第16話 終結
「終わったみたいだな」
客席にいたシンジが呟いて隣を見ると、宮間と風淵の二人は唖然とした表情だった。
「マジか…まるで相手になってないじゃないか。一位と三位にはこんなに差があるのか?」
(あれ?なんか誤解が…)
一応一位はシンジだ。
しかしわざわざ訂正するのもなんだか自意識過剰な感じがして悩む。
「ブラボー!」
やや憮然としていたローランドだったが、切り替えたのかいきなり声をあげた。
「すごい、ここまで強いとは!完敗だぜ!どうしたらそんなに強くなるんだ?」
悔しがるかと思いきや、尊敬の眼差しだ。
やや面食らうカナタ。
「普通に戦ってきただけだけど…」
「相当強いジョブなんだろうな!ジョブを教えてくれ!」
ジョブが強いのは間違いない。
「え、嫌だけど」
でも教えるいわれはない。
「いいだろ!?『英雄』より強いんだぜ!『化け物』とかか!?」
「いやふざけないで誰が化け物よ」
「カナタ、終わったんなら帰ろうぜー」
シンジが声をかけると、カナタは頷いて踵を返した。
「ちょっと待ってくれ!氷を解いてくれ!ついでに弟子にしてくれ!」
「…はあ?」
いきなりの話に思わず振り返るカナタ。
「ん?なんだって?」
「いや、弟子にしてくれとか言ってるんだけど」
「はあ?」
カナタと同じ反応でローランドを見るシンジ。
「氷は解くけど弟子は無理」
カナタはきっぱり断ると特に動作もなく氷を解いた。
「それだ!トリガーワードの省略!どうやってるんだ?」
「はい企業秘密ー。戦ってあげたんだからもういいでしょ」
別にスキルだよって教えても問題ない気はするが、なんとなく気に食わないのでやめておく。
「待ってくれ!二位の彼とも戦いたいぜ!」
「…はあ?何言ってるの?」
「ここまで来たんだし、いいじゃねぇか!」
「いや、そもそも勘違いしたるみたいだけど、彼が一位だから。私は二位。オーケー?」
「「え!?マジで!?」」
風淵が一緒に驚いている。彼も英語がわかるらしい。まぁローランドに世話になっているそうだし当然といえば当然なのかもしれないが…。
「え?あんなに強くて?一位じゃないのか?」
「そうよ。私に負けたあんたは一位と戦う資格なし!以上!」
「待ってくれ!」
今度は風淵が遮る。
「連絡先を教えてくれ!」
…ナンパ?
「いや、変な意味じゃないんだ。これからダンジョンバーストとか、どうしようもない時に連絡させてもらいたいんだ」
「都合よく呼び出されそうだから嫌よ」
と言いつつ、ダンジョンバーストに間に合わなかったら寝覚め悪そうだなとも思う。しかしそのあたりは探索者である風淵ではなくダンジョン探索協会の領分だろう。
宮間が携帯を準備すると言っているし。
「そういうことで。宮間さん、また使者に行かせるから。じゃ」
そのまま二人は転移した。
「…行っちまったか。強くなる秘訣をぜひとも聞きたかったんだが」
「強かった。思ったよりずっと」
ローランドと風淵が呟くと、宮間も頷いた。
(そう、思ったよりずっと強かったわ…。まさかローランド・アランベルトが全く相手にならないなんて。でも、思ったよりずっと性格はまともそう)
宮間として大事なのはその点だ。
今回、怒らせるかもしれないと思いつつ強硬手段に出た甲斐があった。
使者越しでは、二人の本当の性格は見えづらい。
どういった人物なのか、ある程度把握しておきたかったのだ。
そのためにリスクをとった。
(利用されるのは嫌がりそうだけど、頼られることに否定的ではなかった気がする)
最後に連絡先を聞かれた時も、一瞬だが逡巡していた。
前回のダンジョンバーストに助っ人として現れたことを踏まえても、ある程度お人よしなのだろう。
ただ、二人の関係性はよくわからない。
恋人同士という感じではないが、以心伝心な感じではある。
「宮間さん、今回は助かった」
「ええ、大丈夫よ。こちらとしても二人には会っておきたかったし」
「でも本当に日本人なんだな。いや、椿たちから聞いてはいたけど」
「見た目も言葉の発音も生粋の日本人ね」
「ほんとに今までどこに隠れてたんだか」
「それは、かなりの謎ね…」
一位と二位は謎に包まれていた。
つい最近まで国籍さえも定かではなかったのだ。それなのに、ずっと不動の一位と二位である。
日本でダンジョンに入った形跡もない。
ちなみに、通常はダンジョンに入る時には専用のカードリーダーに探索者証を通すことになっている。決闘のダンジョンは入っても危険がないので特にその制度にはなっていないが。
「いずれにしても、今日本にいて日本人だということが大きいわ。このままなんとしても日本にいてもらわないと」




