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第30話 残滓

微修正しました。大筋に影響はありません。

ーー火が燃えている。


「ここはもうダメだ、撤退する!」


ーー熱い。痛い。


「走れるか?」


ーー無理。でも走るしかない。


「行くぞ!」


ーーいや、そっちはダメだ…!!なぜならそっちには…。


ザシュッ!


シンジは無意識に手に持っていた杖で闇を払った。

瞬間、熱さと痛み、焦燥感が消え去る。


「ほう、早いな」


目の前には、真っ黒なピエロがいた。丸い鼻までが黒い。まるでただの影のようだ。

先ほどのはこいつの精神攻撃である。よくあるやつだ。過去の嫌な記憶を呼び起こす系の…。


「鬱陶しい真似するな」


「残念。せっかくやり直すチャンスをやったのに…」


闇ピエロはくつくつと笑った。


「バカ言うな。お前のような雑魚に過去を変えられるわけないだろうが」


「やり直したいのは認めるわけだ」


「うるさい」


こういう闇系モンスターーー魔族かーーとは言い争っても無駄である。シンジは予備動作なしで『アークライト』という神話級光魔法を放った。


「ぎゃ!」


短く悲鳴を上げて、闇ピエロはそのまま消えた。鑑定したが、レベルは三万くらいだった。文字通り雑魚である。

先ほど思い出させられた記憶のせいで嫌な余韻はあるものの、もう実害はない。いや、最初から実害はなかったか。


「カナタは大丈夫かな…」


ここは50階層のボス部屋である。あの後もダンジョンの攻略は同じ感じで進んだ。闇、闇、闇、ボス、闇、闇、闇、ボス。という感じだ。

そして節目の50階層。一人一人が別空間に飛ばされるタイプのボス部屋だった。

ちなみにこれは転移トラップとは異なる。転移トラップは対策ができるがこちらは今のところ対策がない。

素直に分断されるしかないのだ。


まぁ、所詮レベル三万の闇ピエロである。カナタがどうこうされるとは思えないが。


「あ、シンジ」


闇ピエロを倒したのだろう、カナタの声がした。ちなみにこのタイプのダンジョンはご丁寧に人数分のボスがポップする。無駄にマメである。


「よ、終わったか」


「うん。久しぶりに異世界のこと思い出しちゃったよ」


「サラのことだろ?」


「そういうシンジこそ、どうせアーサーさんのことでしょ?」


「まぁな」


二人は顔を見合わせて肩をすくめた。

異世界に召喚される前も仲は良かったが、召喚された後は文字通り全ての苦楽を共にしている。お互いのことは大体わかる。

それぞれが闇ピエロのダシにされそうな出来事だってお見通しだし、それを軽く口に出せるくらいの信頼関係はある。


サラは聖女として二人と旅をしていた仲間で、アーサーは騎士団長だった男である。


「ほんとうざいよね、闇ピエロ!もっとギッタンギッタンにしてやりたかったわ!」


「気持ちはわかる。雑魚すぎるよな」


「しかもドロップがマナストーンとは…しょぼすぎ」


「そういえばドロップ拾ってなかったな」


シンジがそちらに目を向けると、腕輪が落ちていた。


「お、アクセサリーだ。当たりか?」


鑑定すると、【言語理解の腕輪】だった。他言語が理解できるようになるアレだ。


「なんで闇ピエロが言語理解?」


まぁ、アイテムは得てして脈絡のないものであることが多いが。


「珍しいね」


「そうだよな、特に必要はないが言語理解のアクセサリーは初めて見た気がするな」


とりあえずアイテムボックスにいれておく。


「まぁでもこれで折り返し。多分残りも同じような感じかな?」


最上位ダンジョンは大体百階層前後でたる。


「それなら楽でいいな。ただ暗いだけだし」


それから二人は次の階層へ続く階段を降りた。


———


結局、その後も特に変わった展開はなかった。もちろん変わった展開を望んでいるわけではないが。

ただ、途中で迷路型のフロアがあったりして時間がかかり、結局ダンジョンの中でニ泊ほどしている。

泊まる時はそれぞれがテントを張って、その周りに結界を張り巡らせるので特に危険も負担もない。


「よし、ボスフロアだ」


二人が99階層から100階層へ降りると、そこはまた広い空間のようだった。

これまでと違って強力な気配がする。

前を見ると、部屋の中央には夢で見た石碑があり、上にはレインボードラゴンがいた。


「当たりだ。夢と同じだ」


『待っていた』


人とは明らかに発声の仕方が違う声がした。

二人は上を見た。誰が声を発したかなど聞くまでもない。この部屋にはレインボードラゴンと二人以外の気配はない。


「俺たちを待っていたのか?」


レインボードラゴンは浮いているが、特に羽ばたいたりはしていない。風圧もない。魔法で浮いているのだろう。


『人間を待っていた。そなたたちかは知らぬ』


「何のために?」


『伝言だ』


「…伝言?誰から?」


『それは言えぬ』


それは果たして伝言と言うのだろうか?言葉を伝えるなら伝言と言うのかもしれないが、何か違う気もする。


『一度しか言わぬ。心して聞くが良い』


「わかった」


ここでごねても仕方ない。こういう場面でそういう問答が無駄であることは異世界で学習済である。どうせ聞くしか選択肢はないのだ。


『石碑を見て備えよ』


「…え?それだけ?」


『そうだ。確かに伝えたぞ』


それだけ言うと、レインボードラゴンの姿が揺らぎ始めた。

幻影が?と言いたくなるが、実体はある。転移の一種だろうか?

程なくしてレインボードラゴンの姿がはかき消えた。


「え?今の伝言意味あった?ここまで来て石碑見ないとかないよね?」


「石碑の内容を重視しろって言いたかったのか?相手は人間であれば誰でも良かったっぽいな…」


言いながら石碑の前に立つ。とにもかくにも石碑を読まないことに始まらなさそうだ。

石碑は二人より少し高く、人が両腕を広げたくらいの幅があった。

二人はその石碑を読むべく目を向けた。


《二つの ——Darkness》


石碑にはそれだけ書いてあった。

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