第34話 スキルスクロール革命
前回から数日後、シンジとカナタはいつものファミレスで落ち合った。
「予言、どうだった?」
「ああ、かなり数があって面倒だった…これリストな」
シンジがカナタにリストを渡す。そこには石碑ダンジョンの一覧が書かれていた。
《カナダ/最下位
オーストラリア/下位
トルコ/下位
スイス/下位
サウジアラビア/下位
ポーランド/中位
オランダ/中位
アルゼンチン/中位
アメリカ/中位
インド/中位
ブラジル/上位
インドネシア/上位
メキシコ/上位
イギリス/最上位
韓国/神話》
「15個…確かに多いね。これまでわかってるのと合わせると合計で24かぁ」
「しかも国も全部バラバラだしな。面倒だよなぁ」
と言っても、転移を使うので国はバラバラでもそうでなくてもあまり関係ないが。
「そっちは何かわかったか?」
「うん、結構発見があったよ。泉田さんと、あとアランベルトと話したんだけど」
「アランベルトと話したのか」
「うん。ついでにスキルスクロール渡す約束しちゃった」
「それは全然いいと思うが」
地球の人々には全体的にぜひ強くなってもらいたい。
「それで、アメリカの石碑の内容聞いたのと、カナダの方も知り合いに聞いてみるって言ってたよ」
シンジにアメリカの石碑の内容を伝える。
「それでさ、泉田さんと話してて発見したんだけど、どの文言も後半だけ共通して英語っていうのが変だって」
「…なるほど、言われてみれば」
言わんとしていることをすぐに理解したらしく頷くシンジ。
「何か意味があるだろうって話にはなったんだけど、その意味はまだわからなくて」
「とりあえず他の石碑の内容見て、かな。あと15個もあるが…アメリカとカナダを抜くと13か」
「それでね、思ったんだけど。スキルスクロールを渡す代わりに、石碑ダンジョンを攻略してきてもらうのどうかな?」
スキルスクロールをタダで渡すのは微妙だ。
かと言って、値をつけるのも難しい。ならば、依頼への見返りとするのはどうか?と考えたわけである。
スキルスクロールを渡せて、石碑の内容がわかり、みんなが強くなる訓練にもなる。一石三鳥だ。
「確かに、中位ダンジョンまでならありだな」
「そうそう、上位以上なら五個だけだし。私たちで回ればいいよね」
「一個くらいはアランベルトに回してもいいかもな。でも、基本はそれで」
そういうことになった。
———
「それで、いよいよスキルスクロール革命か?」
支倉は、一位と二位の二人に冗談めかして聞いた。
場所は『冥界の果て』のクランハウスだ。その名の通りクランが所有する家で、クランメンバーが寝泊まりしたり、打ち合わせをしたりするのに使われている。池袋の近くにある二階建ての広めの一軒家だ。
『冥界の果て』は20人ほどのクランで、クランハウスもさほど大きくはないが、リビングにはソファがいくつか置いてあり、ある程度の人数で集まれるようになっているし、応接室もある。
さすがにファミレスで大臣と会うのは目立つ。かといってダンジョン省に行くのもさすがに…ということで、泉田が場所を提供してくれたのだ。
「そうだな。ポーションほど大々的にはやらないが、スキルスクロールも少しずつ放出しようと思ってる」
シンジが何でもないことのように言うと、支倉は目を細めた。
「…本気か」
「もちろん。が、さすがにタダでというわけにはいかない」
「当然だな」
「そこで、だ。今、俺たちは石碑のあるダンジョンについて調査をしている」
「らしいな」
予想はしていたが、やはり泉田と支倉はかなり密に連絡を取り合っているようだ。片方に言えばもう片方に伝わっている。カナタとシンジの場合もそうだが。
「それで、石碑ダンジョンの調査依頼の報酬としてスキルスクロールを提供することにした」
「なるほど。石碑ダンジョンの場所はわかっているのか?」
「ああ。しかし全部海外だな」
「海外か…そうすると国際ライセンスを持ってる者でないと難しいな。まぁそれはとらせればいいが。しかし国によっては国際ライセンスでも無理だぞ」
「そうなのか。これがリストなんだが…」
カナタに渡したものと同じ内容の紙を支倉に渡す。
「おいおい、上位以上のダンジョンはそもそも厳しいぞ」
「わかってる。それは俺たちで回る予定だ」
「中位以下で言うなら…サウジアラビアと、確かアルゼンチンもか。この二つは無理だな。国際ライセンスが使えない」
「わかった」
「わかったって…本当にわかってるのか?」
日本人は入れないと言っているのだ。しかしシンジは気にした様子がない。
「聞かない方がいいと思うぞ」
ライセンスなしで行くと言っているようなものだ。
支倉は嘆息したが、追求はしなかった。
「神話級もあるが…行くつもりなのか?」
「ああ。大丈夫だ、神話級ダンジョンの踏破経験もある。死にはしないだろ」
「神話級の踏破経験とは…本当にお前ら何者なんだ」
「ただの一位と二位かな?」
「ただの、ではないだろ…」
泉田が横から突っ込んだ。シンジはただ肩をすくめた。
「そうすると、依頼するのは中位以下のカナダ、オーストラリア、トルコ、スイス、ポーランド、オランダ、アメリカ、インドだな」
「あ、アメリカとカナダはアランベルトからの情報があるから大丈夫」
「なら六個か。中位三つは千超えの五人と、『冥界の果て』で、残りはその下のランカーに依頼する形だろうな」
中位ダンジョンの踏破適正レベルは千である。そのあたりでないと攻略は厳しいはずだ。
「そうだな。依頼を出すにはどうしたらいい?」
「探索者への依頼というのは特に決まったやり方があるわけではないな。君たちはツテがないだろうから、泉田君に代わりに連絡をとってもらう形がいいんじゃないか?」
「泉田さん、頼めるか?」
「スキルスクロールをタダでもらってるからな。それくらいお安い御用だ」
泉田が頷く。
「対象は、この間言ってたスキルスクロールを渡しても問題ない人間にしたい」
「千超えと俺たち以外で攻略するのは下位三つか。下位なら正直誰でもいけると思うが、なるべく千に近いパーティー三つが良いだろうな。今後のためには」
スキルスクロールを渡す目的は強くなってもらうためである。最初から強いに越したことはない。
まぁ、才能があるけど低レベルに甘んじてる者もいるだろうが。
「レベルもそうだけど、なるべくジョブランクが高い人がいいんじゃない?」
カナタが口を挟む。
「それはそうだな。転職オーブもあるにはあるが、数がそんなにないからな…」
「転職革命はまた今度にしてくれ…」
疲れたように呟く支倉。
「ああ。じゃあ、レベル500から1000で、ジョブランクが上位以上で、泉田さんのお眼鏡に叶う奴を選んでほしい」
「わかった。まぁレベル500超えは大体上位以上のジョブだから問題ねぇな。そうするとこのあたりかな」
泉田は紙を取り出した。どうやらすでにある程度ピックアップはしていたらしい。
パーティーの一覧から三つに丸をつけて二人に見せた。
◯『火祭り』: 片山リュウ/火魔法使い(最上位)、安藤ヒカリ/大魔法使い(最上位)、横田ユウスケ/剣の騎士(最上位)、風谷ルナ/大盗賊(最上位)
◯『虹の向こう』: 氷見シズク/剣聖(神話・ユニーク)、氷見イツキ/吟遊詩人(最上位)
◯『スカイスクレーパー』: 今井シュウサク/光の騎士(最上位)、鈴木ユウナ/盾の戦士(上位)、皇コハク/治癒師(上位)
「え?こいつらまだ千いってないのか?」
それが真っ先に浮かんだシンジの感想だった。
三つ目はともかく、一つ目の『火祭り』と二つ目の『虹の向こう』は——バランスは多少悪いものの——ジョブを見た限りすぐ強くなりそうなものだが。
「ああ。スキル不足が原因だな。スキルスクロールがなくても自然にスキル覚えるパターンがあるだろ?あれ、覚えやすいやつと覚えにくいやつがいるみたいでな。覚えやすいやつの筆頭がローランド・アランベルトだな」
「なるほど、だからアランベルトが三位なのね」
カナタは納得したように頷いた。
「それにしてもちょっとパーティーのバランスが悪いか?斥候と回復が少ないよな?」
この中で言うと、斥候ができるのは大盗賊と吟遊詩人。回復は、できるできないで言えば大魔法使い、吟遊詩人、光の騎士もできるが、専門は治癒師だけである。
前衛、後衛、回復、斥候、が基本だった異世界からすると、ややバランスが悪いように思えてしまう。
「斥候と回復は数が少ない上にレベルが上がりづらいからだな」
レベルが上がりづらいと、上位パーティーの探索についていくのは困難だ。
「そこをうまく上げてくのもパーティーの仕事だろうが」
「まるでバランスのいいパーティーを組んだことがあるような言い方だな」
一瞬答えに窮する。確かに二人も側から見ればバランスが良いパーティーには見えないのかもしれない。事実、異世界ではあと何人か一緒にパーティーを組んでいた。
「まぁうちは俺が後衛と斥候と回復だな」
「佐藤が斥候の時は私が後衛だけど」
とりあえず誤魔化しておく。
「…まぁ、いい。とにかく一度千超えの連中とこいつらを呼び出すから、依頼交渉は直接してほしい」
「そうだな。スキルスクロールを持っているのは俺たちだし、その方がいいよな」




