第23話 仮説
今、シンジは家に一人だ。まぁ、基本的にはいつも一人なのだが。
リビングのカーテンを締め切り、スマホの電源はオフにしてある。
『予言』に集中するためだ。
リビングの中央にあった座卓をどけ、カーペットの上に直接座る。このままの姿勢で一日を過ごすことになるので、楽にあぐらをかく。
「やるか」
一言気合いをいれて、目を閉じる。
まずは、『予言』用の魔法陣を呼び出す。これは『予言』スキルを使いたいと思えば自然に脳裏に浮かんでくる。
その魔法陣の形状に合わせて、実際にマナを注ぎ込む。マナは魔力のようなものだ。
魔法陣にマナを浸透させるのは慣れればそんなに時間はかからない。
浸透が完了したら、そのまま意識を『予言』に全集中する。そこから、どれくらい先について知りたいかに合わせて必要時間集中している必要がある。
今回は丸一日だ。
この「全集中」というのが最初はかなり難しかった。しかし、『予言』スキルを神話級で使える神官がいなかったため、シンジの『予言』スキルはそれなりに期待され、練習するハメになった。
そのおかげで一日の集中もなんとかなるのだ。
暗い部屋でひたすら集中して、シンジは時間が経つのを待った。
———
一方、カナタは、いつものファミレスでヨツバとアヤセを待っていた。
ダンジョンについて情報収集するためである。
ダンジョンスクールは実技が多いとは言え、カリキュラムの中にダンジョンに関する座学も含まれる。ダンジョンスクール生の二人は、少なくとも最近地球に帰ってきたはがりのカナタよりはダンジョンについて詳しいはずだ。
「カナタ、お待たせー!」
程なくして、ヨツバとアヤセが合流した。
「二人とも来てくれてありがとう!」
「カナタに呼ばれたら来ないわけないよね!」
二人が座り、それぞれ飲み物を注文し、軽く雑談してから、カナタは本題を切り出した。
「実はちょっとダンジョンについて調べてて」
「そうなんだ!またどうして?」
「探索人になったからっていうのもあるし、あとはやっぱりダンジョンバーストとかも気になるし。二人はダンジョンスクールでいろいろ学んでるんだよね?」
「一応ダンジョン学っていう授業があるよ」
「どんなことを習うの?」
「うーん、大きく分けると今現在ダンジョンについてわかってることと、まだ解明されていないダンジョンに関することの二つかな。解明されていないことについては、仮説とか、そういうのを学ぶの」
「仮説?」
「ダンジョンがなぜ誕生したかとか、ダンジョンに目的はあるのかとか。あとはダンジョンバーストの原理とかの仮説だね。でもどれも本当に仮説で、正直まだ何もわかってないって感じかな」
ダンジョンが誕生して、まだ三年だ。研究もそこまで進んでないのだろう。
「有力な仮説とかはあるの?」
「有力かはわからないけど、有名なのはいくつかあって。一つが『人類調整仮説』って言って、地球が増えすぎた人類の数を調整するためにダンジョンを発生させたって説」
「その仮説だとウィンドウはどういう扱いなの?」
「人類が滅ぼされないように人類側にも力を与えたって解釈だね」
一応筋は通っている…か?この説だと地球自体に何らかの意思があることになるが。この説の「地球」の部分は、「神様」「管理者」などに置き換えることもできそうだ。
「あとは、『エイリアン陰謀仮説』」
「それは名前で大体予想がつくね…エイリアンが作ったって説だよね?」
「そうそう。ただ、それだと目的は不明だし、ウィンドウの意味もよくわからないよね」
「他には?」
「あとは、ちょっと突拍子もないけど、『異世界侵略仮説』」
異世界、という単語に少しドキッとするカナタ。
「異世界?」
「多分なんかのラノベの影響だと思うんだけど。異世界が地球を侵略しようとしてるって説。でも、これだとやっぱりウィンドウの説明がつかないのと、根拠が何もないんだよね。まぁ、他のもそんなに根拠はないんだけど。でも異世界なんてそもそもあるかもわからないし」
異世界は、ある。
しかし、カナタたちが行った異世界には、地球にダンジョンを作るほどの介入をする技術はなかったし、そもそもダンジョンを作る技術自体がなかった。
しかし、異世界は一つとは限らない。一つあるのだから、他にあっても不思議ではない。
そういう意味では、カナタにとっては異世界仮説は一笑に付すことはできない仮説だ。
「なるほど。いろいろ考えられてはいるんだね」
と言いつつ、どれも仮説の域を出ないものばかりだ。どちらかというと、ヨツバの言う通り、何もわかっていないことがわかった気がする。
「ダンジョンバーストについては何かわかってることあるの?」
「それも仮説しかないんだよね…。ダンジョンバーストが沈静化されたあと、もう一度起こったケースはないから、ダンジョンバーストは一度しか起こらないって説と、一度起こると次に起こるまで時間がかかるって説があるね」
それについては、もし地球のダンジョンが異世界と同じパターンなら、時間がかかるという方が正解だ。
「あとは、なぜかランクの低いダンジョンからバーストしてるんだよね。それで、ランクが低い方がバーストしやすいって説と、何か意味があって低い方からバーストしてるって説があるね」
これは異世界にはなかった現象だ。あるいは、異世界でも太古の昔にダンジョンができた時ーーそんな時があったのか、異世界の誕生とともにダンジョンがあったのかは不明だがーーそういう現象があったのかもしれないが。
「でも結局は、『ダンジョンは意図を持って作られた』のか、『自然発生』なのか、それがわかればいろいろとわかるだろうとは言われてるね。ただ、ウィンドウがある以上自然発生っていうのは考えにくいと思うんだけど」
「なるほど、つまりは謎に包まれてるってことね」
「まぁ、そうとも言う」
「仮説じゃなくてすでにわかってることを聞いてもいい?」
「じゃあ、それは僕が」
今度はアヤセが説明を始める。内容としては、カナタやシンジがこれまで調べたことと大差はなかった。
しかし、説明を聞いて、カナタの中では以前から抱いていた疑問が膨らんでいた。
(やっぱり異世界のダンジョンと似すぎてない?)
ダンジョンとはそういうものだと言われればそうなのかもしれないが。ダンジョンで得られるアイテムも共通だし、ダンジョンゲートの様相も、ダンジョンバーストの起こり方も似ていて、魔王の城まである。出来すぎてはいないだろうか?
そういう意味では、異世界の人たちがダンジョンを作ったわけではなくても、異世界と何らか関係があるのではないか?そう思えてもくる。
「カナタどうしたの?」
考え込むカナタに聞いてくるヨツバ。
「いや…ダンジョンって奥が深いなって思って」
「そうだよね。ほんと謎だよね、ダンジョン」
その後はまた二人のダンジョンスクール話を聞いて、解散となった。
ストックが尽きました...。更新にお時間いただくかもしれませんm(_ _)m




