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第19話 帰らずのダンジョン

「救助依頼?」


携帯電話を受け取ってから数日も経たないうちに、泉田からSMSが来た。

なるべく連絡しないで欲しいと言ったのに連絡してくるのが早すぎないだろうか。


内容を見ると、Bランクのパーティがダンジョンから帰って来ないので様子をみてきてほしい、必要であれば救助してほしいというものだった。

Bランクのレベル帯は500〜1000。今の世界では比較的高レベルだろう。


(でも、探索者は自己責任だろ?)


そう、探索者は自己責任。保険もおりない。その分見返りも大きい。そういう職業だ。

Bランクともなればそんなことはわかっているだろう。

泉田だってわかっているはずだ。なのになぜわざわざ連絡してくるのか…。


『探索者は自己責任だろ?』


無難に返信しておく。でもなんとなく、それでは済まない気はしている。

案の定すぐに電話がかかってきた。仕方ないので自分に認識阻害をかけてからとる。認識阻害は声も誤魔化してくれる優れものだ。


「急に悪いな」


「そう思うなら遠慮してくれ」


「しかしBランクともなると国にとってもかなり影響力のある存在なんだ。なんとかしてくれという圧力がかかってる」


泉田は、探索協会勤めではなく、探索者のはずだが、それでも国から圧力がかかるようだ。難儀なものである。絶対にそうはなりたくない。


「圧力がかかる度に連絡されても困る。そっちでなんとかしてくれ」


「一位殿からしたら大したことないレベルに思えるだろうが、今の日本にとっては必要な人材なんだ。それに、行方不明になったダンジョンがちょっとヤバいところで、手が出せない」


じゃあなんでそんなところに行ったんだよ!


「…どんなダンジョンなんだ?」


聞いてしまったら行くハメになりそうだが。


「帰らずのダンジョンというところでな。今まで誰一人と帰って来た者がいないダンジョンだ」


「いやいやそんなところ封鎖しておけよ」


「ダンジョンの封鎖はそんなに簡単にできないんだよ…。それでだな、そこは本当に誰も帰ってきたことがないダンジョンでな、ダンジョン名さえもわかっていない。だから通称帰らずのダンジョンだ」


ダンジョン名は、ダンジョンに入ればすぐにポップアップする。ダンジョン名を知るのは簡単なのだ。それなのに、名前さえわからない…?


「名前くらい調査しろよ」


「それを今回調査しようとしていたんだ。ダンジョンに入って、ポップアップを見て、帰ってくるだけの簡単な内容だった。しかし24時間が経った今も帰ってきていない」


「……」


その内容で帰ってきていないとなると、確かにそのダンジョンは普通でない可能性がある。


「入った途端に即死トラップか転移トラップでもあるのかもな。他にもいくつか可能性があるが」


「わかるのか!?」


「まぁ…」


余計なことを言ったかもしれない。


「一度調査に行ってもらえないか?いったんダンジョンに入った瞬間の様子がわかるだけでもいい!その後、対策を考える」


「……報酬は?」


別に報酬が必要なわけではないのだが、報酬なしに受けると際限がなくなる。


「……」


「まさか、無報酬?」


「いやいや、それはもちろんない!一千万円だ。しかし一位殿からしたら端金だろうと思ってな」


意外とそれなりと額であった。もちろんアイテムを売った金額と比べれば大したことはないが、それなりの誠意は感じる。


「…わかった。調査はする」


「助かる!!」


電話越しでも喜びようが伝わってくる。


「場所はどこだ?」


「北海道の十勝だ」


「……」


思ったよりだいぶ遠かった。


「もちろん必要であれば航空費は経費として出すが…」


遠慮がちに言ってくる。


「…いや、不要だ。1時間後に行く」


「なるほど、移動手段があるんだな…」


(まぁ、バレるよな。仕方がない、いずれはわかることだ)


———


1時間後、シンジは十勝の「帰らずのダンジョン」前に着いた。もちろん認識阻害をかけた上で、いつものマスク姿だ。

入り口のところで泉田と、他に何人かが待っている。

今回はカナタに連絡はしたものの来なくていいと伝えてある。


「一位殿!よく来てくれた」


「ああ」


「今日は一人か?」


「そうだな。調査くらいなら一人で十分だろ」


それを言ったら、中位ダンジョンのダンジョンバーストも一人で十分ではあったが。


「しかし一位殿はサポーターだよな…?」


「サポーターだからって戦えないわけじゃない。そもそも戦えなければ一位にはなれないだろ」


「まぁ、それはそうだな」


「ほ、本当に大丈夫なのか?」


泉田の隣に立っていた壮年の男性が口を挟んできた。初対面だ。誰だろうか。


「誰だ?」


「私はダンジョン探索協会十勝支部の支部長の中村という。貴殿がランキング一位というのは本当か?ちゃんと調査できるんだろうな?」


なぜか上から目線な中村。その物言いにちょっとイラッとする。


「疑うなら帰ってもいい」


「支部長、この人が一位殿で間違いない。俺はダンジョンバーストの時も顔を合わせている。せっかく来てくれたんだからもうちょっと配慮してくれ」


「泉田君がそう言うなら、仕方がない」


何が仕方がないんだよ。

と、言いたいのをこらえるシンジ。


「すまないな。中村支部長も行方不明になったBランクパーティが心配なだけでだな」


「まぁ、いい。とにかく入って調査してくればいいんだな?」


「そうだ。とりあえず中に入って、ダンジョン名の確認と、誰一人戻ってこない原因を確認してほしい」


「わかった」


それくらいなら難しくない。

そもそも、誰も帰ってこない原因は入ればすぐにわかるだろう。なんらかのトラップか、入ってすぐに出られないタイプのダンジョンか、どちらかだろう。

入ってすぐ出られないダンジョンというのは、入ってすぐボス部屋で入り口が封鎖されてしまうか、ラビリンスダンジョンといって入り口からは出られず、別の出口を探さないといけないタイプのダンジョンなどだ。


「今回はちゃんと装備してるんだな」


前回、ダンジョンバーストの時はほぼ私服だったが、今回は帯剣しており、上からローブも羽織っている。


「さすがにダンジョンのランクがわからないから一応な」


神話級のダンジョンだった場合、入り口付近でもそれなりの敵が出てくる可能性はある。

備えあれば憂いなしである。

といっても、前回も実はシンジはいろいろと装備はしていた。

シンジがはめている腕輪は、【全装備の腕輪】といって、様々なアクセサリーを腕輪に入れることで同時装備できる優れものだ。例えば指輪は通常一つの指に一つしか装備できないが、この腕輪があれば制限がなくなるのだ。

もちろん、即死トラップを想定して即死回避アイテムの【妖精の涙】も装備済みだ。

しかしもちろんご丁寧にそれを教える必要はないが。


「じゃあ行ってくる。即死トラップであればすぐに戻って来れると思うが、それ以外の可能性もあるからな。まぁ俺は死なないから気楽に待っててくれ」


「即死トラップならすぐ戻ってこれると言えるのは一位殿くらいだな」


どこか呆れたような、感心しているような、複雑そうな泉田。

シンジは肩をすくめて、全く気負わずにダンジョンの入り口へと向かった。


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