45話 総理大臣

シンジが電話に出ると、支倉は開口一番、言いづらそうに切り出した。


「あー、非常に言いづらいのだが」


珍しく歯切れが悪い。


「総理大臣の件なら聞いてるが」


助け舟を出す。


「耳が早いな!そう、その件だ。総理大臣が君たちに会いたいと言っているんだが」


「どうせ断れないんだろ?」


「君たちなら断れないこともないが、断らないでくれると助かる」


確かに、誰も二人に強制することはできないだろう。実力的にもそうだし、そもそも二人の居場所が割れていないのだから。

しかし、断ると支倉の立場が悪くなるということだろう…。

ある種の人質のようでイラッとする。


「わかった。けど、山田は忙しいから俺一人で行くつもりだ」


カナタには石碑ダンジョン攻略者たちにスキルスクロールを渡すのを任せている。


「それは大丈夫なはずだ。いつなら来れる?」


「ぶっちゃけいつでもいいんだが、さっさと終わらせたいな」


「なら、早めで調整する」


「あと、総理大臣に会った後のことは保証できないぞ?無理な注文は聞けない」


「まぁ、そうだろうな…とりあえず穏便に済ませてくれると助かるんだが」


心配そうに言われるが、心外である。いつも穏便ではないか?


「俺が穏便でないことあったか?」


「穏便と言えば穏便なんだが。神話級ダンジョンに突入するくらいだからな、我々からすると何か突拍子もないことをしでかしそうで…いやすまないね」


確かに、今の世の中の常識とは違う行動をとっているかもしれない。


「まぁ、いきなり総理大臣を暗殺とかしないから安心してくれ」


「当たり前だ!!本当に頼むぞ」


「冗談だ、冗談」


冗談を言えるくらい信頼関係が築けたということだろう。たぶん。


「日程が決まったらまた連絡する」


———


総理大臣に会ったらどうするか。

まずは話を聞くしかないが…なんとなく、あんまりロクな話ではないような気がしている。総理大臣本人についてそこまで知っているわけではないが、ダンジョン省副大臣の浅間が焚き付けている時点であまりいい予感はしない。


しかし、支倉には穏便に済ませてくれと言われている。シンジとしても、国と決裂したいと思っているわけではない。日本の運命を背負えるかというとそこまでは難しい気がするが、日本に愛着はあるし【魔王の城】のバースト——その他のダンジョンのバーストでも——で滅びるのは困る。

少ないが友人や親戚もいるのだし。


かと言って、国に利用されるのは嫌だ。そんな筋合いはない。だから、落とし所が大事だ。


そんなことを考えながら、シンジは首相官邸に着いた。

マスクをとってボディチェックをされる。危ないものは全てアイテムボックスに入っているし、魔法もあるのだからほぼ意味はないが、必要なことなのだろう。マスクについても予想はしていたので素直に外す。

しかしこの警備体制で、探索者のテロなど防げるのだろうか。甚だ疑問ではあるが、今の日本の探索者はアイテムボックスなどないだろうから、少なくとも武器の持ち込みくらいは防げるのかもしれない。


その後、面談室に通され、お茶を出される。面談室はそんなに広くなく、ソファが向かい合って置かれていた。


面談の約束をしていたにも関わらず小一時間ほど待たされる。


(まぁ、そんなもんか)


異世界の王様に会う時も、そんな感じではあった。権力者は忙しいのだから仕方ないことなのだろう。


(でも俺、譲歩しすぎじゃね?)


ランキング一位としてはもっと強気に出てもいいのでは?とも思う。

しかし、権力者は合わせられるのに慣れているだろうから——偏見かもしれないが——ある程度合わせないと話が進まないかもしれない。

そう思うと、最初に泉田が言っていたように支倉は話が通じる男である。


とりとめのないことを考えていると、総理大臣が来ると声をかけられる。立って迎えるか迷うが、勝手に呼び出されてるのだ。そこまで気にする義理はないだろう。


総理大臣がやって来た。

テレビで見たことがある通りの、初老の男性だ。中肉中背で、目力はあるが顔にも少し贅肉がついている気がする。余計なお世話だろうが。


「よく来てくれた」


「呼ばれたからな」


決めていた通り敬語は使わない。総理は少し驚いたようだったが、特にコメントはしなかった。ちょっと高評価だ。


総理がシンジの前のソファに座った。お茶が出されるが、同席する人間はいない。


「総理大臣の峯岡だ」


「俺はランキング一位で、偽名だが佐藤と呼ばれている。好きに呼んでくれ」


「では、佐藤君。君とは一度直接会いたいと思っていた。できれば二位の方とも会いたかったが」


「山田は忙しかったからな」


一応事実である。


「俺に話してもらえれば山田には伝わるから気にしないでくれ」


「聞いていた通り仲が良いのだな」


仲が良い?まぁ、そう言われるとそういう表現になるのかもしれない。もう仲が良いとかそういう次元ではないと思っているが。


「で、俺に話って?」


「まずは先日のダンジョンバーストの際の助力に感謝する」


「ああ。まぁ、それくらいは」


いきなり感謝されてやや面食らう。思っていたのとちょっと違う。


「私としては、これからも佐藤君と山田君とは建設的な関係を築いていきたいと思っている」


「…異論はないが」


「その前提で聞いてほしいのだが」


前置きが終わったようだ。

ちょっと警戒レベルを上げる。上げたから何かが変わるわけでもないが。


「二人が無断でダンジョンに入っていると訴えている者がいる」


誰かは明らかだ。あの副大臣浅間だろう。まぁ予想通りの話だ。


「それで?」


肯定も否定もせず、先を促す。


「まずは事実関係を確認したい」


(なるほど。対応については先に言わないつもりか。反応を見てるんだな)


「事実ではない…と言ったらどうする?」


「それなら仕方がない。こちらは証拠がないならな」


(お?意外な反応だな)


「状況証拠と証言には事欠かないが」


ははっ、と総理が笑う。

二人が石碑ダンジョンを攻略しているというのは特段隠していない。ダンジョンに入る瞬間や潜っている様子が見られていないだけで、二人がダンジョンに入っているという証言は十分にあるだろう。


しかし——建設的な関係を築きたいという前置きをあえてしてきた。ということは、そこまで追求する気はないのかもしれない。


「なるほど。まぁ答えは変わらないな。そういう事実はない」


「そうか、わかった。いや、良かった。副大臣からは君たちを捕まえてアイテムを接収すべきだと進言されていてね」


どことなく白々しい総理。


「それは困るな。不当にアイテムを接収されるとなると日本を出ていくしかなくなるからな」


何かあれば日本から出ていくと脅しておく。総理としてもあえてこういう発言が出てくるよう、狙っていたようだし。

そう言われたから諦めるしかなかったとか、言い訳に使うつもりなのかもしれない。


「ならこの話はもういいだろう」


ちょっと拍子抜けである。


「ダンジョン省の副大臣からの訴えが強かったものでね。会って確認したという事実が必要だったのだよ」


「なら、もう行っていいか?」


「待ちたまえ、大事なのはここからだ」


どうやら副大臣のことはついでだったらしい…。


「君たちのおかげで我が国ではポーションが潤沢になった」


本題に入るようだ。


「そこで、だ。それだけのポーションを持っているということは、マナストーンもかなりの量があると思うのだが、どうかね」


(あ〜なるほど。そっちか)


マナストーンはクリーンなエネルギー源である。エネルギーを取り出す過程でCO2を排出したりしないし、核廃棄物も出ない。エネルギーがそのまま固まったような物質だ。小さいマナストーンでも一軒家の一年分の電力を賄うことができる。大きいマナストーンが十万くらいあれば、日本の一年間の電力を賄えるはずだ。

そして、シンジのアイテムボックスにはそれ以上の量のマナストーンが眠っている。


「それを知ってどうする?」


「もちろん接収しようなどとは考えていない。もし持っているのなら大量に買い取らせてほしい。正規の代金は払うが、まとめ買いで少し安くしてもらえると助かる」


シンジは考え込んだ。

マナストーンはポーションと同じく腐るほどある。使い道があるかと言われると、シンジ自身がエネルギー源として使うことは基本的にはない。錬金の素材として使うことがほとんどだ。


「もし売ってくれるのなら、今の偽名で探索者ライセンスと戸籍を発行する」


(おいおい、いいのかよ?総理がそんなこと言って。いや、それだけ日本に繋ぎ止めたいってことか。どうする?)


特に今の状態で不便を感じているわけではない。が、ライセンスと戸籍は便利と言えば便利だ。なんだかんだ言いつつ日本を出ていく気はないのだし。

しかし、政府の紐付きになるのは嫌だ。


「どうやら、持ってはいるようだね」


これだけ考え込んでいれば明らかだろう。


「まぁ、持っているかいないかで言えば持ってるな」


「もちろん出所は問わない」


「使い道は?」


「日本のエネルギー源としてだね。量によっては外交カードしても考えるけれどもね」


マナストーンは有り余っているといえば有り余っている。ポーションを大量に売っているのでお金に困ってはいないが…。


「条件がある」


「なんだね?」


「まず、ポーションの時もそうだったが、半永久的に売り続けることはできない」


「それは当然だろうね」


「量と価格はこちらで提示させてもらって、その中から好きな分だけ買い取ってもらう形になると思う」


「それは問題ないね」


「それから、契約内容は双方確認の上、魔法契約させてもらう」


「魔法契約か…」


少し難しそうな顔をする総理。


「何か問題が?」


契約を破るつもりがなければ渋る理由はないと思うが。


「いや、こちらが魔法契約というものをあまり理解していないのでね。それがどういう効力を待つか裏付けがないのが少々ね。信用してないわけではないのだが」


口で言った内容とは別の内容で契約するといった小細工を見抜くことができないことを懸念しているようだ。


「『魔法契約』の魔法を込めたアイテムを用意するから、それをそちらで『鑑定』するのはどうだ?効果が鑑定できるぞ」


魔法を込めることができるアイテム【妖精の真珠】を使えば簡単である。余計な手間は増えるが、それでお互いが安心して取引ができるなら安いものだろう。


「そんなアイテムもあるのか!素晴らしいね。それなら問題ないだろう」


「あとは、俺たちの正体を探らないことだな。戸籍を用意してくれるというのはそういうことだと思うが、念のため契約に入れてほしい」


戸籍を用意するということは、今の正体不明の二人をそのまま受け入れるということだと考えられる。


「それは…私として破るつもりはないが、どこまでが違反と判定されるんだい?」


「ぶっちゃけ違反判定されるのは契約する本人だけだな。あとは誠意の問題だな」


文言に入れておくことで、何かあった時に文句が言える。これは意外と重要なことだ。


「だから、契約は総理、あんた本人にお願いしたい」


総理が責任をとるなら契約する、と告げる。


「ふむ。良いだろう。条件は以上か?」


「ああ」


「わかった。なるべく早く契約をしよう。そちらの準備はどれくらいかかる?」


準備といっても、【妖精の真珠】に魔法を込めて、取引できるマナストーンの量を確認するだけだ。そんなに時間はかからない。


「そんなにかからない。明日でも大丈夫だ」


「わかった。こちらの準備が出来次第連絡するようにしよう」

総理との面談プロセスは想像です。実際とは異なると思います(^◇^;)

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