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第42話 攻略

フレーラスを倒した後、二人の攻略は順調に進んでいた。

101階層からは、嫌なトラップのあるダンジョンフロアが増えた。闇ピエロの時のような精神攻撃はもちろん、分断された上で迷路を攻略させられたり、自分のコピーと戦ったり、フロア全体が触手で覆われている中を進んだり。おおよそダンジョンといえば思いつくもののオンパレードである。


今回の精神攻撃はダークホースという馬型のモンスターによるものだった。知能はほとんどない癖になぜか精神攻撃をしてくる謎モンスターである。


レベルが高かったからか、前回より長く幻を見せられた。

そう、アーサーが死ぬところまで…。


ダークホースを倒した後、シンジは自分が泣いていることに気づいた。感情をこんなに揺さぶられるのは地球に戻ってきてから初めてだ。

地球に戻ったら平穏な日々が待っていると思ってたのに…また勇者のようなことをしている。

そういう定めなのか?

シンジは苦笑した。


アーサーのことは引きずってはいない。

だが、その場面は強烈だった。当時の喪失感を思い出すほど。

同時に、アーサーの最期の言葉を思い出す。それが今のシンジの行動原理を作っていると言っても過言ではない。


『シン、お前は——』


「シンジ、大丈夫?」


「ああ、カナタ。ちょっとアーサーさんのことを思い出してた」


「そう…」


カナタは特に慰めたりはしなかった。そういうのは不要だということをわかっているからだ。

カナタもまた、旅の仲間だったサラのことを思い出させられたが、シンジとは決定的に違うことがある。

サラは死ななかった。呪いで生死の境を彷徨ったが、最終的には生還したのだ。アーサーとは状況が違う。


ダークホースが出たのが120階層だった。


そして続く130階層では二人のコピー。ありがちだが、対応が難しい相手ではあった。しかし二人の能力をそのままコピーしていても、連携がてんでダメだったのでその隙をついて倒した。


そうこうしているうちに、149階層まで攻略した。攻略も八日目に入っている。


「さて、いよいよ石碑か」


「ボスの可能性もあるけどね」


神話級ダンジョンの階層は()()()()150。150階層ちょうどとは限らないのだ。


「それもそうだな」


階段を降りた瞬間、虹色のブレスが飛んできた。


(絶界)


どうやらカナタの方が正しかったようだ。絶界を張りつつ考える。


前に目を向けると、フロアの中心には石碑があり、その上にレインボードラゴンが浮いている。イギリスのダンジョンの時と同じ構図だ。

違うのはレインボードラゴンが臨戦体勢ということだけだ。


(鑑定!)


【ステータス】

種族: レインボードラゴン(使者)

名前/性別/年齢: エラルナディル(オス、13,700,006024)

レベル: 500,000


「…は?」


「シンジどうしたの!?」


「こいつはやばい、レベル五十万!年齢も半端ない!最近のダンジョンで発生したやつじゃない!」


「ごっ…」


とりあえず絶界を維持したまま会話する。


『よく来たな。次の伝言がある』


「…それは良いが、なぜ臨戦体勢なんだ?」


『伝言にふさわしいか試さなくてはならないのでな』


いい迷惑である。そもそも確かに石碑は見ようとしているが、伝言はそっちが勝手に言っていることではないか!聞く義理がそもそもないのではないか?


「シンジ、勝ち目はほとんどないよ。石碑だけ見て撤退しよう」


「異論はないが、あいつがそれを許すか、だな…」


とりあえず二人の最強布陣——カナタ前衛のシンジ後衛かつ『並列思考』——に移る。シンジの絶界が失敗すれば本当にカナタが死にかねない。シンジは手を握りしめた。


そもそも、普通の魔法攻撃などは込めるマナに比例して威力があがる。

そしてモンスターは基本的にマナを身に纏っていて、それはレベルが上がるほど強力なシールドになる。自分よりレベルが低い相手であれば、十分にマナを込めれば相手のシールドを破ることができる。

しかし、レベル12万のシンジとこのドラゴンのレベル差は38万だ。普通の魔法合戦では勝ち目がない。


(『絶界』でなんとかするしかない)


『絶界』はそれ自体に「全ての攻撃を遮断する」という効果があるため、ある一定のマナを込めれば、その効力を発揮し、格上の魔法でも防ぐのだ。


また、カナタの持つ大剣——ゼレーダという魔法剣だ——はマナを切り裂く特性を持つ。だからモンスターとは非常に相性が良い。


『行くぞ!』


宣言された途端、翼から光が放たれた。ライトレーザーの強くて範囲が広い版のような攻撃だ。そのまま絶界を維持してやり過ごす。


(遠目)


石碑を覗き見ようするとが、何らかのバリアが張ってあるのか、この距離では見えない。


「俺が石碑を見てくる」


カナタに告げるだけ告げて石碑の近くに転移する。これで絶界は解けた。その隙をドラゴンが見逃すはずもなく、尻尾が飛んでくる。


(絶界!)


ギリギリ絶界を張り直すと、尻尾はなんとか防げた。その隙に石碑を見る。


《呼びなさい ——Wish》


キィィィン!


すぐに絶界に干渉されている感覚がした。

カナタが衝撃波を飛ばしているが全く効いていない。転移を発動し、カナタのところまで戻る。


「撤退だ!」


シンジが言うと、二人は同時に【脱出石(特)】を取り出す。脱出石はダンジョン内からダンジョン外へ転移させてくれるアイテムだ。しかし、通常の脱出石はボス部屋では使えない。この(特)がついている脱出石ならボス部屋からも脱出可能だ。

二人は脱出石を割る。瞬間転移が始まるが——。


キィィィン!


嫌な音が響いて転移がストップする。


「ジャミングされてるか!」


シンジが使った空間固定と似たような魔法だろう。転移ができない。


『逃がさん』


「絶界よろしく」


すぐに切り替えたカナタが飛び出す。このあたりは慣れの成せる技だろう。

そこにブレスが飛んでくるが絶界で弾く。

カナタはあっという間にドラゴンの懐まで飛び込むと、ドラゴンの胴めがけて下から上へと切り上げた。


ガツッ!


しかし何らかの結界で弾かれる。マナではなく、結界のようだ。マナであればそんな音はしないはずだ。

だが手応えはある。絶界ではない…と思う。


考えながら、身を屈める。その上をシンジの『ライトキャノン』が通過する。『ライトレーザー』の上位互換スキルだ。

カナタはすぐに離脱。

着弾したライトキャノンが派手な音を撒き散らして爆発する——このあたりがライトレーザーとは違う——が、ドラゴンにダメージが入った様子はない。


カナタはシンジの少し前まで戻る。


「…キツイな」


「仕方ない、カナタ、交代だ」


「わかった」


今度はカナタが一歩引き、シンジが前に出る。カナタの神話級剣術がほとんど意味を成さなくなるので、そういう意味ではイマイチな戦術だ。


(絶空!)


絶界の攻撃版だ。相手の防御力に関わらず切り裂く破格の無魔法。

ドラゴンが初めて避けた。


(やっぱり、これなら攻撃は通る!…当たれば)


そのままシンジはドラゴンに向かって【風のブーツ】を使って飛ぶ。


(マナアクセル、マナフィジョン)


体から放出するマナを一時的に増やす無魔法と、原子炉のようにマナを分裂させてエネルギーを生み出す無魔法だ。


これで一時的にではあるが、シンジのマナ量はレベル二十万から三十万くらいに上がる。それでもまだドラゴンとは差があるが。


(でも試す、と言ってた。ある程度実力を見せれば、倒しきるまではしなくてもいい…はずだ…)


ちょっと自信はないが。たぶんそうだ。


「グラビティ!」


カナタが叫ぶ。ドラゴンに重力をかけようとしていれようだ。ドラゴンが一瞬よろめく。


(絶空!)


ドラゴンが体を捻って避けるが——先ほどより範囲を広くしてある。翼を掠って、浅く斬る。


(よし浅いけど入った!)


『合格だ』


ドラゴンがいきなり言う。


「…もう戦わなくていいということか?」


一応確かめる。これで実は言葉での揺さぶりで戦いは続いているとかだったら洒落にならない。


『そうだ。では伝言を伝える』


(切り替え早すぎだろ…)


『お前たちが思っているより世界は広い。心して準備せよ』


また、備えろ系の伝言だ。


(備えるって、何に…?魔王かとも思ったけど、そうすると世界は広いの下りの意味がよくわからないな…)


『確かに伝えたぞ』


そう言うと、前回と同じくレインボードラゴンの姿はかき消えた。


「シンジ、大丈夫?」


「ああ、瞬間だったからな。全然大丈夫だ」


マナアクセルとマナフィジョンは、マナを多く消費するのはもちろん、体にもかなり負荷がかかるのだ。


「とりあえず生き残れたね」


「ああ、殺す気はなかったような気もするが」


「それはそうかもだけど。戦ってるうちにあっさり死ぬってパターンもあるよ」


「それはそうだよな」


「にしても倒してないからアイテムもなしかぁ」


「やってられないよなぁ」


と言いつつ、二人は改めて石碑を確認し、今度こそ【脱出石(特)】でダンジョンを出た。

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