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第2話 検証

「カナ、やったな!!」


シンジは隣のカナタに呼びかける。


「うん、ついに!帰ってきた!」


二人は手は取り合わないもののその勢いで喜ぶ。


「ところで、どこだ?ここ?」


二人が帰還に際して聞いていた話としては、まずは時間の流れはどちらの世界でも一緒だということ。つまり、二人は5年間行方不明だったことになる。これは正直かなりキツイが、どうしようもない。


そして、二人を召喚した地点からなるべく近くでかつ人のいない場所に戻るということだった。


あたりを見回すと、少しの木々と、小さな社がある。


「どこかの神社の境内かな」


「とりあえず、検証しようぜ」


帰還後について聞いている3点目が、ジョブと獲得したスキルは維持されるということだった。現代の地球でそれらが必要な時がどれくらいあるのか?という感じではあるが、一応検証はしておきたい。


「オッケー」


カナタは手のひらを空に向かって開き、その上で小さな火を起こしたり、水を出したり、各属性魔法を最大限弱めたものを順々に試していく。


「うん、いけそう」


「よし、次は俺だな」


シンジも同じように手を開いて光魔法といくつかの無魔法を試す。


「うん、大丈夫だ。あとはアイテムボックスか」


アイテムボックスは空間魔法系列のため、シンジにしか使えない。シンジはアイテムボックスからいくつかのアイテムを取り出す。

手を入れたりする必要はなく、念じるだけだ。


「アイテムもあるな。使う時が来るか知らんけど」


アイテムの中には四肢欠損さえも癒すエリクサーなどもある。これがあれば、現代日本ではまだ難しいーーはずだーー治療が可能になる。しかし、出所を説明できないため使いどころはかなり限定される、というかほぼないに違いない。


「大丈夫そうだし、そろそろ帰ろっか。さすがにここで武器振り回すわけにはいかないし」


武器スキルも試したいところだが、さすがに見つかれば銃刀法違反で逮捕は免れられないだろう。まぁ、使う武器にもよるが。


「そうだな。とりあえず帰るか。あー、俺はいいけど、カナは大変だろうな…」


シンジには、両親がいない。中学の時に事故で他界してしまったのだ。親の持ち家を相続したのと、保険金がおりたのでそれで生活していた。


「まぁ、ありがたいことだけどね…」


一方カナタは仲の良い6人家族だった。カナタが長女だ。


「どういう顔で会えばいいのか」


もちろん、5年のギャップがあるのは事前にわかっていたから、どう話すかは考えてある。とはいえ、かなり無理のある話にはなるのだ。


「とりあえず最寄りの駅探そうぜ」


まぁ悩んでも仕方がないことだ。二人は境内から出て、階段を降りる。


ちなみに二人は帰還前に、日本から喚ばれた時の私服に着替えているので、特に周囲から浮くということはないだろう。


階段を降り切ると、そこは住宅街だった。特に見覚えもなく、もちろん何の特徴もない。


「どこよここ…」


「うーん、誰か通りかかったら聞くしかないか」


と言っている間に角を曲がってきた初老のおじさんに道を尋ねる。最寄りの「宮前平」駅まで徒歩20分だそうだ。以前なら遠く感じただろうが、勇者として活動した二人からはそういった現代日本的な感覚は完全になくなっていた。


しばらく住宅街を歩き、わからなくなったら人に聞き、を繰り返すうちに商店街に出る。


一軒の店先に政治家のものと思しきポスターが貼ってある。その公約にはこう書いてあった。


『ダンジョンの福利厚生を進めます』


「何あれ」


カナタが思わず呟く。


「え、何?」


「あれよ、あれ!公約にダンジョンとか書いてあるんだけど」


「確かに…ダンジョンってなんだよ」


もちろんダンジョン自体は知っている。異世界にはありふれていたし、二人も大変お世話になった。

しかし日本にはダンジョンなどなかった。

あれは実は政治家っぽく書いただけの特に関係ないポスターなのだろうか?しかしそんなものを店先に貼るか?


「謎ねー。何かの略語とか?私たち浦島太郎状態だし」


「まぁ、そうだよな」


とりあえず納得しておく二人。それからほどなくして駅に着き、二人は久しぶりの帰路に着いた。


——


カナタと別れたシンジは、自分の家にたどり着いた。


(あれ、っていうか5年経ってるよな。これってまだ俺の家なのか?)


行方不明者が死亡扱いになるまでは確か7年かかるはずなので、そういう意味では死亡にはなっていないと思うが、家の鍵自体は遠方に住んでいる叔父も持っていたので、何かに使っていてもおかしくはない。


しかしスマホの充電も切れているし、叔父の電話番号なんてもちろん覚えていない。結局試してみるしかないのだ。


意を決して鍵穴に鍵を差し込んでみる。無事に鍵は回った。鍵は交換されていないようだ。

これで赤の他人が住んでる線は薄くなったはず。


「すみませーん…」


一応声をかけてみながらドアを開ける。

返事はなかった。

玄関には靴もない。誰もいないようだ。試しに電気のスイッチを入れてみると、電気はつく。通電はされているようだ。

そうすると、誰が電気代を払っているのだろうか。


疑問に思いながらまずはリビングに入ってみると、以前暮らしていた状態とほとんど変わっていない。キッチンの冷蔵庫を開けてみるが、特に何も入っていなかった。


(誰も生活していないけど管理だけはされてる?)


そういう感じだ。叔父が管理してくれているのかもしれない。


(とにかくスマホの充電だ!)


5年も使っていなかったら、通常は充電しても復活しないだろうが、アイテムボックス内は時間停止されている。劣化はしていないはずだ。


しばらくスマホを充電し、電源をいれてみると無事に画面がついた。SNSのLINUには1563件の新着がある。かなりの数だが5年間の不在にしては大したことがない気もする。


電話は留守電設定をしていなかったのでそちらの着信履歴はわからないが、LINUの方にはかなりの着信履歴が残っていた。


とりあえずメッセージを開いていく。


最新のメッセージはどれもシンジの安否を心配するものや、「見たら返事くれ」という内容。その少し前は返信がないことへのお怒り。そしてその前は日常的な連絡だ。


まずは叔父に「ただいま戻りました。ご心配かけてすみません」と送る。それから、仲の良かった幼馴染にも同じようなメッセージを送っておく。他はまた今度でいいか。


当時高校生だったシンジの交友関係はさほど広くなかった。幼馴染何人かと、クラスメイト、部活仲間くらいだ。そこから5年も経っている。浅い付き合いだった人たちにわざわざ連絡したも困惑させるだけな気がする。


学校もそうだ。今更連絡されても困るだろう。


結果的に、シンジは3通だけメッセージを送ると、


(風呂でも入るか…)


ということにした。



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