第36話 打診
最初に呼ばれたのは関根アカネだった。ランキング順なのだろうか。
アカネが呼ばれた部屋に入ると、一位と二位の二人が長机の向こうのパイプ椅子に座っていた。こちら側にはパイプ椅子が一つ。
面接か??
「来てくれてありがとう。とりあえず座ってくれる?」
カナタが声をかける。
「なぁ、あんたらってほんとに強いのか?」
が、アカネは座りもせずに尋ねた。
「強いは強いかな。あなたたちなら束でかかってきても一瞬で勝てるくらいには」
特に気負うこともなく答えるカナタ。
「言ってくれるなぁ!じゃあ見せてみろや!アイスバインド!」
アカネが唱えると、二人の下から氷が生え始めた。
自制がきかないタイプらしい。いや、周囲に被害を及ばさない氷魔法を選んでいるあたり、自制してるのか?
「『無効』」
シンジが唱えると——唱える必要はないが、唱えないとアカネが何が起こったか認識できないだろうから——氷は一瞬で消えた。
相手より多くのマナさえ込めれば、ほぼ全ての魔法を無効化できる無魔法だ。格下を相手にするなら最強の魔法の一つである。
「……!」
「その程度の魔法じゃ、この先立ち行かないぞ」
驚愕の表情のアカネに告げるシンジ。
「一位と二位は伊達じゃねぇってことか…」
悔しそうに呟きながら、アカネは椅子に座った。
「まぁそういうことだ。さて、今回関根には三つの魔法スキルを用意してみた」
なぜ全て魔法スキルかというと、賢者は魔法以外に適性がないからだ。その分、魔法は全ての属性に適性がある。ちなみにシンジが鑑定したアカネのステータスはこちら。
【ステータス】
名前/性別/年齢: 関根アカネ(女性、18)
レベル: 3778
ジョブ: 賢者(神話/ユニーク)
適性: 魔法(神話/火、風、水、土、雷、氷、闇、重力、光、空間、無)
シンジが紙をアカネに渡す。
そこにはアカネの名前と、スキルが三つ書かれていた。
《関根アカネ/賢者
1, 『反射』: 最上位無魔法。相手の攻撃を反射する
2, 『ダークブラスト』: 最上位闇魔法。爆発攻撃。相手のいるところを起点に爆発が起こるので防ぎにくい。
3, 『転移』: 最上位空間魔法。任意の場所に転移する。距離は込めるマナに比例する。ただしダンジョン内から外、あるいはその逆は不可。》
アカネが絶句した。
(なんだ!?このものすげぇ魔法は!どれも最上位かよ!!)
「もし不満や要望があれば言ってほしい」
「…いや、これで不満とかあるわけねぇだろ?ってぇかほんとに持ってんのか?」
「ここに三つともある。一つを先払いにするから、もし受けてもらえるならどれがほしいか言ってくれ」
シンジがアイテムボックスから三つのスキルスクロールを出して並べると、アカネはそれらを凝視した。よほど欲しいらしい。
「…わかった。受けてやんよ!先に『反射』をくれ」
「交渉成立だな。これが『反射』だ」
シンジがスクロールを一本渡す。
アカネはそれを手に取るとまじまじと見つめた。
「すげぇな、最上位魔法は初めてだぜ」
そう言いながら、スクロールを開く。瞬間、スクロールは少し光ると、そのまま粒子になって消えた。
「ほんとに覚えたぜ…」
「じゃあダンジョンだな。とりあえず、レベル千超えの五人で中位ダンジョン二つを攻略してほしいと思ってる。組み合わせの希望はあるか?」
「それなら、緑山と京極は別がいいぜ!緑山は気持ちわりぃし、京極はジョブが被るからな」
緑山は気持ち悪いらしい…。
京極についてはもっともな意見である。『賢者』は京極の『大魔法使い』の完全な上位互換だ。一緒に探索するメリットはほとんどない。
「ってぇか、その中なら椿とあたしで、緑山・京極・風淵の三人しかねぇだろ!緑山と京極だけだと危ねぇからな」
確かに、『盾の騎士』椿が守っている間にアカネが後ろから魔法で敵を吹き飛ばす、という組み合わせはありだろう。
そして、もう一チームは『魔剣士』の風淵が前衛、『大魔法使い』の京極が後衛、『緑の手』の緑山が遊撃とサポート。バランスは良い。
「確かにな。わかった。その方向で他のやつらにも打診する」
「ああ。前払いをもらったからにはきっちり働くからな!安心しろよ!」
「あ、待て待て、一応契約書準備してるから。サインよろしく」
「めんどくせぇな!」
と言いつつ、アカネはきっちり中身を読んでからサインした。
———
その後の交渉も順調に進んだ。レベル千超えの残り四人も特に異論はなく、アカネの提案した通りの組み分けで進めることになった。
「希望のスキル…ですか?」
今は氷見シズクとイツキが二人の前に座っている。銀髪の美人双子だ。といっても弟のイツキは男だが。
「ああ。とりあえず剣聖には神話級『剣術』は準備したんだが、他二つは何がいいかと思ってな」
ちなみに氷見シズクのステータスはこちら。
【ステータス】
名前/性別/年齢: 氷見シズク(女性、16)
レベル: 901
ジョブ: 剣聖(神話/ユニーク)
ランキング: 2003
適性: 剣術(神話)、錬金(神話)、鍛治(神話)
剣聖だが、いや、だからか、錬金と鍛治の適性があるのだ。
「戦闘スキルは正直神話級『剣術』一つあれば十分だからな。もし鍛冶や錬金希望ならそっちのスキルにするし、戦闘スキルがいいなら剣術系列のちょっと変わったスキルもある」
「錬金や鍛治には正直興味ありませんわ。戦闘スキルにはどんなものがありますの?」
完全にお嬢様言葉だ。どこかのご令嬢なのだろうか。まぁ、出自はどうでもいいことではあるが。
「そうだな…『剣影』という幻影を見せるスキルとか、『剣の盾』っていう盾を発生させるスキル、それから『剣舞』っていう自動で自分の体を動かすスキルとかがあるな」
「それでしたら『剣影』と『剣の盾』をお願いしたいですわ」
「わかった。それで弟の方だが、基本的に姉と一緒に行動すると考えて差し支えないか?」
もし一人で行動する予定があるなら、それに見合ったスキルを見繕う必要がある。しかし吟遊詩人は基本的にはサポート的な役割なので、サポート系のスキルの方が相性は良い。
氷見イツキのステータスはこうだ。
【ステータス】
名前/性別/年齢: 氷見イツキ(男性、16)
レベル: 796
ジョブ: 吟遊詩人(最上位)
ランキング: 20,096
適性: 魔法(最上位/光、空間、無)、武具(中位)、生活(最上位)、予言(最上位)
「ええ。僕は基本姉さんと一緒ですね」
「なら、このあたりだな」
《氷見イツキ/吟遊詩人
1, 『予言』: 最上位。一ヶ月先のことまで予言可能。
2, 『結界』: 最上位空間魔法。対象の周りに防御結界を張る。結界は移動可能。
3, 『アタックバフ』: 最上位光魔法。対象の攻撃力を上げる。》
「これはすごいですね!全部最上位じゃないですか。予言系列は初めてですね」
イツキは嬉しそうに頷いている。
「じゃあ受けてもらえるってことでいいのか?」
「断る理由がありませんね。ね?姉さん」
「もちろんですわ!」




