第11話 ダンジョンバースト
微修正しました。大筋に影響はありません。
ダンジョン前には約百人ほどの探索人が集まっていた。皆それぞれの武器や防具を身につけている。
そして、戦いの前のピリピリとした雰囲気が漂っていた。
「みんな、よく集まってくれたな!」
マイクを持って話す泉田。
「今回は日本初の中位ダンジョンのダンジョンバーストだ!心して臨んでほしい。そして今回は強力な助っ人がいる」
「え、マジで?」
「もしかしてさっきの話って本当だったの?」
「いやでもまさかそんな大物が日本に…」
先ほどの騒ぎについてはすでに皆に知られているらしい。
「みんなが期待している通り、ランキング一位と二位だ!」
おー!!ものすごい歓声があがる。
「では二人から直接挨拶してもらおうと思う」
と言ってシンジにふる泉田。
シンジはマイクを手に取り、
「俺がランキング一位の者だ。本名は言えない。佐藤とでも呼んでくれ」
「佐藤w ありがちすぎる偽名だな」
「私は山田でよろしく。二位よ」
二人が簡潔に挨拶をすると再び泉田がマイクを持つ。
「みんなも知っての通り、ランキング三位のローランド・アランベルトはレベル一万超えだ!ということはもちろんこの二人もだ。油断は大敵だが、自信はもって挑もう!」
おー!!再び盛り上がる探索人たち。
「ではこれからパーティー分けをする。基本的にはいつものパーティーで組んでもらえばいいが、あぶれている場合はこちらで組ませてもらう」
「はいはーい!佐藤さんと山田さんとパーティー組みたいでーす!」
ギャルみたいな若い女性がテンション高めに名乗りあげる。
「佐藤と山田は遊撃とサポートだ。パーティーは組まない」
「えー!ぶーぶー」
場違い感が半端ないテンションである。
という若干のトラブルはあったものの、無事にパーティー分けも終わり、あとは待つだけとなった。残り時間は約30分。いつ始まってもおかしくない。
15分を切ったところでゲートに変化が現れた。通常は綺麗な円を描いているゲートの淵がゆらゆらと揺れ始める。
「来るぞ!ダンジョンバーストだ!」
泉田の声に呼応するようにゲートの境界が曖昧になり、そこからモンスターが溢れてきた。
【極寒の監獄】という名前にふさわしく、ホッキョクグマのようなモンスター、ホワイトベアだ。
「ホワイトベアは適正レベル300だ!ここにいる誰であっても遅れはとらないはずだ!」
泉田が発破をかける。
事前に決めていた通り四人パーティーが三つ前に出て戦い始める。残っているパーティーの中で遠距離攻撃ができる者はゲート付近に向かって魔法や矢を打ち込んでいく。前方のパーティーが疲弊してきたら交代する。
ホワイトベアを特に被害を出さずに減らしていく。
ホワイトベアの次はホワイトウルフだ。適正レベルは500とされている。
ざっと鑑定したところ、ここにいる人間の多くが300-500のレベル帯。普通にやったのでは厳しいだろう。
「バフいくぞ!『リアライズ』!」
シンジの元から光が広がり、全体を覆い尽くす。
「聞いたことないバフだ!」
「っていうか、これ、全員に?どんだけ範囲広いの?」
「言ってる場合か!来るぞ!!」
ホワイトウルフに対しては多少の犠牲は出るだろうと誰もが予想していた。しかし蓋を開けてみたら、むしろホワイトベアより容易くホワイトウルフを葬っている。
「リアライズすごすぎ!?え、これどけだけのバフなの?」
怪我人なくホワイトウルフをおおかた片づけたところで適正レベル700のホワイトサラマンダーの登場だ。
サラマンダーという名前がつくと炎系のモンスターを思い浮かべるだろうが、ホワイトサラマンダーはその真逆で氷系の魔法を操るモンスターである。
「氷魔法が来るぞ!」
「ぎゃぉぉぉ!」
ホワイトサラマンダーの鳴き声に合わせていくつもの氷柱が飛ぶ。いくらバフで強化されていても当たれば死ぬレベルだ。
「『サンクチュアリ』!」
シンジが次に使ったのは光魔法で結界を作るスキルだ。
夥しい氷の氷柱が一斉に壁にあたったかのように砕け散る。
攻撃が丸ごと蹴散らされて動揺しているホワイトサラマンダーに探索人たちが突っ込んでいく。ホワイトサラマンダーは皮もかなり厚く、傷つけるのは容易ではない…とされているがシンジのバフを受けた人々はなんとかホワイトサラマンダーを屠っていく。
「ぎゃぁぁぁおお!」
やがて、一際大きな唸り声をあげて、ゲートから大きな影が姿を現した。
真っ白な恐竜。
「なんだあれは!?」
「暁月、鑑定だ!」
泉田が隣にいる人物に呼びかける。
「え、エキストラボスのホワイトティラノサウルスです!レベル1500!」
「任せて!『雷よ!エレキトリックサンダー』!」
雷が閃き、ホワイトティラノサウルスに直撃した。
「大魔法使い」京極ヒイラギだ。「盾の騎士」椿カズヒサが飛び出したヒイラギを庇うように盾を構える。
ホワイトティラノサウルスは雷を受けて少しよろめいたものの、あまりダメージを受けているようには見えない。
どす!
ホワイトティラノサウルスが足を一歩踏み出すと、そこから氷が張って二人に襲いかかる。それを盾で砕く椿。
「『火よ!ファイアーハザード』!」
業火が絨毯のように広がってホワイトティラノサウルスに襲いかかるが、ホワイトティラノサウルスは口から氷の息を吐くことでそれを相殺した。
「魔法がほとんど効かない、きつい!」
「『マジカルエフェクト』!『シールドアクセル』!」
「魔法バフ」と「盾バフ」をかけるシンジ。
「バフかけたから、もう一回やってみろ!」
(魔法バフ…?聞いたことないんだけど)
と思いつつもう一度魔法を放つ。
「『土よ!アースランス!』」
土を巨大な槍状にして打ち出す魔法だ。
「ぎゃおおぉぉ!!」
ホワイトティラノサウルスが吠えると、その前に氷が蔦のように張ってバリアのようなものを形成した。
が、アースランスはそのバリアごとホワイトティラノサウルスを撃ち抜いた。
「え…強」
自分で撃っておきながらやや呆然とする京極。
しかし、そこで終わりではなかった。ゲートからさらにホワイトティラノサウルスが二頭出てきた。
「おいおい、エキストラボスが三頭ってありか!?」
「さすがに二頭いっぺんは無理!山田さんか佐藤さん一頭お願いしたい!」
「山田!」
シンジがカナタを呼ぶと、ようやくか!とカナタが剣を抜く。
「左のは任せて!」
そう言うとカナタはいきなり跳躍し、ホワイトティラノサウルスに肉薄した。
空中で避けられないカナタにホワイトティラノサウルスは氷のブレスを吐く。
カナタは剣を振り下ろすと、氷のブレスごとホワイトティラノサウルスを豆腐のように一刀両断した。
「…は?え?」
あまりにもさくっと終わり逆に混乱する京極。
「はやく!そっちもやっちゃって!」
言われてハッとすると、また氷のブレスだ。今回は盾で防いでもらう。
「『氷よ!アイスランス』!」
先ほどの土の槍の氷版だ。今度も先ほどと同じようにさくっと倒せてしまった。
「あれ?意外と三頭いけたのか…?」
ようやく終わったのか、ゲートが元の円形に戻っていく。
結果的には適正レベル1500の化け物が三頭も出たものの、危なげない勝利だった。怪我人はいるものの、死者は出ていない。
「すげーー!!!佐藤さん山田さんすげー!!」
「山田さんバフなしで一刀両断してたよね?すごくね?」
「佐藤さんのバフすごすぎ!やみつきになる!」
探索人たちは大盛り上がりである。普通なら死を覚悟して臨むレベルのダンジョンバーストだったのだ。それを乗り越えたのだからテンションが上がるのも仕方がない。
こうしてシンジとカナタの地球で初のダンジョンバーストは終わった。




