表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/69

第27話 初日

その後の数週間はあっという間に過ぎた。

途中でアランベルトと取引したり、ヨツバとアヤセに会ったり、気になることを調べたりはしたものの、もっぱら探索者ライセンスとポーションの紐付け問題に取り組んでいた。


最終的には、探索者ライセンスを瓶の上にかざすと瓶にライセンスが登録され、登録されたカードが半径一メートル以内にないとポーションの蓋を開けられないようにした。ついでにポーションは瓶を割った場合は効力を失うようにしてある。奪って割って使うというようなことを防ぐためである。


ライセンスの登録は『登録』、カードの認証は『認証』というオリジナル魔法でやっている。


ーーオリジナル魔法。基本的に魔法というのはスキルスクロールから覚えるもので、オリジナル魔法というものはない。が、例外がある。

それが神話級の無魔法『マジッククリエイト』によるオリジナル魔法である。厳密にはオリジナルの効力を発揮するだけで、魔法自体は『マジッククリエイト』だ。


これを一千万のポーション瓶にかけ終えたのが一週間前だ。ちなみにポーションが一千万個なのは、日本の探索者の人口がそこまで多くないからだ。何千万個はまだ必要なかったのである。


そこから各地のダンジョン探索協会へ搬送され、今日からいよいよ販売開始だ。

各地のダンジョン探索協会には道路まではみ出して長蛇の列ができているという…。数は十分全員に行き渡るほどあるのだが、これまで供給が少なかったため本当に足りるのかみんなが半信半疑なのだ。


「なんとか間に合ったか…」


シンジとカナタはダンジョン省の応接室で大臣の支倉、そして泉田と会っていた。

支倉は前回よりだいぶ疲れた顔をしている。

今回、関係各所への連絡や調整に奔走したのだ。

相当大変だったと思われるが、有言実行で、ちゃんと一ヶ月で終わらせているのは素直に賞賛に値する。シンジの中で支倉の評価はかなりあがっていた。


シンジはマスクをとって置かれていたコーヒーを口にした。


三人が驚いたようにシンジを見た。


「…マスクはいいのか?」


「ああ、どうせこの顔も本物じゃないからな」


これまで隠していたことを暴露するシンジ。


「顔も本物じゃない!?」


「ああ。マスク越しでも大体誰かはわかるだろ?それじゃ不安だからな。認識阻害という魔法で顔自体を誤魔化してる」


「徹底してるな…」


「何があるかわからないからな」


しれっと答えるシンジ。

しかし、今まで隠していたことを一部とはいえバラしたのはシンジなりの信頼の証である。


「それで、ポーションの売り出しは順調なのか?」


「今のところは大丈夫そうだ。長い列ができているくらいで特にトラブルはない」


「それは良かった」


「ところで泉田君からは、今回の件、魔王の城の件がきっかけと聞いているが」


「そうだな。このままだと日本が滅亡しそうだったからな。なんとか日本全体の戦力を底上げしないとと思ってな」


「魔王の城がバーストしたらそうだろうな…」


憂鬱そうに呟く支倉。


「まぁそれはまだ先だから大丈夫だ」


「確かに一般的にはランクの低いダンジョンからバーストするとされてはいるが、根拠のある話ではないぞ」


「そうじゃない。俺には『予言』という一年先まで文字通り予言できるスキルがある」


「一年先!?」


これまで知られていた予言系のスキルでわかるのはせいぜい数日先までである。


「ああ。それで調べたところ、向こう一年、いや正確にはあと11ヶ月か。それまでは少なくとも魔王の城はバーストしない」


「それはありがたい情報だな。しかし一年か…」


「もちろん一年経ったらバーストするわけじゃない。一年以上先はわからないだけだ」


「なるほど。しかし、入り口のところのボスがレベル五万だろう?正直一年でどうこうできるレベルではないな」


「それはそうなんだよな…」


ポーション作戦自体は良いし、必要なものだったと思うが、焼け石に水感は否めない。


「言いたくなければ言わなくてもいいが…二人はどうやってそこまで強くなったんだ?そこにヒントがあると思うのだが」


問われて、シンジとカナタは顔を見合わせた。さて、どう答えるか。少し逡巡してから、


「それは…ちょっとまだ言えないな。一つ言えるのは、真似するのは難しいということだな」


とりあえず相手が一番気になっているだろうことを答える。二人が強くなった要因はいろいろあるが、一番は異世界で5年過ごしたことだ。これは真似できないだろう…。


「そうか…真似は難しいか」


「そうだな…ああ、でもあれがあるな」


ポーションに気を取られて意識していなかったが、他にも供給できるものはある。ポーションよりよほど強力なものが。

シンジは、ちらりとカナタを見る。カナタは肩をすくめた。お好きにどうぞ、ということだ。


「驚かないで聞いてほしいんだな」


「その前ふりは絶対驚くやつだろ!」


泉田が突っ込む。


「まぁ、そうかもしれないが。実は、スキルスクロールも大量に持っている。一部なら提供してもいい」


「スキルスクロール!!」


「ポーションだけで革命とか言われてるんだぞ…次はスキルスクロール革命か?」


支倉が疲れたように呟く。


「しかしポーションよりよっぽど難問だな。誰に何を売るのかが非常に難しい」


「まぁ、一応そういうのもあるということで」


「いや、それなら…泉田君にちょうどいいスクロールはないか?スキルスクロールはばら撒くより強い人間にちゃんと選んで渡した方がいい」


「それは一理あるな」


ポーションは誰が使おうと傷が治るという平等の効果をもたらす。しかしスキルスクロールの場合、きちんと生かせなければ逆に自信過剰になってその身を危険に晒す可能性だってあるのだ。


「っていうか、泉田さんってジョブ何だっけ?」


「そういえば言ってなかったな。ウィンドウオープン」


【ステータス】

名前/性別/年齢: 泉田ケンゴ(男性、37)

レベル: 936

ジョブ: 指揮官(最上位)

ランキング: 845

適性: 魔法(最上位/火、風、水、土、雷、氷)、武具(最上位)、指揮(最上位)、魔物(最上位)


「指揮官!!」


今度はシンジが声を上げた。

かなりのレアジョブだ。名前通り『指揮』という珍しい適性をもつジョブで、しかも魔法も武器も使える。


「知ってるのか?」


「ああ、俺たちが知らないジョブはそうないと思うぞ。指揮官はかなり使えるジョブだ。自分で戦っても強いし、指揮官としても指揮スキルを最上位まで使えるからな。むしろなんでこのジョブでまだレベル千になってないんだ!?指揮官は指示を出した奴が戦って勝てば経験値を一部もらえるんだぞ。すぐに強くなるだろうが!」


「そうなのか!?いや、そもそも、まだ指揮スキルを持ってねぇんだよ」


シンジは天を仰いだ。


「マジかよ。え?みんなこんな感じか??だから弱いのか??スキルがないからか??」


歯に衣着せぬ物言いに泉田は苦笑するしかない。


「どんな感じか知らんが、俺が普通だと思うぞ。みんなスキルなんて持っててせいぜい二つが三つだぞ。俺は五つで多い方だな。千超えの連中はもっと持ってるけどな」


途方もない話だ…。シンジはめまいがするような気がした。


「ちなみに一位殿は…」


「その堅苦しい呼び方はもうやめてくれ。佐藤でいい。俺は多分五百くらいか?」


「ごっ…!!」


泉田と支倉が絶句した。


(いや、嘘だろ?異世界では子どもでもスキルは五個くらいは持ってたぞ。やばいな地球)


「なんでみんなが弱いのかようやくわかった。スキルだな。まずは泉田さん。持ってるスキルを教えてくれ」


「中位魔法ファイヤーボール、下位魔法アクア、中位魔法ライトニングスパーク、中位剣術、下位棒術だな」


「…弱っ」


思わず本音が口をついて出た。


「佐藤から見たらそうなんだろうが傷つくからやめてくれ」


「それじゃ最上位ジョブ持っててもほぼ意味ないだろ!!」


ジョブランクが重要なのはそれによってとれるスキルランクが決まるからだ。それなのにそれに見合ったスキルを持っていなければ宝の持ち腐れである。


「だが、これが日本の現状だな。何せ上位ダンジョンはまだ攻略がほとんど進んでない。上位スキルスクロールを手にする機会がほとんどないな」


「…わかった。とりあえず泉田さん。最上位スキル『指揮』と上位魔法『ファイアウェーブ』、最上位スキル『剣術』のスキルスクロールを渡すから使ってくれ」


アイテムボックスからすぐに提供できる使えるスキルをピックアップして取り出す。


「これだけでも、上位ダンジョンの浅い層ならいけるようになるはずだ」


泉田は、シンジの手に現れた三つのスキルスクロールをまじまじと見つめた。


「アイテムボックスか…まぁそれは今更驚きもしねぇな。しかし最上位スキルスクロールがほいほい出てくるのはやばいな。お前らマジで気をつけろよ。殺してでも奪おうとするやつらは掃いて捨てるほどいるぞ」


「今の地球に俺たちを殺せるやつがいるなら見てみたいな」


「不意打ちとかいろいろあるだろうが」


「対策はしてる。それよりもスキルスクロールだ。使うよな?」


泉田はごくりと唾を飲んだ。


「いいのか?いくらだ。正直払えんが」


値段を聞くまでもなく、払えるわけがない。というより、値がつけられない。


「払えないだろうからタダでいいよ。その代わり是が非でも強くなってもらうからな」


「責任重大だな…」


日本を代表するほど強くなれ、というわけだ。


泉田はスキルスクロールを受け取るとすぐに開いた。開けばすぐにスキルは習得できる。

それにしても、思い切りがいい。


「他の高ランカーも似たような感じならすぐにでもスキルを渡すべきだろうな。性格に問題があるやつ以外にはスキルスクロールを渡すから、泉田さんが対象者を選んでほしい」


「それならまず千超えの五人だな。ちょっと個性的なやつもいるが、問題のあるやつはいない」


「わかった。その五人のジョブは聞いたから、スクロールを見繕っておく」


結局ポーションを売り出す初日なのに、なぜかスキルスクロールの話に終始することとなった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ