第18話 アイテムの行方
ポーションやマナストーンにどれくらいの価値があるのか?
これは難しい問題である。
そもそも何によって「価値」を定義するかによる。
例えば、単純に得られるリターンで考えてみる。
そうすると、下位ポーションであれば簡単な怪我を治し、中位なら骨折くらいまで治し、上位であればそれ以上の大怪我を治す。
しかし、それだけといえばそれだけである。
病院でも可能だし、そうすればポーションを買うよりずっと安く済む。
今現在、ポーションの相場がどうなっているかというと、下位ポーション10万円、中位ポーション100万円、上位ポーション300万円ある。
どう考えても高過ぎる。
ただし、ポーションには病院にない利点がある。
そう、飲めばほぼ瞬時に回復することだ。これは探索者にとって大きな利点である。
ダンジョンで怪我をした時にすぐに使えるからだ。
ダンジョンは一攫千金も狙えるとはいえ、命の危険もある場所。
ある程度の支出をしても安全を確保したい人は大勢いる。
しかし、それでも、だ。
現在のポーションは高過ぎる。一攫千金なんて一握りの人間しか達成しないのだ。それ以外の普通の探索者がそんな金額を出せるのか?
もちろんノーだ。
では、なぜこんなに高いのか?
それは「希少性」と「研究価値」があるからだ。
希少性があればそれだけで相場は上がる。そして現在ポーションは希少だ。ダンジョンでドロップするとはいえ数は多くないし、ドロップしたら自分で使うためにとっておく人が多いのだ。
さらに、研究価値だ。どうやってか、ポーションを人間の技術で再現できないか?回復成分だけ抽出し、濃縮することでより上位のポーションに変化させることはできないか?
そんな研究が繰り広げられている。
まぁ、何が言いたいかと言うとーー。
そんな世間の情勢のおかげで、シンジとカナタにとってはそこまで価値がないアイテムで一財産築けた、ということだ。
初回に売ったアイテムの買取金額は3億円。
その内訳は、
・中位ポーション 100個 x 50万
・マナストーン(中) 100個 x 25万
・上位ポーション 50個 x 200万
・マナストーン(大) 50個 x 50万
・妖精の涙 1個 x 1億
そして2回目も同様のものを売っている。
改めて見るとすごい金額である。
むしろこんな金額で買ってしまってダンジョン探索協会は赤字にならないのか心配である。
結果的に、それは杞憂であった。
『オークション?』
『そう、ダンジョンドロップオークション。通称DDA。これでおそらく私たちが売り払ったアイテムが売却されてる』
シンジとカナタはまたLINU中だ。
『オークションとか、実際にあるんだな』
『びっくりする値がついてるよ』
それによると、
・中位ポーション 150万
・マナストーン(中) 50万
・上位ポーション 500万
・マナストーン(大) 100万
くらいの値が平気でついている…。
特にすごいのが上位ポーションだ。一個500万円。一体誰が買うんだ?
ネットでの反応もさまざまだ。
『悲報: 上位ポーション500万!買えん』
『高すぎね?』
『出回っている量の少なさを考えると妥当』
『政府とか一部の高ランカーが買い占めている』
『庶民に救いの手はないのか!』
『横暴反対!』
『でも実際効果はどうなの?これでしょぼかったらうける』
『複雑骨折を一瞬で治すレベルらしい』
『ダンジョンでは起死回生の一手になりそうだな』
『それはぜひ欲しい。値崩れ起きろ』
『売ってくれ!10万出す!』
『俺は買ったぞ』
『はい嘘〜一般には出回ってないって』
『俺が一般人じゃなかったらどうする?』
『妄想乙』
やはり、政府や高ランカーに買い占められている状況のようだ。
『相場調べた時はびっくりしたけどやっぱりそんなにするもんなんだな』
『私なんて何も知らずに行ったら3億とかいうからビビったわ!』
『俺たちの懐的にはもう売らなくてもいいけど…』
『不定期でも売るって約束しちゃったしね』
『そろそろ携帯電話も準備できてるでしょうし、一度行く?』
『そうだな』
ちなみに、【妖精の涙】はオークションにも出ていなかったので行方は不明である…。
——
いつも通り二人は使者を送り出した。
使者がダンジョン探索協会横浜支部に入ると、番号札を取る前に佐々木に声をかけられた。
「使者さん、お待ちしておりました。どうぞ奥へ」
また、いつもの応接室に通される。飾り気はない部屋だが、その方が落ち着く。
「使者さんこんにちは。今日は二人はいないのね」
宮間がやってきた。
どうでもいいが、この人はいつもすぐ対応に出てくる。他の業務は大丈夫なのだろうか。
佐々木がお二人の前にお茶を置いた。
「はい、二人はなるべく表に出ない方針ですので」
「ふーん」
(タイプ的に、そうも言ってられない人たちだと思うけど)
口には出さないが、この使者と、本人たちと会ってみた宮間の感覚としては、そうだ。
「それで、携帯電話は用意できましたか?」
「ええ、もちろん。スマホと、ガラケーも一応用意したわ。どちらが良いかしら?」
機能としてはガラケーで事足りると言えば事足りるけど、むしろガラケーを持っている方が目立つ時代だーー。
「スマホの方で。もちろんGPSとか、盗聴とか、こっちの情報盗むような仕掛けはないですよね?あらかじめ言っておきますが、そういうのこちらも調べればわかりますから」
「え、ええもちろんよ…」
ちょっと動揺しつつも、スマホの方を使者に渡す。
(危なかったわ!!絶対何か仕込むと言い募るダンジョン省をなだめすかした甲斐があったわ)
「それと、二人の銀行口座よ。悪いけど名義は適当よ」
名義は「佐藤太郎」と「山田花子」になっている…。
「助かりますね」
カードと通帳、ご丁寧に印鑑つきだ。
「とりあえずそこに3億ずつ入れたわ。もし配分が違うようだったら悪いけど自分たちでどうにかしてちょうだい」
この銀行口座も、慎重に使わなければ。
追跡は無理でも、どこのATMでいくらおろした、といった記録は残ってしまうだろう。そこから二人の情報に辿り着くようなことがあってはならない。
まぁ転移があるシンジからすればそこまで難問でないが…。
「あと、泉田さんに連絡先を伝えていただくことできますか?前回聞かれましたので」
「『冥界の果て』の泉田さんね。確かに伝えておくわ」
「それでは今日はこのくらいで…」
メインの目的であった携帯電話と銀行口座は無事入手した。あとは帰るのみ!
「いや、ちょっと待って」
最近いつも引き止められてる気がする…。
「今回は何か売ってくださらないの?お偉方が目を血走らせて待ってるのだけど」
出た!面倒なお偉方!
「お偉方になんの義理もないですし」
この場に現れもしない根性なしに媚を売る必要などない。
「そう言うと思ったから、大したものでなくていいのよ」
「欠けたゴブリンの剣とか…?」
「すみませんさすがにいらない」
「まぁ下位ポーションくらいなら…」
「買った!!」
意外と食いつきが良かった。
結局下位ポーション1000個を10万円で売り、1億円の利益を得ることになった。




