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第35話 依頼

その日、『冥界の果て』のクランハウスには日本が誇る高ランカーたちが集まっていた。

レベル千超えが五人。『賢者』関根アカネ、『緑の手』緑山ミドリ、『魔剣士』風淵タイガ、『大魔法使い』京極ヒイラギ、『盾の騎士』椿カズヒサ。

それから『火祭り』、『虹の向こう』、『スカイスクレーパー』の面々である。


なぜまた決して広くないクランハウスなのかというと、情報漏洩を防ぐためである。ダンジョン探索協会の会議室を使う案も出たが、これだけの高ランカーが出入りするとどうしても目立ってしまい、妙な勘繰りをされる可能性がある。


もちろんダンジョン省もNG。ファミレスなど論外である。

消去法でこうなったのだ。


「でぇ?すごいメンツだけど、あたしたちを呼び出したからには大層なスキルスクロールがもらえるんだろうなぁ?」


関根アカネはなぜか最初から喧嘩腰である。少し赤みがかった茶髪を短く切り揃えており、真っ赤なだぼっとしたズボンに、同色のロングの上着を羽織っている。腰には木刀をぶら下げている。『賢者』なのにヤンキーである…。


「ああ、そこは保証する。安心してくれ」


特に気にした様子もなく返すのは前に立っている泉田だ。今日はスーツ姿だ。


「僕は今のスキルでも満足してるけど、もっと植物ちゃんたちと仲良くなれるスキルなら大歓迎だなぁ」


のんびりした口調で呟いたのは緑山ミドリだ。発言の内容から明らかであるが…。


「俺はできればもう少し強い魔法が欲しいな…」


こちらは風淵タイガ。風淵は、上位剣術を持っているが魔法は中位以下しか持っていないのだ。

シンジたちに言わせれば、剣術も上位程度で満足するな、というところではあるが。


「新しいスキル、楽しみですわ!」

「そうだね、姉さん」


性別以外はそっくりな二人が話している。双子の氷見シズクとイツキだ。綺麗な銀髪だ。どこかとのハーフだろうか。


「っていうか俺ら場違いじゃね…?」


呟いたのは『スカイスクレーパー』の今井シュウサク。確かに、『スカイスクレーパー』はレベル的にも、ジョブ的にも、他の面々と比べるとやや見劣りするのは否めない。


「大丈夫だ。厳正な審査の結果来てもらってるからな」


というほど厳正た審査をしたわけでもないが…根拠をもって来てもらっているのは間違いない。


「よし、全員揃ったな!じゃあ依頼者を紹介するぜ!」


今日は支倉はいない。そもそも支倉はダンジョン省の大臣である。実は気軽に会える存在ではないし、そもそも忙しいのだ。


「一位と二位か…」


風淵タイガ、京極ヒイラギ、椿カズヒサ以外は初対面である。雲の上の存在といってもいい二人に会うのはどこか緊張するのだろう、ごくりと唾を飲み込む者もいた。もちろん全く気にしていない人物——関根アカネとか——もいるが。


そこへシンジとカナタがいつもの認識阻害とマスク姿で入ってきた。


「初めまして。二位の山田よ。偽名だけど。よろしくね」


先にカナタが口を開いて自己紹介をした。ほぼ何の新情報も入っていない自己紹介ではあるが。


「俺は一位の佐藤だ。すでに聞いていると思うが、皆にはあるダンジョンを攻略してもらいたい。その見返りとして一人につき三つずつスキルスクロールを渡す予定だ」


ざわりとどよめきが広がる。聞いていたとはいえ、破格の条件を改めて提示されて驚いているのだ。


「そのスキルスクロールってのが実はしょぼいとかいうことはねぇだろうなぁ?」


挙手もせず——しろとも言ってないが——関根アカネが聞いた。


「もちろんそんなことはない。全部上位以上のスキルだ」


「上位以上…!」


普通はお目にかかれないランクのスキルスクロールである。


「全員にか?パーティーにつきじゃなくてか?」


思わず尋ねる『火祭り』の片山リュウ。パーティーごとであれば『火祭り』にはメンバーが四人いるから誰かには行き渡らないのだ。重要なことだ。


「ああ、そう言ってるだろ。全員に強くなってもらうのが目的だからな」


「それがわかんねぇな!どうして他の奴らを強くする必要があんの?追いつかれるの嫌じゃねぇ?」


負けず嫌いなのか、関根アカネはそういう観点らしい。


「はっきり言わせてもらうとスキルスクロールを三つ渡したくらいで追いつかれる可能性はゼロだな」


またざわめきが広がる。


「俺たちはスキルを五百くらい持ってる」


「五百ぅ?ふかしこいてんじゃねぇそ!」


「まぁ信じなくてもいいけどな。あと、なんで強くなってほしいかだな。それは言わなくてもわかってほしいところだが。このままだと日本が滅ぶかもしれないだろ?」


いきなりの重い話に沈黙が落ちる。


「中位のダンジョンバースト程度で大慌てしてるレベルで、この先どうするつもりなんだ?上位以上のダンジョンだっていつバーストするかわからないだろ?」


さすがに「強い俺たちなら大丈夫!」という自惚れた人物はいないらしく、反論はなかった。


「納得してもらえたところで。条件はこちらの指定したダンジョンの攻略。見返りは上位以上のスキルスクロール三つ。どうする?」


「質問いいかな?」


緑山が手を挙げた。


「ああ」


「具体的には何のスキルをもらえるの?僕個人的には植物系のスキルがいいんだけど、レアだし」


希望のスキルがないことを懸念しているようだ。


「一応こちらでスキルを見繕ってある。この後個別で伝える予定だ。不満であればその時に言ってもらえれば可能な限り希望に近いものにする。植物系のスキルもあるから安心してくれ」


「それはありがたいね!僕はやるよ!」


「ちょっと待てよ!安易に決めすぎだろぉ?どんなダンジョンを攻略させられるかもわかんねぇのに」


「ダンジョンは、中位か下位だ。場所は全部海外だな」


「えっと…俺ら国際ライセンス持ってないんだけど」


今井だ。


「それはとってもらうしかないな。そんな難しくないって聞いてるぞ」


さらりと返すシンジ。


「まぁ、そうだけど…」


国際ライセンスは、取得はそんなに大変ではない。ある程度の探索者であれば、大体取得できる。ただし、国によっては国際ライセンスでも入れないダンジョンというのはある。


「スキルスクロールは前払いなのですか?」


今度は氷見シズクが尋ねる。


「さすがに全部前払いは難しいな。一つか二つは前払いで、残りは攻略後だな」


「どうやって攻略したか判定する?」


次々に質問が飛ぶ。


「攻略してほしいのは石碑のあるダンジョンで、ラスボス部屋にはラスボスの代わりに石碑があるはずだ。その中身の報告をもって完了とする予定だな」


そこで質問がいったん止んだ。


「他に質問はないか?この後、個別でスキルの内容を打診させてもらう。不明点はその時に聞いてもらっても大丈夫だ」


特に異論はないようだ。関根も黙っている。イライラはしているようだが、スキルスクロールは欲しいらしい。


「じゃあ、順番に別室に呼ぶから」

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