第20話 トラップ
ステータスを微修正しました。大筋に影響はありません。
パリンッ。
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、何かが割れる音がした。
「全装備の腕輪」に意識を負けると、【妖精の涙】が使用されたようだ。
(やっぱり即死トラップか)
同時に、ダンジョン名がポップアップした。
【神話 魔王の城ダンジョン】
「魔王の城!?」
魔王の城は、異世界にもあった。あったどころか、ラスボスダンジョンであった。文字通り魔王の拠点となっていたダンジョンである。
(こっちの世界にも魔王がいるってことか?いや、それよりも魔王の城ってことは…)
振り向くと、黒い円状のダンジョンゲートが石板で塞がれていた。
魔王の城は、入ってすぐに即死トラップが仕掛けられている上に、初手ボスだ。入り口入ってすぐの場所がボス部屋になっており、ボスを倒さないと出られない。
しかもボスは…。
前を見ると、部屋の中央にドラゴンがいた。
(やっぱりドラゴンか)
そう、魔王の城ダンジョンの一階層のボスはドラゴンなのだ。どの種類が出現するかはその時による。
今回は赤いドラゴンだ。
(フレアドラゴンか)
大体の強さは予想がつくが、念のため鑑定する。
【ステータス】
種族: フレアドラゴン(ボス)
名前/性別/年齢: ー(オス、2)
レベル: 50,031
モンスターを鑑定しても大した情報は得られないのだが、レベルがわかるところが大きい。
また、年齢が2ということは誕生してから2年経っているということだ。ダンジョンのボスは、倒されてもリポップするが、倒されなければそのまま存在する。
この2年、このドラゴンは一度も倒されていないということだ。おそらく最初に人間がダンジョンに足を踏み入れた時にポップし、そのままということだろう。
そんなことを考えている間に、ドラゴンは臨戦体勢に入り、頭部を上にあげている。
ブレスの予備動作だ。
息を吸い込んだドラゴンが、赤いブレスを吐いた。火属性のブレス。
(反射結界)
空間魔法で結界を張る。普通の結界ではなく、当たった攻撃を打ち返すタイプのものだ。
結界に当たったブレスがそのまま跳ね返る。
しかしドラゴンは避けない。
フレアドラゴンに火属性の攻撃はほとんど効かないのだ。
それでも打ち返さないよりは打ち返した方が良いという判断だ。
右手を上げてーー動作は必要ないがその方が戦っている感じがして、集中力があがる気がしているーー、光魔法「ライトレーザー」を放つ。
シンジが待つ数少ない攻撃魔法の一つだ。
光魔法は、そもそも治癒やサポート系の魔法がほとんどである。しかし、「光」にはビームとかエネルギー的な意味も含まれるらしく、そういった系統の攻撃魔法がいくつかある。
「ライトレーザー」はその中の一つで、威力は大したことはないが、スピードが速い。
「ぎゃおおお!」
狙い通りライトレーザーがフレアドラゴンの頭部を貫通する。
そのままドラゴンが倒れ込んだ。
(レベル五万ならこんなもんか)
全く苦戦しなかったが、この分だと行方不明になっているBランクパーティは生きてはいないだろう。今の世界では高レベルとはいえ、せいぜいレベル千。レベルが違い過ぎる。
ドラゴンは粒子となって消え、後には【妖精の涙】が残された。
(やっぱり【妖精の涙】か。正直しょぼいよなぁ)
【妖精の涙】は最上位ランクアイテムだ。神話級ダンジョンで出てくるアイテムの中では大したことがない。しかも、このダンジョンの場合は入り口で必ず【妖精の涙】かそれに準ずるアイテムを消費する。これではプラマイゼロである。
(まぁ、逆に考えれば、これがあればもう一回ダンジョンに挑戦できるってことなんだろうが)
【妖精の涙】を拾って、後ろを振り向くと、ダンジョンゲートを覆っていた石板がなくなっている。
(しかしなんて報告するかなー。レベル五万のドラゴンって言ったら、こっちのレベルいくつなんだって話になるだろうし。かと言って嘘ついてもいずれはバレるんだよな)
しばらくは誤魔化せても、結局誰かがこのダンジョンを攻略し始めたらバレる。しかも、低く報告すると、低いレベルの人間が挑戦し無駄に被害が拡大するだろう。
(そもそも、「鑑定」を持っていることをバラすかどうかだよな)
鑑定について話さなければ、正確なレベルについてもわらかない体でいられるので、報告する必要はない。しかしその場合、本当の危険性がわからず、功を焦った誰かがダンジョンに無駄に突入するリスクがある。
(やっぱり報告するしかないか…)
シンジは足取り重く、ゲートに向かった。
———
シンジがダンジョンを出ると、先ほどと同じメンバーが待ち構えていた。
まだほとんど時間は経っていないから、当然と言えば当然か。
「戻ってきたか!!」
泉田が声をあげる。
シンジからしたら大げさだが、今まで誰も帰って来なかったダンジョンである。そう思うと普通の反応なのかもしれない。
「どうだったんだ?」
「ダンジョンは神話級ダンジョンの【魔王の城】たった」
「神話級!?!?」
これまで、日本にはなかったランクである。他国では神話級ダンジョンがあったという話もあるが。
「しかも入り口には即死トラップ、入ってすぐボス部屋でボスを倒さないと出られない。ボスはドラゴンだ。残念だが、以前入ったパーティは全滅だろうな」
「…待て待て情報が多い。ということは一位殿はこの短時間でドラゴンを倒したということか?」
「そうだな」
「そんなことあり得るのか?」
またもや中村は疑わしげである。なんだか面倒になってきた。
「信じる信じないは自由だが、俺は忠告したからな。あとはそっちの責任で好きにしてくれ」
「いや、一位殿の言うことだから信じるさ。他にわかったことがあれば教えて欲しい」
「ドラゴンだが、レベルは五万くらいだったな」
「…五万!?!?」
神話ダンジョンという言葉よりも衝撃が走る。具体的な数字だけにイメージがつきやすいのかもしれない。
「一位殿は…五万を瞬殺できるわけか…」
事実なので肩をすくめるくらいしか反応のしようがない。
「正直今日一番の衝撃だな。ちなみにレベルは教えてもらえないんだよな?」
「そうだな、レベルは秘密だ」
「レベルを教えられないのならやはり信用できないな。そもそもドラゴンのレベルもどうやって言い切れる?」
言い募る中村に辟易としながらも一応、応える。
「俺は鑑定というスキルを持っている。モンスターのレベルくらい見ればわかるな」
「鑑定持ちか。もうなんでもありだな」
「あと、ドラゴンは【妖精の涙】をドロップした」
これで報告すべきことは全てしたはずだ。
「【妖精の涙】!」
少し前までは誰も知らなかったアイテムだが、シンジとカナタが売却したことで、今は一部の高ランカーやダンジョン探索協会幹部には知られているアイテムだ。
「それはこちらに渡してもらおうか」
「はぁ?なんでだよ。俺が倒したんだぞ」
「こちらの依頼中に倒したのだろう?当然依頼主である我々に渡すべきだろう」
シンジはため息をつく。
異世界にもこういう中村みたいな連中はいた。難癖をつけて自分の思い通りにしようとする奴ら。
「探索中に入手したアイテムの所有権は探索者にあるだろ。依頼は調査だけだった。アイテムについては約束してないから当然俺のものだ」
「ダンジョンの調査依頼ということは探索依頼ではないか。その依頼された探索で入手したのだから我々のものだ」
完全に話が通じない。
「泉田さん、こいつはこう言ってるがどうなんだ?こっちは善意で来てるのに難癖つけられるなら今後は協力できない」
「善意となんだ!依頼料も払ってやってるだろう!」
なぜこんなに上からなんだ?ランキング上位は権力者ではなかったのか?
「中村支部長、ちょっと黙っててくれ」
泉田はシンジの肩を持つようだ。当然の話かもしれないが。
「なんだと!?」
「一位殿、今回は助かった。依頼料は明日中に佐藤殿の口座に振り込む」
中村を無視してとりあえず話を終わらせようとする泉田。
「そうしてくれ。じゃあ俺は帰るからな」
告げた瞬間、シンジの姿が消えた。転移魔法を使ったのだ。
「転移魔法...存在していたのか」
「泉田君!どういうつもりだね!」
しつこい中村に嘆息する泉田。その後もぶつぶつ言い続ける中村をなだめていた泉田だが、だんだん面倒になって、お暇することにした....。
誰かああいう人物の手綱をちゃんと握っておいてほしい....。




