第15話 決闘
5人が中に入ると、コロシアムの中に出た。
東京ドームくらいのサイズだろうか。ローランドとカナタはそのまま中心に向かって進んでいく。中心には丸い玉が一つ浮いている。それを二人で触れば決闘が開始される。同時に客席には防御用の結界が展開されるのだ。
あまりにも便利なシステム。ダンジョンには明確な作成者がいると主張する人たちがいるのはダンジョンのこういった部分を根拠にしている。
残った3人は客席に上がり、適当なところに腰掛ける。
「ルールはどうする?」
「どっちかが気絶するか降参するまで。どう?」
「問題ねぇな!」
どうやら審判はいらないらしい。
二人は玉を触ると同時に距離をとるーーのではなくローランドは腰の剣を抜くと待ちきれないとばかりにカナタに斬りかかった。
ちなみにカナタは丸腰である。
「容赦ないわね…!」
カナタは普通にバックステップで避けると、軽く右足で柄の部分を蹴り上げてその勢いでさらに後ろへ下がる。
剣を取り出そうか迷うが、レベル差は明白。必要ないと判断し、代わりに魔法を放つ。
「フレアランス!」
小手調べに軽く中位魔法だ。といってもカナタが打つとかなりの威力にはなる。まぁ相手も腐ってもレベル一万超え。死にはしないだろう。
ローランドは危なげなく避ける。少し距離を置いて対峙する二人。
(どうしようかな。瞬殺でもいいんだけど)
さっき接触した感じだが、やはりというかなんというか、全く相手にならない。レベル差はそのまま能力値の差である。
ゲームのようにAGIとかSTRとかが表示されるわけではないが、レベルが上がるとそういった基礎能力は明確に上がる。
おそらく正面から突っ込んで蹴り飛ばしても勝てる。
(でも逆に加減が難しいな)
物理攻撃は間違うと殺してしまいそうだ。いくら腹が立っていてももちろん殺す気は毛頭ない。
「その程度か!?アースブレイク!」
ローランドのトリガーワードーー魔法の名前みたいなもので、発動する時に使うーーと共に地面に大きなヒビが入る。地割れを起こす魔法だ。
しかしカナタが軽く右足でその亀裂をタップすると、ヒビはあっという間に修復した。
「…!!」
ローランドは明らかに動揺した。避けられるだろうとは思っていたが、まさか発動の途中で妨害されるとは。しかも、カナタはトリガーワードを言っていない。どうやって食い止めたかも不明だ。
「そっちこそその程度?アースブレイクっていうのはこうやるのよ!」
カナタの言葉と共に、ローランドが立っていると場所を中心に放射前状に亀裂が入り、地面が倒壊した。
「ウィンドキャリー!」
ローランドは風系列の飛翔呪文を唱えて逃れるが、この魔法はかなり使い勝手が悪い。自由自在に飛ぶのは難しく、風で自分自身を吹き飛ばす感じの魔法なのだ。
下から上に突き上げるような突風が起こり、真上に飛ぶローランド。
(コントロール悪っ)
しかし、ウィンドキャリーは使いこなせれば言葉通り風で自分自身を運べる魔法だ。ただし、それにはトリガーワードなしでの連続発動が必要になる。
(もしかして、トリガーワードを省けない…?)
その可能性に思い至る。詠唱は破棄しているようだが、トリガーワードは今のところ破棄していない。トリガーワード破棄には通常の上位スキル、詠唱破棄とは別の最上位スキルが必要なのだ。
(それにしても、せめて前に飛ぶとか後ろに飛ぶとかすればいいのに)
真上はないだろう。攻撃にも防御にも移りにくい。
「ライトニング!」
ローランドの言葉と共に空から光が走る。カナタは落ちてきた雷を軽く右手で払う。もちろんただ右手で払っているのではない。雷属性の魔法で打ち消しているのだ。
そのまま左手をローランドに向ける。特に向ける必要もないのだが、動作がないとどう考えてもローランドが反応できさそうなので。
カナタの左手から雷が放たれる。ローランドは避けられないとみて、剣を投げて避雷針がわりにした。
ローランドの着地と共に少し離れた場所に剣が落ちた。
「これで得物がなくなったけど?」
「ようやく互角ってわけだな」
にやりと笑うローランド。しかし内心はもちろんそんな余裕はない。
(トリガーワード破棄だと…聞いたことがねぇ!)
「互角?力の差を示したつもりだったんだけど。早く降参してくれない?」
「するかよ!メテオライン!」
隕石のようなものを射出する魔法だ。カナタは無言で同じ魔法を発動して撃ち落とす。
「……」
先ほどからカナタは、ローランドの魔法発動を確認してから同じ魔法でやり返している。これは、明らかにカナタの方が格上でないとできない芸当だ。
「終わり?じゃあこっちから行くわよ!アイスフィールド!」
ローランドの足元から氷が張り、ローランドの足を絡め取った。
「フレア!」
火の魔法で溶かそうとするが…全く溶けない。込められているマナが違いすぎるのだ。
カナタはゆっくりとローランドの方に歩くと、いつの間にか手にしていた剣をローランドの首につきつけた。
「降参してくれる?」
「…OK降参だ」
ローランドは手を上げた。こうして決闘はあっさりと終わった。




